メキシコ。ハビエル・アギーレ日本代表監督の母国として注目を浴びる国。
他にも、「タコス」、「テキーラ」、「タバスコ」、「サボテン」、「マリアッチ」などなど様々なイメージで語られるメキシコ。
そんな、私たちにとっても意外と身近なメキシコを北澤豪さんが訪ねた。
メキシコは漢字で『墨』と書く。カラフルなメキシコの街の色とは少し違い、少し不思議な感じがする。
首都メキシコ・シティーに到着した北澤さんが最初に訪問したのは、職業技術教育活性化センター(CNAD)。JICAとともに『プラスチック成型技術人材育成プロジェクト』を実施してきた。北澤さんの訪問が2010年から実施してきたプロジェクトの終了時期と重なったため、セレモニーのゲストとして招かれたのだ。
日本人専門家とメキシコ側担当者から活動の成果や課題などについて説明を受けた北澤さん、集まった関係者に対し、日墨両国がこのプロジェクトを通じてますます良い関係を築くこと、今後も刺激しあいながらwin-winの関係を続けようと話した。今後もCNADと日本の関係は切っても切れないものとして続いていくはずだ。
この後に訪問したさまざまな機関も、長年日本との関係を深め、プロジェクトの実施やボランティアの受け入れ、研修員の派遣など、日本からたくさんのことを学んだところばかりだった。その成果もあり、現在のメキシコは所得も伸び、地域で大きな影響力を発揮している。
メキシコには約2万人の日系人の皆さんが生活している。
日系人の皆さんが建設した日墨会館を訪問した北澤さん、先没者の碑を見学し、協会の戸田会長、中畝事務局長から日系社会の歴史やメキシコ五輪のエピソードなど、面白い話をたくさん聞いた。また、日本で研修し現在はメキシコ社会で活躍している若手の皆さんと今の日系社会の状況や、今後の活動について意見交換もした。日系人の皆さんは今も昔も日本とメキシコの懸け橋となる存在だ。
活動が終わって、庭に出ると、若者たちが北澤さんを待っていた。即席ミニゲームで交流し、記念撮影。どこへ行ってもサッカーでつながっていることが一緒にいる私たちにもとてもよく分かった瞬間。
メキシコには現在4つの日本車メーカー(トヨタ、日産、ホンダ、マツダ)が進出している。この進出に伴い部品を供給する日系企業もメキシコに生産拠点を構え、この日系企業に部品を供給するメキシコ企業の活動もより活発化している。
JICAは2012年から貿易投資促進機関や各州政府とともに「自動車産業基盤強化プロジェクト」を開始した。日墨の複数の企業間で統合的な物流システムを構築し、経営の効率性を高め、成果を上げることを目指す。
今回北澤さんはこのプロジェクトに参加している企業を訪れ、生産性向上の取り組み現場を体験するとともに、社長からお話を聞いた。
日本初訪問から戻ったばかりの社長さんから熱気を帯びた説明を受け、工場に入った北澤さん、「工場のにおいは同じだねぇ」と懐かしそうだ。北澤さんはJリーグが始まる以前、日本リーグの本田技研工業サッカー部に所属し、工場勤務も経験していたそうだ。
工場の中は整理が行き届き、プロジェクトが指導している「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字をとった『5S』の活動が生かされていた。
続いて訪れた第118工業高校では、品質管理を指導するシニアボランティアの元山市平さんが活動していた。指導の要はもちろん『5S』。
学生たちは、元山さんと他の教員とともに実習室のレイアウトや工具の置場を決め、整理整頓を徹底しているそうだ。この活動を行ったことで学生たちも自信をもち、卒業後の仕事にも生かしていきたいという。
また、工科大学でカイゼンの取り組みを学生や現地企業に指導している3名のシニアボランティアの方々にもお目にかかった。
ちょうど、この日は岡田洋シニアボランティアが開催しているカイゼン・ワークショップが行われていたため、北澤さんもその活動に参加した。
参加者が協力して一定のルールのもと工場のレイアウトを実際に作る取り組みだ。
色とりどりのレゴブロックはそれぞれ重さや大きさの違う部品を表しており、参加者たちは工場内の導線を確保し、効率的で動きやすい工場をつくるか、わいわい議論しながらブロックをまとめ、工場のレイアウトを作っていく。
実際に手を動かしてみて初めてわかることも多いようで、参加者は自分たちの職場などに当てはめて今後の活動を考えているようである。
このように日本発のカイゼンの技術はメキシコで『工業高校→工科大学→企業』へ継続して伝えられている。カイゼンの手法を学んだメキシコ人技術者が日本企業に部品を納入する企業に勤めたり、日本車メーカーに就職したりすることで、このカイゼンの活動がメキシコの製造業レベルを高めていくと同時に、日本企業にも良い人材を供給していくカギとなる。
最後に、今回の訪問を終えた北澤さんの感想を聞いた。
「日本のことを謙虚に学び、とても近い距離間で接してくれるメキシコの人たちにとても親しみを覚えました。これはメキシコに移民した私たち日本人の先輩が、メキシコ社会に貢献してきたことが大きな理由だと思います。このため、日本人はとても信頼されていると感じました。また、この国で指導をしている日本の専門家やボランティアの人たちも、メキシコに溶け込み、充実感を持って活動しているように見えました。今日本代表はメキシコ人のハビエル・アギーレ監督が率いていますが、彼も日本人の特性を考えながら指導をしているのではないでしょうか。」
メキシコの現状、日本人移民の歴史、メキシコで活躍する日本の専門家やボランティア、今回も北澤さんはたくさんの現場を訪問した。
読者の皆さんもハビエル・アギーレ監督率いるサッカー日本代表と同様に、メキシコにもぜひ、もっと目を向けてみてもらいたい。