廃棄物問題と水不足…。モロッコ成長産業の陰にある課題に立ち向かう! - エコステージエンジニアリング株式会社(福岡県)

2024.03.25

モロッコでは、オリーブ産業が成長産業となっていますが、オリーブオイル生産量の増大とともに、搾油工場からは環境負荷の高い廃棄物である搾油粕の排出量が急増。オリーブの収穫期には、搾油粕が詰まり水の処理場が停止するなど、地域住民にとって大きな問題となっていました。この難題を解決するべく立ち上がったのが、福岡県のエコステージエンジニアリング株式会社です。今回は、代表取締役の中園英司さんにお話を伺いました。

代表取締役の中園英司さん

同社は、油温減圧式乾燥機により、オリーブ搾油粕を高付加価値な資源化製品に転換する技術を普及させようと試みました。『油温減圧式乾燥機』とは、熱媒体として油を使用し、減圧状態下で食品廃棄物と油を攪拌しながら加熱することで、廃棄物中の水分を急速・均一に分離する技術を用いた製品です。天ぷらを調理する原理と似ていることから、『天ぷら方式』とも呼ばれています。

JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業への応募のきっかけは、コンサルタントからの提案でした。2015年、外務省の依頼でモロッコの開発課題調査を行っていたコンサルタントは、オリーブオイル製造時に排出される搾油粕が原因で引き起こされる川汚染問題に対して、解決できる技術を日本でリサーチしていました。一方、同社は既に九州大教授からの依頼を受け、オリーブ搾油粕の油温減圧乾燥テストの実施していました。そこで、コンサルタントがテストサンプルを持ってモロッコへ再渡航し、カウンターパートに見せたところ、これだ!という反応があり、JICA事業への応募に至りました。

いざモロッコへ・技術優位性の実証成功

『技術は持っていても、意欲があっても、売れるかわからないものをもって、一人で海外に行くのは無理でした。』
同社は、JICAの現地サポート、ネットワーク、費用などの支援を受け、モロッコでの調査を開始しました。そして、オリーブ搾油工場 30 社が稼働するドゥカラット産業団地において、同社の『油温減圧式乾燥機』によるオリーブ搾油粕の資源化技術の有効性と優位性を実証することができました。
JICAの情報を得ることができるのは、ネットワークの少ない企業にとって有難く、このような制度を通して現地の会社や人と話をできるだけでも非常に価値があると、代表取締役の中園さんはお話しされていました。

モロッコにて、オリーブ搾油粕資源化の運転デモンストレーションの様子

立ちはだかる大きな壁

本事業を通して、有効性と優位性は実証されましたが、日本と事情の異なるアフリカ大陸での技術普及に関しては、さらなる大きな壁が二つありました。一つ目は、現地と価格が折り合わなかったことです。技術自体の優位性は実証できたものの、金額面はモロッコの民間企業が許容できる範囲ではありませんでした。二つ目は、モロッコ政府の方針の変更です。政府は搾油工場の廃棄物排出の現状を把握しているものの、干ばつにより事業当初よりもオリーブ業界全体が不振に陥り、環境対策の強化よりも、業界の不満が高まらない対応を優先させる方向へと指針へ転換していってしまいました。そのため、同社が本事業を通して目指す“川の水質汚染対策”の技術の普及は厳しい状況へと変化していきました。

搾油粕の貯められた池

見えてきた新たな切り口

相手国の方針の変更により、本技術の普及は厳しいかと思われましたが、JICA事業終盤での現地への渡航で、新たな切り口が見えてきました。それは、廃水の回収と再利用です。本技術は、オリーブ搾油粕などの水分を多く含んだものを乾燥させ有機物にする技術である一方、その過程で水を完全に分離する技術でもあります。そして、気候変動の影響を受けるモロッコをはじめとするアフリカ大陸にとって水は貴重。同社の製品には、廃水の回収と再利用を機能として持つ技術がある点をアピールし、モロッコ国内での需要を高められるのではないかという提言に至りました。

カウンターパートとなったセブ流域水利局長室での写真

事業を終えて…

本事業を通して、水の再利用という新しい切り口を見つけ、小型の油温減圧乾燥機をモロッコの大学に譲渡することになりました。中園さんは、今ある技術に大学の英知を加えて、5年先、10年先に何か変化をもたらせるのではないかと考えておられるそうです。また、本事業がJICAに採択されたことで、企業としての知名度が向上し、新たな途上国の課題解決への協力依頼が他社から入り、新しいビジネスの機会を得ることにもつながっているそうです。
また、ビジネスである以上、環境問題への問題意識だけでは成り立たない難しさがありますが、ごみだと思っているものがお金になることをアピールするなど、適切なアピールの仕方を見つけることが重要だともおっしゃっていました。
今回は残念ながらビジネス化には至らなかったものの、大きな成果を得た事業となったのではないかと感じました。

モロッコでのセレモニー(デモンストレーション)の様子

(民間連携事業部インターン 木村桜子)

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