社会課題に取り組むことが国内外に良い影響を与えていく - 食品乾燥機メーカーの社長にアフリカ進出の魅力や苦労を伺いました - 大紀産業株式会社 (岡山県)

2024.03.28

大紀産業株式会社は岡山県にある食品乾燥機メーカーです。同社は岡山県で初めて JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業に採択され、アフリカのスーダンで「農産物乾燥加工技術導入を通じたタマネギの付加価値創出に向けた普及・実証事業(※1)」に取り組んでいます。スーダンにはもともと旧ソ連の援助によって建てられた大規模玉ねぎ乾燥工場があり、2006年まで稼働していましたが、閉鎖されてからは各地で玉ねぎが余ってしまい価格の乱高下が起き、農家の方々が収穫放棄するなどの問題が起きていました。

たまねぎ市場風景 廃棄ロスに繋がる販売方法

現地でのビジネス化に取り組む中で起きたスーダン情勢の悪化。それでも「スーダン事業をやってよかった」と同社の安原社長は語ります。スーダン事業のきっかけから現地での苦労や活動の工夫について、JICA民間連携事業部企業連携第二課長の安達がお聞きしました。

写真左=JICA安達課長、同右=大紀産業安原社長


(※1)本事業は、「普及・実証・ビジネス化事業」の前身である「中小企業海外展開支援事業 普及・実証事業」(2017年度まで募集)として採択されました。本記事内では、現在の事業名である「普及・実証・ビジネス化事業」の呼称を使用します。


応募のきっかけ

安達課長(以下安達):スーダンでは政変があり情勢が厳しい中、渡航ができないなかでもリモートで事業に取り組まれてきた御社の活動に敬意を表します。本日は現地での取り組みについてお聞きしたいのですが、まずはなぜスーダンに進出したのでしょうか?アフリカ進出というとケニアやタンザニア等に注目されることが多いと思います。

安原社長(以下安原):従来の食品乾燥機は灯油で稼働するものだったのですが、当社が2008年に日本で初めて電気で稼働する食品乾燥機を開発したことでメンテナンスの手間が最小限になり、海外(東南アジア)に進出できるようになりました。その時に初めて知り合ったコンサルタントの方から、スーダンでは巨大な乾燥玉ねぎ工場の稼働が停止してから玉ねぎの価格が乱高下し収穫放棄が起きて困っている、と伺いました。食品乾燥機メーカーは他にもあるだろうと考えましたが、現地は電力のほとんどが水力発電で賄われており電気代が安いため電気で動く食品乾燥機を探していると聞き、日本で当社しかないオンリーワン商品の大型電気乾燥機が活用出来ることに注目し、行くしかない!と思いました。

安達:アフリカ進出について不安はなかったのですか?

安原:不安は特になかったですね、実際のところは、リスクを把握しきれていなかったのかもしれません。

案件化調査を経て、普及・実証・ビジネス化事業での取組み

安達:ビジネス化に向けた取組みの中でご苦労された点について教えて頂けますか?

安原:案件化調査(※2)の際、現地で販売されていた、天日干しの乾燥玉ねぎを見ました。紫外線で焼けて茶色くなってしまうこと、また砂漠特有の砂ぼこりによる異物混入が多く、お湯で戻すと砂が出てくる問題が見受けられました。それを見て機械乾燥の必要性を感じました。
ただ、現地の人に我々の機械を見てもらわなければ本気度は伝わらないだろうと思い、その当時の最新の食品乾燥機を当社の負担で現地に送り、無償で設置しました。この事業の先行きが不透明だったので社内でも反対意見がある中での決断でしたが、現地の人に食品乾燥機で作った真っ白な乾燥玉ねぎを見せたところ、これは売れる!と太鼓判を押してくれました。実際に現地のニーズを確認できたことが、普及・実証・ビジネス化事業へと繋がりました。
また、現地で実際に収穫放棄された玉ねぎを見た時に、当社の乾燥機があればこれらの食べ物を無駄にせずに活用できるのにと感じたことも理由の一つです。

案件化調査で導入した電気乾燥機E-30


(※2)案件化調査:JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業の支援メニューの一つ。途上国の課題解決に貢献し得る技術・製品・ノウハウ等を活用したビジネスアイデアやODA事業での活用可能性を検討し、ビジネスモデルを策定するもの。大紀産業株式会社は、2015年~案件化調査を実施し、その後2018年から普及・実証・ビジネス化事業を実施している。


スーパーで販売している天日乾燥の乾燥玉ねぎ

機械乾燥で作った乾燥玉ねぎ

安達:機械を見せた当初の現地の人の反応はどうだったのでしょうか?最初から歓迎ムードはあったのでしょうか?

安原:現地の反響はすごかったです。東南アジアと違い、車以外の日本製品を見慣れていないスーダンの地方都市では日本の機械が来たというだけでひと目見ようと20~30人くらい集まりました。誰が作業者で、誰が周辺住民の人なのか分からないくらいでしたが、みなさん色々質問してきて、その熱量を感じました。

安達:やはり最初に一台送ったというのが大きかったんですね。

安原:そうですね、大きかったです。そこから玉ねぎだけでなく、オクラやニンニクなど色々な乾燥野菜の実証試験ができるようになりました。

安達:ビジネス化を進めていく中で御社は女性の組合を作り乾燥玉ねぎの製造に取り組みました。女性を活用しようというアイデアはどのように思いついたのでしょうか?

安原:日本では農家の奥様方が食品乾燥機を使って規格外の野菜などを製品化し、道の駅や直売所などで販売をするというのがよくあるんです。そこから着想を得ました。スーダンの農村部では20代女性の失業率が50%程と特に高く、この方たちを活用できないかと考えました。弊社にはスライス、乾燥、パッキングをそれぞれできる機械がある為、それらを導入すれば力仕事がなくなるので女性の雇用創出に繋がると思い、女性組合を作りました。他にも農民と政府で共同組合を作るなど、現地に合う形を模索しました。

女性が玉ねぎをカットする風景

安達:アフリカ、イスラム圏での活動の中で土地や文化特有のご苦労はありましたか?

安原:イスラム圏の国という事もあり、女性の意見が聞きにくく苦労をしました。説明会を開いても男性は前の方で椅子に座って聞き、女性は後ろでござの上に座って話を聞いています。実際に機械を使うのは女性たちなので彼女らの意見を聞きたかったのですが、男性は既婚の女性とは話すだけで浮気を疑われるリスクがある為、なかなか聞けませんでした。相手の方のご迷惑にならないように、お顔が見える服装の方からお話を伺うようにしていました。

安達:御社は何人で海外ビジネスを担当されているんですか?

安原:今海外を担当しているのは3人です。しかし海外売り上げの規模は国内に比べ少ないため3人とも国内との兼業で行っています。海外の場合は、営業が機械についてその場で対応しなければいけないことも多いため、技術力や経験のあるスタッフに担ってもらっています。 そうなると必然的に国内でも重要な人材となるため専業は難しいです。

安達:人材の確保にはご苦労されているんですね

安原:採用についても我々の拠点は岡山です。東京だと海外に行きたいという方がたくさんいますが地方だとなかなかいないです。特に私たちの場合はアメリカやヨーロッパなどの先進国に行くわけではないので余計に難しいです。そういう事もあり、以前はJICAからの紹介でJICA海外協力隊経験者を採用したこともありました。

安達:JICA海外協力隊との協働もあったと伺いました。どのようなきっかけがあったのでしょうか?

安原:現地に住んでいる日本人って本当に少なくて50人くらいしかいないんです。なので当時のスーダンでは2、3か月に一度日本人だけが集まる会合がありました。その会で我々の活動について話していた時に隊員の方とお会いしました。その隊員の活動が現地の土産物を作るというものだったので、せっかく日本の機械が入っているのだから一緒に活動をしようという話になりました。残念ながらその後の情勢悪化で協働はできなくなりましたが、今のODA案件でもその国のJICA海外協力隊と協働できないかという話をしています。

JICA制度を利用してみて

安達:苦労も多いスーダンでのビジネス展開ですが、それでもJICAの制度を利用してよかったと思う点はありますか?

安原: 東南アジアに進出した時とは違い、当初はアフリカでのビジネスに懐疑的な社内の雰囲気もありましたが、JICAの制度活用を足掛かりにODA案件も受注することができ、スーダン、ボツワナ、マラウイ、モザンビークへ機材を納入できたことで社内ムードが一変しました。
また、食品乾燥機はフードロスの削減につながるので岡山SDGsアワードの最優秀賞や新ものづくり・新サービス展 SDGsアワード優秀賞を受賞できました。そのことがきっかけでメディアだけでなく地元の小中高の生徒が2カ月に一回くらいのペースで、SDGs事例として学びに会社に来てくれるようになりました。学生さん達が来てくれると社員のモチベーションも上がりますし、自分たちの機械が海外に出て行っているという意識も高まりました。

JICAとスーダンでのプロジェクトを一緒に行ったことでその取り組みが新聞やメディアに取り上げられて知名度やブランド力が向上し、販売にもプラスになっています。

スーダンでのビジネスは情勢の問題もあり今の段階では先が見えない部分があります。代理店もほとんど国外に退避している状況です。本当に難しい状況です。ただ、他の国への展開と社内外への影響という面ではやっぱりスーダン事業をやってよかったなあと本当に感じます。

地元中学生会社見学

JICA長期研修員企業訪問

・『おかやまSDGsアワード2021』を受賞しました! | 乾燥機の大紀産業株式会社
 https://www.taikisangyo.co.jp/post-1488/
・新ものづくり・新サービス展 SDGsアワードにて優秀賞を受賞いたしました! | 乾燥機の大紀産業株式会社
 https://www.taikisangyo.co.jp/post-1822/

ボツワナやその他アフリカ諸国への展開の計画や戦略について

安達:今後他の国への展開はどのように考えていますか?

安原:ボツワナなど他のアフリカ国への進出に挑戦しています。東南アジアからもやはり問い合わせが多いです。

安達:スーダンでの経験が他国への進出で活かされる場面はありますか?

安原:以前、東南アジアでは、日本製のものが東南アジアでも動くのか?耐久性はどうか?と言われることがよくありましたが、外気温が40度を超え、砂ぼこりが舞うアフリカのスーダンで故障もせずに5年以上使っている実績がある、と説明すると評価してもらえる。その為スーダンでの実績が東南アジアでの売り上げ増にも繋がっています。

応募勧奨に向けたコメント(来年度以降応募を検討している企業様へのメッセージ)

安達:これから中小企業・SDGsビジネス支援事業に応募を検討している企業の方々へメッセージをお願いできますか?

安原:色々な制度はあるかと思いますが、JICAの場合は民間ビジネスだけでなく政府相手のビジネスが可能になります。そういうダイナミックなビジネスは自分たちも相手国政府やその国の方々の為に貢献しているというところが非常に実感としてあります。JICAを通じて大使館の方々からも非常にバックアップしていただきましたし、そこもJICAの事業の良さだと思います。

カウンターパートとたまねぎ圃場で打ち合わせ

日本大使館大使とスーダン連邦政府関係者との写真

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