ウズベキスタンの基礎学力底上げ、高度人材育成による経済発展への貢献を目指すとともに日本の教育へ新たな視点を - 株式会社KEIアドバンス (東京都)

2024.03.29

河合塾グループである株式会社KEIアドバンスは、株式会社ハピラル・テストソリューションズとともに、企業理念「一人ひとりの未来のために」のもと、大学の経営課題の解決、スクール事業の展開、日本の教育を変える新規事業を3本柱として「教育のできることを拓く」というビジョンの達成に向けて挑戦し続けています。同社は、JICA中小企業・SDGsビジネス支援事業を活用し、2021年8月から2023年11月までウズベキスタンにおいて日本型学力検定テストモデル(数学)導入に向けた普及・実証・ビジネス化事業を実施しました。具体的には、現地の就学前・学校教育省、名誉公教育開発課題科学研究所と連携し、8-10年生(日本の中学2年生~高校1年生)向けに日本型数学学力検定テストを4回実施し、その適合可能性や、さらなる教育改善ビジネス展開を検討しました。
本事業終了後も引き続き、その成果を基に日本型学力テストを中心とした各種教育支援サービスを展開し、同国の教育改善や人材育成への貢献を目指しています。

今回は、JICAインターン生の室園が、現地で本事業に従事されていた株式会社KEIアドバンス 取締役 坂田さん、高等教育事業企画開発部 會田さんに現地での取り組み、今後の展望などについてお伺いしました。
 


JICA:JICAの支援事業(以下、本事業と明記)を使用されてみて、いかがでしたか?

坂田さん:実際、民間企業単独で直接現地へ赴いても、ビジネス展開では現地の教育省と直接の交渉は難しかったと思います。本事業とJICAの現地での信用力のおかげで、スムーズに現地の政府からトップダウン的に各学校にテスト実施を依頼してもらえました。

會田さん:民間企業が途上国に行ってビジネスをするにしても、適切なコンタクト先や関係機関がわからない状態ではビジネスの成功確率は不明な部分があると思います。JICAを通して、現地の実態把握や教育関係者とのコネクションを持つことが出来た点は非常に有意義であったと感じます。実際に、現在行っている本事業後のビジネス展開においても、本事業の経験が生きていると思います。

現地カウンターパート(名誉公教育開発課題科学研究所)との打ち合わせ風景

JICA:商材にもよるかもしれませんが、現地の要望に応えるという意味でローカライズ(現地への最適化)させていく方法もある一方で、商材の内容を大きくは変更しない方法もあるかと思います。貴社は、第一方針として現地のニーズに対応していくことを意識されていたのでしょうか?

坂田さん:まず、この点について正解はないと思います。例えば、TOEFLやIELTSといったグローバル展開しているもので、ローカライズしていない試験がありますよね。この利点としてはグローバルで、同じ問題、回答基準で行えるという点があります。ですが今回の事業では、提案の強みであるテスト結果の分析・評価は日本式のままに、出題範囲は現地の意見を反映して行う「ローカライズ」にこだわりました。例えば車と一緒で、外車の左ハンドルをそのまま日本に持ってくるのではなくて、右ハンドルに合わせるといったように、現地に適合させるのがよいのではないかと思いました。正解はないと思いますが、グローバル展開を見据えて同じもので実施していくのか、現地に足のついた形で提供していくのかというところで、今回は後者でいこうと考えました。

ローカライズに用いた現地の教科書に対する書き込み

JICA:日本式モデルをローカライズするうえで工夫した点や苦労した点はございますか?

會田さん:ローカライズするものは、大きくテストのコンテンツとその運営に分かれます。いずれも意識したのは現地の状況を正確に把握するために関係者の意見を聞くことです。コンテンツについては、現地のカリキュラムや教科書をもとに作成したのですが、翻訳者が訳したものを現役の数学教員や就学前・学校教育省の教育専門家にも内容を確認してもらいました。運営についても、教育現場の方や就学前・学校教育省の方の意見を聞き、その要望に沿う形で実施することを心がけていました。具体的には、テストの問題形式を多肢選択式からグリッド式(日本の共通テスト解答方式)に変更したり、結果分析においては、公立・私立などの学校ごとの比較を行ったり、細かいところでは学年別テストの実施順序を変更したりもしました。

JICA:実際、テストを受けた生徒や保護者など現地の方の声はどうでしたか?

會田さん:実際、テストごとに行った関係者へのアンケートの結果や教員や学校関係者への聞き取り結果によれば、テスト自体や個人結果帳票、教員セミナー等に対して「生徒の勉強意欲は向上した」や「教員自身の教授法を見直すきっかけにもなり、ためになった」などの肯定的な意見が多かったですね。一方で、私立学校に関しては公立学校と異なり、カリキュラムや進度に独自性があることから、国のものに準拠して作成している本事業のテストを用いて学力を把握することは難しかったようです。他には、事前にテストの範囲を教えてもらえないかといった声があったり、生徒、教員ともに「評価」に対して身構えてしまい、テスト実施に対して若干臆する面があったりはしました。 肯定的な意見もさることながら、それ以外の率直な意見もいただけたことで、今後のビジネス展開におけるニーズや課題がよりはっきりとし、結果として非常に意義深いヒアリングができました。

坂田さん:ただ、テストを実施することで得られた副次的効果として現地カウンターパートから最も評価を受けたのは、現地の生徒の学力が可視化されたことで、課題が明確になったことです。本事業では、日本ではなくウズベキスタンの教科書から出題しているので、現状の生徒の学力がより正確に可視化され、基礎力の不足が浮き彫りになりました。このことを現地カウンターパートに伝えられ理解を得られた点で、苦労した甲斐があったと感じます。

會田さん:そうですね。実際、現地の名誉公教育開発課題科学研究所の所長から、「これまで見たいものだけを見てきたけれど、見るべきところが明確になった」というコメントを頂けました。とても価値があったと先方にも思っていただけている証拠ではないでしょうか。

テスト実施の様子(タシュケント市内学校)

坂田さん:そういえば、現地の教育大臣から表彰状を頂いたんです。これはなかなかないことと聞いています。

會田さん:就学前・学校教育省の方からも大臣に推していただけたようです。本事業では、現役教員にもテストを受けてもらって、課題点を提示することが出来たわけですが、教員側の課題に光を当てることが今までなかったようです。就学前・学校教育省としては教員の能力向上を取り組むべき課題として挙げてはいたものの思うように進められていなかったという状況下において、本事業が貢献できたところもあったのではないかと思います。

現地教育大臣への報告と表彰(左側:坂田さん)

JICA:貴社は、本事業終了後、すぐに有償でのテスト提供を開始されています。本事業終了後にスムーズにビジネス事業を開始できた要因は何かございますか?

會田さん:事業着手当初から本事業終了直後より、ビジネスを展開していくと意識していました。例えば、テスト1回目終了後から、有償でテストを行う場合の費用や頻度についてヒアリングしていました。また、有償のテストを比較的受けてもらいやすい学校は公立より私立や民間塾であろうと想定し、事業期間中から訪問してニーズを聞くなどして、市場調査を重要視しました。正直、これでも足りなかったと思っておりますので、事業期間中にターゲット層の特定や売り上げの伸ばし方などの市場調査を行うことをおろそかにしないということは、今後JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業に参画される企業様にとっても参考になるかもしれないと思いました。どうしても、目の前の活動に集中してしまうので後回しになりがちですが、今後を見据えて動くことも重要だと思います。

日本の教育へ新たな視点を

會田さん:日本の教育機関・市場はまだまだ保守的な側面があると思います。例えば、世界には資格や学習履歴を電子的に証明するデジタル証明書がありますが、日本ではまだ紙の証明書などを採用しているケースが多いように感じます。また、日本でも、TOEICや英検の受験結果を大学入試免除という形で使える大学もありますがまだまだ少ないですし、数学にいたっては外部の検定試験等の結果を入試免除として扱っている大学は現状ありません。故に、現在まさに現地で展開しようとしているビジネススタイル(現地で展開する弊社テストの成績優秀者に対する、国内外の大学入試免除)を、日本でも検討してもらえないかと考えています。さらに、現地で実施するテストで優秀だった生徒に日本留学してもらうことで、日本の教育機関に新たな視点をもたらしたり、そこから新事業への挑戦を促せたり出来るのではないかと思っています。

教員セミナーでの発表時写真(會田さん)

JICA:今後の展望についてお聞かせください。

會田さん:テスト事業はすでに確認できている現地ニーズに応える形で教科・学年ともに対象を広げていく予定です。また、本事業の最終報告で就学前・学校教育省等へも提案した、教員・生徒双方の能力向上のためのパイロット事業の準備も進めています。具体的には、両者にテストを受けてもらい、その分析結果を踏まえてまず教員に教案を作成してもらいます。そして、それを基に教員が授業を実施することで、生徒の学力の改善を図るものとなります。今後はテスト事業を中心にテストの付加価値を高めつつ、教員の教科知識・教授力および生徒の基礎学力向上にも取り組みながら、広く理数系テストの市場創造をしていけたらと思っております。

坂田さん:実は今、現地では日本式教育を取り入れた学校の設立や日本語教育へのニーズがあり、日本式理数系教育を取り入れたインターナショナルスクールの設立に関わっています。今後、教育プログラムや教員研修を行う予定です。他にも、日本式教育を取り入れた医療系人材の専門学校やIT大学などのニーズもあり、これらの学校は、将来的に日本への留学や就職を見据えた形で設立を想定しております。
また、他国展開については、ウズベキスタンをハブとして同じ中央アジアのキルギス、タジキスタン等への展開も考えています。

JICA:調査終了後もテスト事業に加え、色々な事業に取り組まれておられるのですね。本日の取材を通して、テストから広がる教育事業の多様な展開に、現地の課題解決や他国との関係性強化についてポテンシャルを感じました。また、本インタビューの中での「営利と非営利のどちらの事業も経験して思うのは、どちらであっても相手のニーズにどれだけ応えられるかを考えながら動けるかどうかが、共通の課題になると思う。」という會田さんの言葉が印象に残りました。今後は、JICAの本事業をきっかけに、日本の教育へ新たな視点をもたらされることへも期待しております!本日は、お忙しいところ取材インタビューありがとうございました!

(民間連携事業部インターン 室園涼太)

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ