よりリアルな医学看護教育用シミュレータでエクアドルの医療技術向上に貢献 - 株式会社京都科学 (京都府)

2024.04.26

エクアドル共和国では「 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) の実現」「保健医療格差是正」を開発課題に挙げており、それを担うより高い技能や幅広い保健課題への対応力を備えた医師、看護師の育成が急務となっています。株式会社京都科学(以下「京都科学」)は「 医学看護教育用シミュレータ を用いた教育」の質的改善・普及に取り組むことでUHC実現に貢献できるよう、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業(通称JICA Biz)を通じてシミュレーション教育の実証を行いました。

本事業では、国立エクアドル中央大学(Universidad Central del Ecuador、以下「UCE」)をカウンターパート機関として、同社の医学看護教育用シミュレータ48品目104式(身体診察・処置・ケア、周産期・小児医療、災害救急医療用など)を用い、現地の事情にも合わせた実証を行いました。

Universal Health Coverage(UHC) とは、「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を指し、SDGsではゴール3(健康と福祉)の中で掲げられています。
医学看護教育用シミュレータ :医療従事者や学生が医療手技や救急・看護の練習に使用する人体模型

途上国でのビジネスに挑戦!

京都科学は以前より、商社やコンサルティング企業を通して病院などの建設・整備に際し、実習教材・機材として、シミュレータや解剖模型などの製品を輸出していました。そのため、途上国への関わり方は、受注した製品を提供するという形であり、主体となって直接現地での情報収集やニーズ調査は行っていませんでした。

そこで2004年からは、自らが主体となり海外事業を進めていくことを目指し、海外営業活動を開始しました。当時、企業の海外展開をサポートする制度は少なく、はじめは体当たりで営業活動を行っていたそうです。その後、JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)の支援で展示会への出展や、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)にアドバイスをもらいながら中南米で市場調査を行う中で、JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業を知ったそうです。

JICAの中小企業・SDGsビジネス支援事業と出会うきっかけは、UCEのシミュレーションセンター長からのシミュレーション教育導入への協力依頼でした。当時、同社の製品と教育技術を提案しましたが、UCEは高額なシミュレータを購入する予算の確保が難しいという状況にありました。そんな中、JICAエクアドル事務所に相談したところ、中小企業・SDGsビジネス支援事業を紹介されたそうです。20年前とは違い、「自分たちが主役になれる」という魅力を感じ、アメリカやヨーロッパ等の市場で積んできた海外での販売経験を生かして、新興国へのマーケット拡大に挑むことを決意しました。

シミュレーション教育によって保健医療人材を育成!

エクアドルでは人口及び疫学的動態の変化に伴い、感染症や母子保健といった従来の課題に加えて糖尿病・心疾患などが死亡要因の上位を占めるようになり、保健医療人材はより幅広い対応力を求められています。また、2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行においては、日本をはじめ国際社会からの医療資機材支援が相次ぎ、それらを継続的に活用できる人材の育成も課題となっています。
また同国の一次医療施設では、保健医療人材が限られた設備・機器で健康推進、疾病予防から、一般の外来診察と処置、家庭医療、産科、臨床検査、基本的画像診断、救急・災害医療、リハビリまで幅広い保健課題に対応する必要があります。

京都科学のシミュレータは、これらの分野に幅広く対応する実習項目を網羅しており、人体特性や症例再現のリアリティを追求した実習を行うことができます。さらに、同製品は学習者が同質の反復実習を行うことを可能とし、短期間で標準化された技術の習得の実現もできます。
本事業では、UCEと協働でシミュレーション教育シナリオ案を策定し、それに沿った実習の試験運用・検証を行ったり、指導教官を対象にシミュレータ使用法に関するトレーニングを行ったりすることで同国の保健・医療環境に合わせたUCE-京都式シミュレーション教育の有用性・優位性を確立しました。
2023年4月の本事業終了後3年以内に、UCE以外の10施設を対象に延べ15シナリオのUCE -京都式シミュレーション教育が導入され、毎年500人以上の学生が受講することを目指しています。

コロナの困難を乗り越え、現地で感動の対面

指導教官の育成を行う過程において、新型コロナウイルス感染症の流行という大きな障害がありました。事業開始直後から、エクアドルでは外出制限や大学機関の対面授業の中止などの措置が取られ、現地へ渡航することもできませんでした。現在では当たり前のように取り組まれているオンラインでの活動もまだ手探り状態で、社内でも先駆けてオンライン会議を行うなどしながら、徐々にモニターでの映し方などを習得しつつ、現地の先生方への講義などを進めていったそうです。

業務主任者の遠藤さん(海外営業部業務課課長)は、「当時、月2回のペースでオンラインミーティングを行っていたが、どうしても一方的な講義のような感じになってしまうことが多く、向こうの先生方の反応が見えづらく、本当に理解してもらっているかなど不安だった。」と語ります。

プロジェクトが3分の2ほど進んだ2022年春頃から大学機関の対面授業が再開し、外出制限も緩和され、ようやく現地に足を運ぶこととなります。
その際、初めて対面した現地の先生方からは、「今までは十分なシミュレータがなく、こんな授業はできなかった。私が一番初めに授業をしたのよ!」などと嬉しそうにお礼を伝えられることもあり、オンラインでの講義内容が十分に伝わっていたという安堵と、頑張ってよかったという感動があったそうです。

実際、同社のシミュレータや ファントム 等の補完教材により授業の質は劇的に向上しました。シミュレータ導入により、それまで人体模型で事前の練習をすることなく場当たり的に行われていた医療現場の不安が解消され、学生のモチベーション向上にも繋がりました。

ファントム :X線や超音波を使用して人体と同様の撮影ができる人体模型

実習の様子(2023年事業期間中)
エクアドル中央大学医科学部 看護専攻科
全身の看護シミュレータを用いてシーツ交換の実習をしているところ
作業中の2名が看護専攻学生 右端が指導教官

実習の様子(2023年事業期間中)
エクアドル中央大学医科学部 放射線専攻科
放射線ファントムを用いた撮影実習前の説明風景
スーツの男性が指導教官(専攻長) 他は放射線専攻科の学生

また、同社は授業に先生役の学生TA(Teaching Assistant)を導入し、新型コロナウイルス感染症の流行による授業の遅れを取り戻しました。すると、休み時間を削って自習する学生が現れるなど、学生たちの学習意欲が向上し、先生方も喜ばれていたそうです。これによって本事業活動の中で、機材使用トレーニングを受けた48名の教官、および29名のTAが、同社製品による実習授業ができるようになりました。今後はさらに新たな教官・TAへのトレーニングも実施される予定です。

事業終了時(2023年)
TA(Teaching Assistant:先生役の学生)として事業参加した医学専攻の学生
事業に参加した教官・学生のみなさんに参加証(写真に写っている黄色い賞状)を300枚近く発行しました。

今後の展開

JICAの支援事業を通してエクアドルで実施した取り組みは成功したものの、中南米のマーケット拡大に向けて自社事業を進めていくには、同国の治安悪化もあり広域への普及拠点としては限界があります。同社は、中米・南米地域のビジネスを軌道に乗せるうえで、もう1か所、波及効果の高い核となる拠点を設けたいと考えているそうで、中南米事務所開設地の選定も含め、メキシコ・ペルー・ブラジルなどを今後の中核地として検討しているとのことでした。

中南米各国への普及展開ベネズエラでの展示会の様子
髙山社長(写真中央)とシミュレータを使う展示会来場者

編集後記

今回、筆者は同社の東京支店を訪問し、実際にシミュレータ製品を体験してきました。人の肌のパーツに特殊な素材が使われ、よりリアルな感触が再現されていたり、人体の細かい構造を踏まえた設計がされていたりと、看護・医療学生が臨床現場の本番を迎える前の練習や試験に使用するために極限まで再現度が高められていることに感動しました。インタビューにて、「シミュレータ製品は実際に触れていただかないと良さが伝わりにくい」とおっしゃられていた通り、画面上からでは伝わらない緻密性がありました。このような貴重な機会をくださりありがとうございました。

筆者が胎児超音波診断ファントム’’SPACE FAN-ST’’を体験している様子

筆者が耳の診察シミュレータ’’ERA Ⅱ’’を体験している様子

(民間連携事業部インターン 川越理子)

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
一覧ページへ