「地方創生」と「国際協力」:①地方と国際のつながり

2023.09.04

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北海道センター(帯広)代表 木全 洋一郎

「地方創生」と「国際協力」。一見相反するようにも見える、この2つのキーワードが実はつながっていることをご存じでしょうか?

2つをつなぐ課題の変化

1974年にJICAが設立されて、もうすぐ50年。時代の流れとともに我々が協力してきた開発途上国の課題も大きく変化してきました。
途上国というと、人口爆発のイメージが強いですが、東南アジアでは少子高齢化が課題となる国が出てきています。また、国全体で人口は増えていても、地方から都市に人が流れることにより、地方の過疎化が課題になっている国も多くあります。「幸せの国」として知られるブータンでも、この10年程の間に首都への人口集中が進み、渋滞が発生しているという意外な光景を目の当たりにします。その一方で地方では過疎化が進み、耕作放棄地があちこちに見られるようになりました。こうした実情から、国として均衡ある発展をしていくためには、地方が地方として成り立つ社会・経済のあり方が問われています。

これからの国際協力では、日本の「過去の経験に基づく知見」だけではなく、地方の現場で「現在進行形で取り組んでいる課題」が求められているのです。
また、近年日本の中でも普通に聞かれるようになったSDGs。これは途上国だけでなく、日本や他の先進国を含むグローバルな取り組みが必要となる課題です。
途上国のものと思われる課題であっても、かなりの部分が先進国を含むグローバルな取り組みを必要とするものであることから、私たちもそうした課題を「自分ごと」としてとらえて取り組んでいくとともに、私たちの取り組みと途上国の地域の取り組みをつなぐことで、身近な取り組みが真にグローバルな取り組みにつながっていると実感することができるのです。

日本と途上国の地域づくりの共通性

途上国の課題や取り組みの中で日本の地方の課題や取り組みとの親和性が高いものが増えてきている中で、日本であっても、途上国であっても、同じ「よそ者」として地域おこしに関わっていきたいと考える人が増えつつあります。JICAは「JICA海外協力隊」を途上国に派遣していますが、日本国内では「地域おこし協力隊」があります。興味深いことに、JICA海外協力隊から帰国された後に地域おこし協力隊や自ら社会起業家として日本で活躍されている方もおられますし、「海外協力~」でも「地域おこし~」でも、「協力隊」として地域づくりに関われるのであれば、入口はどちらでも構わないと考える方も出てきています。もちろん、根本的な地域の実情や自身がおかれた立場に違いはありますが、国や地域がどこであっても、地域の資源を活かして、地域内外の様々な人たちを結び付けて、地域自身が活性化していくことを目指すという点は何も変わるものではないということです。

国際が地域を活性化させる!?

「自分たちの地域づくりが、まさか遠い海外のあの国とつながるなんて…」。地域に根付いて地道に活動されている方ほど、こうした印象を持たれます。しかし、こうした地域ほど、「国際協力」を通じて海外の地域とつながったときに得られる刺激、発見、そして自信は大きなものです。こうした国境を超えた地域と地域のマッチングこそが、JICA職員の醍醐味でもあります。
私が勤務しているJICA北海道(帯広)が実施している1つの例をご紹介します。
帯広から車で40分程のところの士幌町では、“奇跡の果実”と呼ばれ、貧血予防や疲労回復の効果がある健康食品として注目を集める「シーベリー」という共通の特産物をもつ中央アジアのキルギスと交流しようという話になりました。地元の士幌高校は、町立の農業高校ということもあり、町の事業者とタイアップして、地域の農産物からユニークな商品開発をしており、道の駅でも人気商品となっています。こうした地元の高校生と事業者が連携した商品開発の取り組みを、キルギスのカレッジ(専門学校)でも取り入れようと、JICAの草の根技術協力事業を展開。昨年はキルギスの先生が士幌高校の取り組みを視察 し、今年は果汁を絞った後に捨てられてしまうシーベリーの皮をペーストや粉末にして、それぞれの学校で商品開発をしようと、そのプロセスをオンラインで交流しながら、切磋琢磨しています。

本邦研修時 オンライン交流(異文化交流授業、キルギス生徒がキルギスのお菓子を紹介中)

本邦研修時 カレッジ教員が士幌高校農業実習に参加

今年10月には、いよいよキルギスからカレッジの生徒たちも来日予定。日本とキルギスの若者同士が、それぞれがもつ等身大の技術と取り組みをもって、直接交流・協力するという素敵なプログラムになりそうです。お互いの商品開発がうまくいけば、年明けにはキルギスでの新商品コンペにも出品。いつの日か、士幌とキルギス双方の生徒たちによる商品が道の駅に並び、それが話題を呼んで、多くの方々が士幌にお越しになれば…と夢は広がるばかりです。

「地方創生」からみる国際協力の新たな意義

これからの時代は、「途上国の課題」がより一層「日本の課題」に近づいていくことが予見されます。その中で、国際協力は途上国と日本の双方の課題、そしてそれに対する地域の取り組みをつなぐことで、途上国だけでなく日本も含めた新たなグローバル社会を創り、発信していくという意味を持つものになっていくではないでしょうか。(つづく)

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