「地方創生」と「国際協力」:③震災復興の現場から見えたもの

2023.11.08

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北海道センター(帯広)代表 木全 洋一郎

2019年4月から2022年3月までの3年間、私はJICAから東日本大震災の被災地である岩手県陸前高田市役所の商政課長として出向させていただきました。「国際協力」の世界から一転、「震災復興」そしてその先の「地方創生」の最前線に身を置くことで何が見えてきたのかをお伝えします。

復興、地方創生の当事者が大切にしているもの

陸前高田市は岩手県の中でも市役所庁舎を含むまち全体が壊滅的な被害を受け、東北復興の象徴でもある「奇跡の一本松」があるまちです。

私が陸前高田にいた3年間はちょうど「震災10年」の節目をまたがる時期で、かさ上げされた土地に復興を象徴する多くの施設が建設されていきました。政府の復興事業によるものもありましたが、ワタミ・オーガニックランドピーカンナッツ施設など、復興を支援した民間企業とのコラボとなる施設も出てきました。
私自身は「なりわいの復興」を担当する課長として、こうした企業との連携も進めてきましたが、一方で被災された事業者の再建、そして新たな中心市街地の賑わいづくりという課題にも取り組んできました。

その中で、私にとっては貴重な教訓を得た体験もありました。コロナ後を見据えて、交流人口を増やすため、お土産となる商品開発を支援する専門家を派遣する国の事業がありました。当初は、専門家のセミナーを広く事業者に聞いてもらってからプロジェクトに参加したい人を募ることとしていましたが、専門家側の意向で先にプロジェクト参加事業者を決めてからセミナーをすることになりました。専門家の立場からは最初に対象を明確にした支援をしたいという意図でしたが、地元の事業者の立場からは全く違った形に見えたのでした。

「事業者にとって、商品開発は一生をかけて行うもの。その中身は誰にでも言えるものではない。それを相談するということは、それだけその専門家を信頼するということ。予め専門家の話を聞くということは、自分でその“信頼”を確認するために必要不可欠なものなのです。」

まちなかの事業者たちのこうした意向により、この専門家による支援はなくなりました。案件がなくなること自体は失敗(?)だったのかもしれません。しかし「現場の方々の“ホンキ”に耳を傾け、寄り添う」というもっと大切なことに気づかされました。あるとき、高田まちなか会の会長は私にこうおっしゃってくれました。

「ここでは、何をするかではなく、誰とするかが大事なんだよ。」

事業をする目的は大切です。しかし、それ以上に大切なことは「この人となら一緒にやってもいい」と思ってもらえる信頼関係を築くことなのです。そのためには、自分が実現したい目的の前に、その土地で大切にされている価値やその土地で生活している人たちの思いを大切にすることが必要だということを学ばせていただきました。

 こうした信頼関係に基づくにぎわい復興の取り組みの一つに、陸前高田-名古屋交流があります。名古屋市は震災以来ずっと陸前高田市に職員を派遣してきましたが、震災10年の節目に市民レベルの交流団を派遣することになりました。その交流団に参加した名古屋の商店街再生を手掛けた事業者が「この交流団で終わらせず、この後に何をしていくかが本当の交流」として、陸前高田の事業者と共同でイベントを実施。陸前高田の事業者も名古屋を訪問するといった交流を重ね、将来は陸前高田に名古屋の事業者による商業施設を作るという夢に向かって少しずつ双方の信頼関係を紡いでいます。

国際協力において、私たちは何を大切にしていくべきなのか?

国際協力の実施機関であるJICAは、日々途上国の課題を解決するために何ができるかを考えています。しかし、陸前高田という震災復興において支援を受ける側にもなる立場の当事者に立った経験から、支援者にとって単に課題解決の処方箋を出す以上に重要なことがあると改めて気づかされました。
陸前高田に実際に暮らし、毎日様々な人と話していく中で、笑顔で前向きに生きながらも実は大切な家族を亡くされた方、自分の家は助かったけどすぐ隣の家は津波で流されたことをトラウマとして抱えている方…会話の中のふとした瞬間にそういう思いが出てくる方々に触れる機会が数多くありました。国際協力は得てして「現地の人々のために…」という利他的な思いが先行しがちです。それ自身悪いことではないのですが、陸前高田にいると、そういう思いよりも、「この人たちと一緒に自分はどう生きていこうか…」という思いが強くなります。「●●のために…」というのは、どこかおこがましく、まずは「自分がここでどうしていくのか…」というささやかでも自分事として感じ、考えていくことが「寄り添う」という言葉の真の意味ではないかと考えるようになりました。
「開発の主役はそこに住む人たちで、支援する側はあくまで脇役」、確かにそうかもしれません。しかし今被災地でも、途上国でも支援する側に求められているのは「自分はそこに住む人と一緒に何をしていくのか」という姿勢ではないでしょうか。
(つづく)

「地方創生」と「国際協力」:①地方と国際のつながり
「地方創生」と「国際協力」:②ふた昔前に生まれたグローカルな絆

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