「地方創生」と「国際協力」:④地方創生から共創する国際協力新時代

2023.12.11

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北海道センター(帯広)代表 木全 洋一郎

2023年9月よりほぼ毎月発信させていただいた本シリーズも最終回です。
これまで日本の地方創生と国際協力との関係について事例を交えてお伝えしてきましたが、最終回では「日本の地方創生から発想すると、国際協力もこんな風に変わっていく」というお話をさせて頂きます。

十勝の資源が紡ぐムスリムフレンドリーなつながり

帯広市は十勝が持つ農業、食、自然を通じて北海道外、ひいては海外ともつながり、地域の経済・産業を活性化させていく「フードバレーとかち」をまちづくり施策として掲げています。帯広商工会議所は、2014年より草の根技術協力を通じてフードバレーとかち政策をタイやマレーシアでも実践することを支援しています。この取り組みのユニークな点は、協力の効果がタイやマレーシアだけに現れているのではなく、十勝の企業や社会にも広がっているということです。
具体的には、十勝に強みのある乳製品の加工や、お菓子の作り方等の講習のために参加した(株)とかち製菓は、ここでの企業間交流がきっかけでマレーシアの企業と共同で、イスラム教の方も安心して食べられる認証をとった「ハラル大福」を生産。後に日本での自社工場でも同認証を取得し、現在は別の現地パートナー企業と技術提携する形でハラル大福の製造・販売展開をしています。こうした取り組みが評価され、2018年には農林水産大臣賞も受賞されています。いずれは北海道の農水産物の輸出を促進させるべく、マレーシアで自社独自に事業展開することを検討されています。
また、(株)クナウパブリッシング(旧ソーゴー印刷(株))は、この協力をきっかけに現地で北海道のスローライフを発信するフリーペーパーを発刊。残念ながらコロナ禍で同事業は休止されましたが、別途旅行会社を立ち上げ、マレーシア向けに北海道の自然資源を生かしたツアーを造成しています。
さらに帯広の街の中でも、イスラム教の方も安心してお食事できるところや礼拝できるところを地図にした「ムスリムフレンドリーマップ 」が作成されています。
こうした動きを受けて、マレーシアから食品衛生を学びに来たハラル開発協会の会長からは「十勝の農産物をハラル認証された商品の原材料にしたい」という提案を受けるに至っています。

このように、国際協力に背中を押される形で、マレーシアそして将来は10数億といわれるイスラム教の方々向けの市場を相手に、十勝の資源を生かした形での企業の進出及び観光への呼び込みが期待されています。

釧路とタイの相互観光振興による交流人口還流

JICA海外協力隊をご存じの方は多いかと思いますが、それと同様の制度がタイにもあることはご存じでしょうか?これまでは隣国のカンボジアやラオス等にボランティアを派遣していましたが、同制度であるFFT(Friends From Thailand)の20周年となる2022年に、初めての日本派遣として釧路にタイ人ボランティアが派遣されました。
ボランティアとはいえ、日本への留学経験があり日本語は堪能、日本とタイで日系の旅行会社での勤務経験があり、さらに自身のSNSでは20万人ものフォロワーがいるインフルエンサーのような方が来てくれました。
2022年9月~12月の3か月間、主に阿寒地域に入って持ち前の明るさで地域の事業者に愛され、当地で活動している地域おこし協力隊とも連携して、阿寒湖の自然やアイヌ文化の魅力をタイ語で発信し、タイ人向けの旅行ツアー案も作成してくれました。

こうした成果には釧路市側も大いに驚いて、離任時には同ボランティアに外国人では初となる「Cool釧路市観光大使」に任命するに至りました。
2023年2月には、観光大使となったFFTボランティアを追いかける形で釧路市職員がタイに出張。同ボランティアの紹介でタイでの旅行フェアへの参加、彼女の勤めていた旅行会社との関係構築と、釧路観光誘致にむけた戦略的なPRにつなげることができました。
2023年9月には釧路でタイから観光振興分野での青年研修を実施、2024年1月からはタイで観光コミュニティ開発の活動をする予定のJICA海外協力隊の候補生がグローカルプログラムとして約3か月間釧路での観光振興に取り組む予定です。そして2024年2月頃にタイから2代目となるFFTボランティアが釧路に派遣される見込みとなっており、タイに赴任予定のJICA海外協力隊との協働も期待されています。
このように、タイと日本のボランティアが釧路で、そして将来はタイでも協働することで、釧路とタイ双方から魅力あるツアーが企画され、そのツアーでタイから釧路に、そして日本からタイに多くの観光客が行き来するようになるのも夢ではありません。

国際協力がつなぐ“相互地方創生”へ

ご紹介した事例でお分かりの通り、国際協力は途上国を利するだけの事業ではなく、国際協力の先にある「日本の地域との互恵的で持続的な関係構築」を見据えた“相互地方創生”事業となってきています。
グローバルな視点から課題や可能性を捉え、国境をこえてローカル(地域)とローカルを結んでいく。次にはどのようなテーマで、どのような価値を共創していくのか…そんなことを考えながら、現場から企画を練っていくワクワク感を持ち続けていきたいですね。
(おわり)

【インタビュー】第15回JICA理事長表彰受賞者 帯広商工会議所・(株)とかち製菓
【地方創生/多文化共生】日本初のタイFFTボランティア がCool釧路市観光大使に就任

「地方創生」と「国際協力」:①地方と国際のつながり
「地方創生」と「国際協力」:②ふた昔前に生まれたグローカルな絆
「地方創生」と「国際協力」:③震災復興の現場から見えたもの

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