「地方創生」と「国際協力」:②ふた昔前に生まれたグローカルな絆

2023.10.16

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北海道センター(帯広)代表 木全 洋一郎

「地方創生」と「国際協力」のつながり。実は昨日今日に始まったことではありません。今回は私自身がタイ事務所員時代に経験した、国際協力がきっかけで生まれた国境を超えた地域づくりの絆にかかる約20年前のエピソードをご紹介いたします。

研修受入からの刺激

滋賀県甲良町は琵琶湖の東部に位置し、1990年代「せせらぎ遊園のまちづくり」として住民主体で美しい環境を作っていった町でした。この町に、2002年から2004年までタイで住民参加型のまちづくりを進める「基礎自治体開発計画策定能力向上プロジェクト」の関係者に対する研修を3年間で3回受け入れることになりました。
研修では、甲良町の住民が以前実施したのと同様に、研修員が甲良町の集落を歩き、住民にもインタビューしつつ、彼らの目から見たまちの魅力と課題を写真に撮り、それを地図に落としていく作業をしました。この成果発表には集落の住民も参加し、研修員の気づきに対して、意見交換をしていくものでした。

これにより研修員自身の学びが深まりましたが、実は受け入れた甲良町の住民の方々にも多くの気づきがあったようです。何気なく捨てられていた筆箱を見て「これはゴミなのか?」と聞かれ、ゴミの分別前にそもそもゴミを出さないことが大事と教えられたり、集落計画を見て「なぜ予定通りに事業が完了されていないのか」と質問を受け、なおざりになっていた事業を2年後に完了させたりと、研修員との対話が刺激となって、甲良町の地域づくりが進み、人材も育成されるようになったのです。

甲良町の住民がとった驚きの行動

当時タイ事務所でこのプロジェクトの担当をしていた私のもとに驚きの知らせが入ってきました。甲良町の住民有志が積立貯金をして、自費でタイに来るというのです。「これだけタイから研修員が甲良町に来るのだったら、我々自身も一度どんなところか見に行かないと意見交換ができないのではないか」という声が上がり、2004年に甲良町から11名がタイのプロジェクトサイトまで訪問するに至ったのです。
今度は甲良町の住民がタイのプロジェクトサイトの村を歩き、自分たちの取り組みが活かされている点、なお課題である点を見つけて、村人と語り合っていました。これこそ何物にも代えがたい真の「国際協力」であると実感した瞬間でした。この視察に参加した一人の甲良町の方は次のように述べています。
「実際にタイに行ってみると、その土地に合わせたテンポがあると分かりました。逆に私たちがスピードアップして見逃していた部分があったかもしれません。その意味で“本来の人間のペース”で地域を見直すきっかけになりました。」
まさに国境を超えた住民同士の交流が、タイと甲良町双方のまちづくりにつながっているのです。

JICAプロジェクト後に生まれたグローカルな絆

こうしてJICAプロジェクトは2004年に終了しました。しかしこのときタイのプロジェクトサイトの首長から甲良町と人材や物産の交流をしたいという相談があり、2006年11月にタイのポーガム町ヤーン村と甲良町の北落地区との間での交流合意書が署名されたのでした。

2009年9月に北落地区の子供たち17名がタイを訪問し、2011年10月にはヤーン村から5名が北落地区を訪問。同じ時間を共有した子供たちがやがて大人になったときに自らの子供を連れて再会することができれば、それこそ持続可能な交流による地域振興に発展するという夢も広がっていきました。合意書の署名に関わった北落地区の住民の一人は以下のように振り返っています。
「合意書は、タイとの交流を長続きさせるために、良い意味での“負担”をかけるようなものです。集落内に公園を作るのと同じ感覚で、集落の子供たちのためにお金が使えないかと考えたのです。」
こうした夢を実現する第一歩として、甲良町は2008年より独自に国際交流企画員を設置し、JICAプロジェクトに関わったタイ人スタッフを招へい。タイの村との交流事業を進めるだけでなく、甲良町の子供から高齢者まで幅広くタイの文化を紹介し、ひいてはタイに限らず、町内在住外国人との多文化共生も推進されました。国際交流企画員の任期2年の終了後、NPOとしての多文化サークルが設立され、こうした取り組みが引き継がれていきました。
2006年、タイから帰国していた私はちょうどその合意書署名前に甲良町を訪れていました。そこで自費でのタイ訪問団の一人からこんな言葉をもらいました。
「JICAのプロジェクトは終わったかもしれないが、そこに関わった私たちはこれで火がついて、タイとの交流が始まっていくのです。なのに、JICAは自分のプロジェクトが終わったから、それでおしまいということでいいのですか?」
この時、私は金槌で頭を殴られたような思いでした。JICA事業で火がついて自分たちの交流が始まっていく嬉しさと同時に、そこに何の関わりももたなくてよいのかというジレンマ。この思いが今でも地域と国際をつなぐ私自身の原動力になっています。

こうした事例からわかることは、国際協力は必ずしも直接的な地域経済や産業を活性化させる効果を持つというものではなく、むしろ将来にわたって地域を振興させていく「力量」を向上させる効果が期待できるということです。約20年も前のエピソードではありますが、この教訓は今なお色褪せることなく生き続けているのです。
(つづく)

このエピソードの詳細は、『国境をこえた地域づくり-グローカルな絆が生まれた瞬間』(新評論)をお読みください。

「地方創生」と「国際協力」:①地方と国際のつながり

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