26年ぶりに再会した当時の青年は国を率いるリーダーに ~「人」を介した協力と地域社会への還元~

2023.12.21

ベトナムから公式訪問として来日したヴォー・ヴァン・トゥオン国家主席は、かつてJICA青年招へい事業(現在の青年研修 )で来日し、日本語・日本理解研修や青年交流に参加され、その一環として、宮崎県でのホームステイも体験されました。青年招へい事業は、中曽根首相(当時)の「21世紀のための友情計画」に基づき、ASEAN6か国を対象に行われたもので、トゥオン国家主席もその修了生となります。
そんなトゥオン国家主席が、今回の訪日に際し、11月29日朝、26年前にホームステイで交流した家族を招待し、赤坂の迎賓会で朝食会を開催しました。当日は、1997年にJICA青年招へい事業でホストファミリーをされた、永井淳生さん・裕子さんが参加されました。今回、トゥオン国家主席の強い想いから、来日を前にホストファミリーの捜索が始まり、26年の時を経た再会に繋がりました。

  • 開発途上国の青年層を対象に、それぞれの国で必要とされている分野における日本の経験、技術を理解する基礎的な研修を行い、将来の国づくりを担う人材の育成に協力する事業

トゥオン国家主席ご夫妻と永井さんご夫妻

友好の懸け橋を育んだホームステイと研修事業

朝食会でトゥオン国家主席は、現在のベトナム政府内で重要なポジションを占める幹部の多くが、JICA青年招へい事業の参加者であることに触れつつ、「日本でホームステイの経験をすることがベトナム政府内で出世の条件にもなる」と冗談を交え談笑されました。トゥオン国家主席を始め、日本に研修等で訪問したことのある方々は、周囲の若手やその子息に対し、積極的に国際交流に参加することを促しているそうです。「出世の条件」かはさておき、本事業を通じ、開発課題解決への取り組みに資する知識・意識の醸成に加え、日本の文化を学んだことは国家主席にとってとても忘れがたい経験であったことがうかがえます。
永井夫妻によれば、ホームステイでは、「ごく普通の日常生活」を当時のトゥオンさんに経験してもらったとのことでした。家族とともに食卓を囲み、BBQをし、歌を教えあう、日本の日常生活を若い間に自ら体験されたことで、日本人の生活や感覚を知るきっかけになったのではないでしょうか。
こうした外向けの文化や伝統のみではない、「日本」を知っている、真の知日派を育成することに青年招へい事業は一役買いました。知日派・親日派として国を背負う人材となった修了生らは、現在も日本と各国の友好の架け橋として、世界中で活躍を続けています。
現在は研修中心のプログラムに改められた青年研修は、今も各国で将来の国造りの中心となる人材育成に貢献しています。

人と人との交流

26年ぶりに再会したトゥオン国家主席の印象を、当時の面影があったと朝食会後に永井夫妻は振り返ります。今回、朝食会の連絡が来た際は、驚きのあまりインターネットでトゥオン国家主席のニュースや写真を調べたのだとか。会う前は、どんな話をすればよいのかと心配されたそうですが、実際に国家主席と再会しご夫妻やそのご家族を気にかける姿に、当時と変わらない優しい雰囲気を感じられたそうです。長い期間を経て、立場が変わってもなお変わらない、つながりがそこにはありました。
こうして、26年前であったとしても、いまだにお互いにつながりあえる関係性が作られたことは、人と人との交流の大切さを物語ります。
JICAは、ベトナムに対してこれまで多くのインフラ整備にも協力していますが、それらを実施するには、必ずインフラ事業に関わる様々なステークホルダー間での交流があり、そのつながりが事業の成功、その後の大きな財産となり、国の成長に寄与してきました。それに加え、この青年招へいのような研修事業を通じて、両国民の心と心が触れ合う交流といった、「人」を介した協力も重視してきました。例えば、日本から毎年多くの海外協力隊員がベトナムに派遣され、同隊員が交流の起点となることが期待されています。また、ベトナムの若手幹部公務員等を含む幹部人材を日本に招いた戦略的幹部研修 を実施し、ベトナムの次世代を担うリーダー人材の育成も行っています。こうした人材の交流を通じて、両国の絆をさらに深めていくことに、JICAとしても貢献を続けていきます。

オリジナルのフォトアルバムを手に持つ永井敦夫さん、裕子さんご夫妻

地域社会への新しい風

青年招へい事業は、来日した参加者のみでなく、ホストファミリーによる地域と海外を繋げる更なる取り組みにもつながりました。ホームステイを受け入れた裕子さんは、その後JICAの技術協力プロジェクトである「B-JET」 (Bangladesh-Japan ICT Engineers’Training Program)に宮崎市の関係者として参画しました。この取り組みは、バングラデシュのICT人材の日本就職を促進するトレーニングプログラムです。本事業は、産官学連携(宮崎市・宮崎IT産業界・宮崎大学)により宮崎県内でのバングラデシュICT人材の受入れを促進し、「宮崎―バングラデシュ・モデル」として成功を収めました。
現在は、市町村職員の研修を担当する団体に所属し、海外研修の重要性などを市町村職員に伝えると共に、海外研修の促進に携っています。26年前のホームステイ受け入れ経験は、裕子さんに国際交流や海外派遣の重要性を感じさせる一助にもなったそうです。
また、現在、淳生さんは日本の古代文化を伝える文化施設で館長を務め、日本文化を知る人材が海外へはばたいていってほしいと教育面から国際人材の育成に貢献したいとの思いを語ります。
当時の青年招へいは青年研修と形を変えて実施していますが、現在もJICAの各国内拠点を中心に、日本中の様々な地域で研修が実施されています。また、青年研修以外にも、様々な研修事業を地域社会や企業との関係性を礎にして実施しています。このような取り組みが、地域社会と開発途上国との繋がりをより強め、これまでなかった新しい風を日本の各地にもたらしています。市町村や企業が海外と繋がり、更なる交流の流れが作られるきっかけとなることも、JICA事業に期待されています。
当時、26歳のベトナム人の青年が文字通り国造りの中心人物として、日本に再び戻ってきた今回のトゥオン国家主席の訪日。JICAの人材育成事業の目的が花開いた素晴らしい事例となりました。今後も引き続き、相手国と日本の両方に良い影響をもたらすことのできる研修事業や双方向の人材交流事業を進めます。

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