2023年2月9日
日本の「地球の裏側」、南米・パラグアイからは土佐弁が聞こえてくる——? 実は、パラグアイをはじめとする南米には、戦後、多くの日本人が移り住み、現在も200万人の日系人が暮らしています。特にパラグアイの日系1世には、意外なことに高知県出身者が多く、日系人コミュニティには高知の文化が根付いているそう。
そんなパラグアイと高知が結びつく座談会が開催されました。2022年12月初旬、高知県芸西村の座談会会場に現れたのは、高知県出身の元メジャーリーガー・藤川球児さん。そして、同年春にプロ野球選手を目指してパラグアイから来日し、藤川さんも所属していた四国独立リーグの「高知ファイティングドッグス」練習生となった二口卓矢さん。さらに、JICAと高知ファイティングドッグスが連携して実施する「野球指導者の人材育成」プログラム(注1)の研修員として来日した、パラグアイの野球指導者・古賀豊さんです。
「野球」という共通言語でつながった3人が、国境を越えるスポーツの力、パラグアイと日本の野球について語り合います。
《南米ではサッカー人気が非常に高いですが、パラグアイの日系人コミュニティでは野球が盛んだそうです。藤川さん、ご存知でしたか?》
●藤川球児さん(以下、藤川さん):
ブラジルの話になりますが、高校選抜で1週間ほどブラジル遠征に行ったときに、現地で日系の選手がプレーしていて、野球は日系人の方々がまとまるための一つの文化なんだなと感じたことがありました。高校の先輩でもある元ヤクルト・岡林洋一さん(注2)はパラグアイ出身ですし、南米に移住された日系1世の方々がしっかりと伝えてくれたものが受け継がれていることを感じます。
●古賀豊さん(以下、古賀さん):
日系人コミュニティでは僕らの親世代から野球を楽しんできました。日系人が日本という国の文化を感じ、プレーを通じて心を一つにする場が野球なんです。
《二口さんは、昨年の春パラグアイから来日して高知ファイティングドックス(以下、高知FD)の練習生になりました。日本で野球に取り組む中で、どのようなことを感じていますか》
●二口卓矢さん(以下、二口さん):
パラグアイでは自己流で投げていたのですが、日本では、投球フォームからトレーニングに至るまで、一つひとつ理論的に考えながら丁寧に取り組んでいることに驚きました。日本の野球は本当に丁寧で、投げるフォームも安定していてきれいだなと思います。
●藤川さん:
そうですね。一方でパラグアイをはじめとする中南米のすばらしい野球文化についても忘れてはダメですよね。僕は中南米の選手たちの野球に取り組む姿勢から、子どもたちの力を伸ばすには練習を楽しむことも大事だと学びました。日本にも中南米にも良いところがありますので、双方向で「交流」することで、それぞれの良さを掛け合わせたハイブリッド型に変わり、進化していくものだと感じています。
《藤川さんは、2013年に長年の目標だったメジャーリーグに挑戦されています。異国の地での挑戦に、言葉や文化の違いはハードルになりませんでしたか》
●藤川さん:
「野球」という共通言語があったのは大きかったですね。同じボールをみんなで追うことで、言葉がわからなくてもコミュニケーションが成立し、真の意味で世界がつながった気がしました。一緒に体を動かすスポーツには、そういう前向きな力があると思います。
《現在日本でプロ野球選手になるための挑戦を続けている二口さんは、いかがですか?》
●二口さん:
日本語は元々話せたので、日本であればなんとかなるという気持ちで来ました。
トレーニング方法を変えて6か月で10km/h以上球速を上げ、少しずつですがレベルは上がっていると思います。監督からも期待の言葉をかけられています。高知で支えてくれている人たちのためにも、なんとか期待に応えたいです。
《二口さんの挑戦を、藤川さんと古賀さんはどのように受け止めていますか》
●藤川さん:
二口くんの活躍で、パラグアイへの興味が湧く人も多いはず。国際交流という意味でもものすごく価値があることだと思います。いまは練習生ということですけれど、これからさらにレベルが上がっていくのが非常に楽しみですよね。
●古賀さん:
パラグアイでは彼を指導する立場でしたが、いまはただ彼の挑戦を応援したい気持ちです。そして、彼に続く子どもたちが出てきてくれればうれしいです。自分もゆくゆくは、パラグアイ代表チームの監督になって、パンアメリカン競技大会(注3)に出場するのが夢です。
《藤川さんから、高知とパラグアイでそれぞれ挑戦を続ける二口さんと古賀さんにエールをお願いします》
●藤川さん:
環境が変わるたびに人は磨かれていきます。二口くんは、いまの自分を5年先の自分にも誇れるように、毎日を過ごしてほしいですね。疲れた時やつらい時は手前の目標に視線を変えて、自信がある時は遠くの目標を見ればいい。とにかく先を見て、止まらずに突き進んでほしいです。
●二口さん:
ありがとうございます。一生、頑張ります!!
●藤川さん:
古賀さんは、今回のJICAの来日研修で学んだことを生かして、パラグアイでさらに野球を盛り上げていただきたいです。そして日本から選手やコーチを招聘するような環境づくりも広げていただきたい。古賀さんは、そういう大きな任務を請け負う方だと感じています。
●古賀さん:
高知FDやJICAの皆さんの力も借りて、パラグアイで日本式野球の土台をしっかり作っていきたいと思います。いつの日か藤川さんに、「パラグアイにぜひ来てください」と胸を張って言えるように、頑張っていきたいです。
注1:JICAは、前身の海外移住事業団の時代から継続して日系人コミュニティに対する支援を行っている。代表的な取り組みとして、主に中南米を対象に日系人コミュニティと日本をつなぐ架け橋となる人材を育成する「日系社会研修」がある。「野球指導者の人材育成」は、その枠内で実施されている特にユニークな取り組みの一つで、JICAが高知FDに委託し、実施しているもの。
注2:1991〜2000年に東京ヤクルトスワローズで投手として活躍した岡林洋一さんは、これまでで唯一のイグアス地区出身のプロ野球選手。二口選手も大きな影響を受けているという。
注3:南北アメリカ大陸の国々が参加して4年に一度開催される総合競技大会。