07 池上彰と考える『SDGs入門』 これからのSDGs、JICAと企業とのパートナーシップで進める社会変革

07 池上彰と考える『SDGs入門』 これからのSDGs、JICAと企業とのパートナーシップで進める社会変革

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JICAでやってみたいこと、JICAがこれからやるべきことは何か

池上彰氏写真

池上 そもそも皆さんがJICAに入られた理由は何ですか。また、JICAでこれからやってみたいこと、JICAがやるべきだとお考えになっていることをお聞かせください。

西村 学生のときに交換留学でフィリピンに滞在し、スラム地区のストリートチルドレンに衝撃を受けて、国際協力機関で貧困削減に取り組みたいと志望しました。これからもUHCという目標に向かって、取り残されそうな人も含めてどうやってすべての人に保健医療サービスを届けられるか考えていきたいと思っています。

SDGsには多分野のゴールが含まれていて、分野横断的な思考が必要です。保健分野でも、例えば栄養について考えるときに農業や環境のことも考慮するなど、組織や分野を横断する、いわゆるマルチセクトラルな切り口でアプローチしたいと思います。

ベトナムの母子手帳を持つ少数民族の母親と医療スタッフ

久保 私は学生のころバックパッカーをしていて、JICAに入ればいろいろなところに行けるのかな、と(笑)。公的な価値を追求してみたいとも思っていたので、JICAを志望しました。

でも今は、ビジネスも援助も歩調を合わせて進むことが大切だと思っています。今後も日本の企業が持っている様々なリソースとアイデアを途上国につなげていきたい。また、日本の地方自治体や企業と途上国をつなげたいと考えています。日本各地の人たちにもJICAが貢献できる仕組みをつくりたいですね。

ケニアでの民間連携事業により設置された浄水設備

山下 私は学生時代にスタディツアーでインドを訪れ、水も電気もない村に泊まった経験から、生まれた環境による不平等をなくしたいとJICAに入りました。

今も貧困削減の観点から途上国における住環境の改善に関心がありますが、同様に、日本の地方が抱える課題にも関心を持っています。国内において、開発協力と地方創生を結び付けられるような取り組みを作りたいと思います。その中で、世界の共通言語とも言われるSDGsは、国内と海外とを繋ぐプラットフォーム的な役割を担えるのではないかと考え、現在は九州においてSDGsの普及活動も行っています。

「カイゼン・プロジェクト」が行われるエチオピアの靴縫製工場

池上 途上国支援の経験をもとに日本の課題を解決するというわけですね。

佐伯 私は大学院でODAによって整備された水道について研究していました。よりよい開発協力にはJICA職員が求心力を持って、様々なODA事業の関係者ひとつにしていくことが重要だと考え、志望しました。

私も、途上国支援を日本に結び付けたい。先ほど中所得国で高齢化や生活習慣病のような日本と共通する課題が浮上しているという話がありました。私の専門分野でいえば、日本の水道事業は人材不足に悩まされています。例えば、フィリピンでその課題を解決するような人材を育成し、その人材が日本の高齢化が進む地域で活躍するとか、途上国で生まれたアイデアや技術で日本を元気にするとか。そんな時代が、すぐそこに来ているような気がします。そのときJICAが相手国と日本をつなぐ役割を担いたい。私自身も世界と日本をつなぐことができる人材になれるよう、がんばりたいと思います。

タイでの要援護高齢者等の為の介護サービス開発プロジェクトにて、
日本人専門家とタイ人の看護師、村役場職員のチームで、高齢者のいる家庭を訪問。 
写真提供:久野真一/JICA

SDGsの達成のために、民間とのパートナーシップで日本が世界をリード

池上 なるほど。やはりJICAは当分なくなりませんね(笑)。ところで、子どもたちに「日本はどうして海外の国を援助するの?」と聞かれたら、何と答えますか?

久保 うーん。「隣の人が風邪を引いたら、自分にうつっちゃうかもしれない。だから隣の人が風邪を引く前に、手を差し伸べるんだよ」かな。

池上 いいですね。グローバル化が進む今、遠い国の問題がすぐに日本に飛んできますから。

私は、「戦後の日本が貧しかった時に助けてもらったから、今度は助ける番だよ」と話しています。日本が貧しかった時代は、官が主導して様々な施策を行わなければいけませんでした。今は民が力をつけていて、企業の社会貢献が期待されています。そのときにやり方が分からない企業にアドバイスをして、企業が利益を上げながら現地も豊かにするという循環をつくるのがJICAの役割ですね。

付け加えると、SDGs以前のMDGs(ミレニアム開発目標)のときに、日本は無償援助の割合に対して有償援助が多すぎると世界から批判されました。でも日本は、貧しかった時代に世界銀行から融資を受け、高速道路やダムを造り、国を発展させた。利子をつけてお金を返さなくてはいけないということがインセンティブになって、一生懸命に働いて返すことができたわけです。だから無償援助の割合を増やせば解決されるというものではないと主張しました。今、途上国に貸したお金は返済されてきています。

世界は政府による援助が主流だった時代から、パートナーシップで課題に取り組む時代へと変わってきており、日本はその流れをリードしているわけです。その意味でも、JICAの民間連携事業は大きな意義があると思いますね。

みなさん、今日はどうもありがとうございました。

集合写真