研修から得た示唆を活かし、
グッドプラクティスを積み重ねていく
CLOUDYとの出会いは、本当に偶然でしたね。フィリピン事務所勤務の後、私は人間開発部に異動となり、南西部アフリカ地域の保健医療分野を担当しました。その頃コートジボワールに出張する機会があったのですが、アフリカン・テキスタイルを身にまとう現地の美しく力強い女性にたくさん出会い、すっかり魅了されたのです。その後、産休・育休期間中にSNSを眺めていて、たまたま目にとまったのがCLOUDYのバッグを持っている方の投稿で「あ、アフリカン・テキスタイルが使われている、オシャレ! このブランドは何?」と、私は俄然興味をひかれたわけです。調べてみると、ブランドとして展開しているさまざまファッションアイテム、ポーチ、巾着といった商品が魅力的なのは言うまでもなく、組織や事業活動も非常に独自性が高く、面白い。当時、子育てをしながら今後のキャリアについて考えていたなかで、この組織自体にとても興味を持ちました。
ここでCLOUDYについて少しご紹介すると、先にも少し触れたようにここは、ファッション・ブランド、アパレル事業を手掛ける株式会社で得た収益の一部を自身が運営するNPO活動に還元する、「循環型ビジネス」を展開しています。ただ、その成り立ちにおいては、アフリカにおける教育機会の提供を2010年から行っており、NPO事業の方が先行していたんですね。アフリカへの支援を始めた当初は学校作りに力を入れていましたが、現地で学校を卒業しても「仕事がない」という現実があり、どうやったら現地に雇用を生み出せるかというのが次の活動のテーマになっていったわけです。そこで着目したのが、アフリカの民族柄や伝統の織物、それを縫製する技術。これを活かしてファッション・ブランドを起ち上げ、世界に販売していくことで、現地に雇用を生み出し、その収益をNPOとしての活動に充てていくというサイクルを作り上げているのが、CLOUDYなのです。ちょうど私がCLOUDYに興味を持っていたタイミングでスタッフの募集が行われていたこともあり、先ずCLOUDYにコンタクトを取り、「JICAにはこういう制度があるのですが、そうした条件で受け入れていただけるなら」というご相談をしました。魅力的な商品を生み出す企画力、異業種を巻き込んで新たなアクションにつなげていく開発力、コラボレーション力といい、それを市場展開しながら社会貢献につなげていく仕組み作りといい、CLOUDYはまさに、私が学びたいと考えていたものを備えている組織でした。まず先にCLOUDYに研修受入を快諾いただき、それを踏まえて、「実務経験型専門研修」の機構内選考に臨んだという形でした。
CLOUDYは当時、代表も含めて全社員が10人にも満たない小規模な組織で、大まかにNPOチームとアパレルチームに分かれているのですが、皆がどちらの業務にも関わっている、というような体制で運営されていました。私はJICAから来たということもあって、基本的にはNPOチームの配属になったのですが、アパレル業務も経験してみたいと伝え、大手百貨店にポップアップストアを出店するイベントや店頭での接客など、さまざまな経験を得ることができました。CLOUDYでの仕事を通じて学んだことは数々あるのですが、1つは、接する業界、人々が、これまでJICAの仕事で関わってきた世界とは全く異なるということ。ガーナやケニアでNPO活動を行っているとはいえ、日本ではもちろんファッション業界の方たちとビジネスを行っていますから、そこにはとてもクリエイティブな世界が広がっている。センスがいい人がやればこんなにオシャレに社会貢献ができるんだ、というのは、本当に目から鱗のような経験でした。また、NPO法人の方もCLOUDYブランドに統一するという、リブランディングのプロセスにも関わったことも、本当に学びの多い経験でした。自分たちのビジョン・ミッションは何なのか?人々に届ける価値とは?といったことを、メンバー皆でとことん議論する。私にとっては、JICAという組織をどう見てもらいたいのか、見せていくべきなのかを深く考えるきっかけにもなったように思います。
CLOUDYでの研修を終え、2022年10月からは民間連携事業部に所属しています。CLOUDYでの経験やこれまでの問題意識を活かすことのできる希望していたポジションです。さまざまな企業の方々が持っている製品や技術をどのようなタイミングで、どのように見せていけば途上国の人々に響くのか、受け入れられ、ビジネスとして現地で展開できるのかといったことを考えるうえで、CLOUDYでの経験はとても大きな示唆を与えてくれるものだと思います。CLOUDYの代表は、目の前の課題に対して「工夫する」ことや「本質は何か」を突き詰める方でした。現在の民間連携事業部の仕事は、企業側から提案してもらうことが基本となりますが、今の制度の中でどんな工夫ができるのか、事業を通じた開発インパクトは何かをしっかりと考え、さらに我々の方からもっと積極的に働きかけるようなことをしていかなければならないのではないか、とCLOUDYでの経験を思い起こしながら常々考えています。世の中の社会課題に対し明るく鮮やかに解決に向けて取り組んでいるCLOUDYのように、私たちも受け身にならず、もっと攻めの姿勢を持って事業を開拓していかなければならないということを課長も含め同僚とも、最近よく話していることですね。
また在外事務所にいた時は、民間連携も技術協力も円借款も、一人の所員がスキーム横断的に担当していたのですが、私が今、自分自身のテーマとして考えているのは、たとえ本部で仕事をする場合でも、さまざまなスキームを柔軟に活用していくような姿勢を持っていたいということ。例えば、こういう企業の技術を取り入れれば、より開発効果を高めていけるというケースがあるとすれば、適切な仕組みやプラットフォームを通じて協働を実現していける……そうした仕事を手掛けていきたいですね。そして、民間企業と共に途上国にポジティブなインパクトを生み出すグッドプラクティスを蓄積し、将来的にはそれを外部に向けて発信して、さらに多くの業界や人々を巻き込んでいくようなムーブメントに繋げていくことができれば、素晴らしいと考えています。国際機関や他の援助機関、民間団体等にも数多くのグッドプラクティスを共有していくことで、途上国に対してもっともっとポジティブなインパクトを届けていきたいというのが、現時点での目標です。