食文化の西洋化が進むフィジーでは、塩分・脂質・糖質過多による生活習慣病や、5歳以下の子どもの低栄養が深刻な社会問題です。
私の要請内容はヘルスセンターで同僚と共に、母子や患者への栄養指導、学校保健や公衆衛生プログラムの支援、病院給食の改善を行うことでした。ところが、病気のリスクについては、知識不足なだけではなく、楽観的に捉えている人々がたくさんいることがわかりました。ただ単に指導し、知識を伝えるよりも、本人が食生活を変えるために無理なく挑戦し、続けることができる栄養指導を考えるようになりました。
活動の中で、大皿に好きなおかずを盛りたいだけ盛って、結果的に食べ過ぎで太っている人が多いこと、人々の砂糖に対する認識が不足していることなどが判明しました。砂糖の件で言えば、例えばパンに塗るジャムは砂糖だとわかっているのですが、パンやイモ類などの主食にも糖分が含まれていることがわからない。つまり「見えない砂糖」に対する認識を変えなければ、このままではいけないなと。
一方、フィジーにもいろいろな栄養指導教材やツールはあったのですが、対象者に合わせて説明をし、しっかり理解してもらうには、今の教材だけでは不十分だと気付きました。その人の心に響き、行動を変える指導ができるよう、何か新しい手法・ツールを準備しなければいけないと思ったんです。
子どもへの栄養指導だけでなく、ファミリーエデュケーション(家族を含めた教育)も大事だと感じました。フィジーでは家族の食事を作るのは母親の仕事です。食事を作るその人が正しい知識を得て行動が変われば、家族にも「栄養指導の効果」や「食生活改善」が浸透するということになります。まず、見えない砂糖の存在をわかってもらおうと「コーラ1杯にはティースプーン16杯分の砂糖が入っている」といった視覚教材を工夫して自作し、一目でわかるように伝えました。さらに、栄養指導によるダイエットの効果や達成感を味わってほしくて、自分の現在の姿(正面と横)を毎月写真に撮り、進捗・比較が一目でわかるような取り組みも提案しました。
多くの人々との交流を通じ、草の根レベルで健康課題に取り組むためには現地の生活スタイルを理解した上で、一人一人と向き合い課題解決につなげていくことの大切さを実感しています。何気ない会話の中から活動のヒントを得る機会も多くありました。しかし、自身の知識の足りなさ、無力さを痛感する場面もあり、より知識を身に付けたいと考えるようになりました。
一方で、フィジー以外の世界にも目を向けると、低栄養、飢餓、生活習慣病など栄養や健康面で深刻な問題を抱える地域がまだまだたくさんあることにも気付かされます。
帰国後は大学院への進学も視野に入れ、栄養士の資格と、それまでの経験を生かして将来的には保健医療分野のコンサルタントなどで国際協力に関わっていけたらと考えています。