合格発表から一年、ラオスではなく横瀬に私がいるのは、JICAが海外協力隊合格者に用意した「グローカルプログラム」という、派遣前の実習プログラムに参加することにしたからだ。
海外協力隊の任期は2年。その2年間は、言葉も文化も違う異国で、誰一人知り合いのいない環境のなか、いちから人間関係を構築し、周りを巻き込んで活動することが求められる。グローカルプログラムなら、75日という短い期間ながらも、言葉の通じる日本国内でそのプロセスをお試しで体験できる。
ずっと東京で同じような仕事をしてきた私にとって、新たな環境で新しいことにチャレンジできる機会を与えてもらえるのは、非常に有り難いこと。それに、これまでの職歴で経験したことのない観光系のSNSアカウントをゼロから立ち上げて運用することができれば、任国での活動の助けにもなろう。
受け入れ先の横瀬町は「日本一チャレンジできるまち」を掲げ、地域おこし協力隊や地域活性化起業人などの制度を活用し、外部からの人材を積極的に受け入れている。また「よこらぼ」という、新しいことにチャレンジしたい個人や団体を受け入れる仕組みがあり、チャレンジできる土台が整った自治体で、少子高齢化の時代、町の人口が減っていくのは避けられない事として、関係人口を増やすことで、そのカーブを緩やかにすることを戦略として行なっている。
75日の中で何をやるかについては、実習生の自主性に任されていて、私は「必要とされていること」「やるべきこと」「やりたいこと」の3つをテーマに挑んできた。
「必要とされていること」では受け入れ先である株式会社ENgaWA(エンガワ)のコーポレートサイトのコンテンツ制作を行った。ENgaWAは横瀬町の地域商社で、地域おこし協力隊で活動する人々の雇用先であり、地域の課題解決のための各事業は多岐に渡っており、コンテンツを制作することによって横瀬町を理解するのに役立った。
「やるべきこと」では「横瀬ジャーニー」というインスタグラムのアカウントを開設、横瀬の日常の風景を投稿していった。
「やりたいこと」については、横瀬町には獣害対策の一環として、駆除した鹿肉をジビエとして製品化しているビジネスがあり、ワイン好きの私は、「横瀬のジビエを楽しむ会」という、横瀬のジビエを地元秩父のビール、日本酒、ワイン、ウィスキーと一緒に楽しむ、ペアリングイベントを企画した。「横瀬のジビエの魅力を伝える」を大義名分としているが、何のことはない、自分が食べたかっただけだ。
成果については、たいして重要ではない。75日でできることはたかが知れており、誰も期待はしていない。だが、そのプロセスで地域に溶け込み、人との関係性を築いていく過程で体験できたこと、考えたこと、悩んだことは、確実に私の財産となっているはずだ。
横瀬町にはこれまでの私の日常にあったものは何もないけれど、「やりたいことにチャレンジして、幸せに生きている素敵な人々」がたくさんいて、チャレンジを応援してくれました。