「プレゼン」による具体的な自己発信で
活動対象校の教員の理解・協力を獲得

里見 岳さん(インドネシア・環境教育・2016年度4次隊)の事例

学校で環境教育授業に取り組むことになった里見さん。活動先の学校の教員から自身の活動への理解と協力を得るための手段となったのは、提供可能なコンテンツを「見える化」したプレゼンテーションだった。

小学校で環境教育授業を行う里見さん

 インドネシア南スラウェシ州の州都・マカッサル市の環境管理事務所に配属された里見さん。求められていた活動は、同国環境省が行う次の2つのプログラムに関する支援だった。
[ADIPURA]自治体を対象に、環境に配慮した地域づくりの取り組みを表彰するプログラム
[ADIWIYATA]学校を対象に、環境教育の取り組みを表彰するプログラム
 里見さんが最初に取り掛かろうと考えたのは、市のADIPURA受賞に向け、市内にある「ゴミ銀行」の利用を促進することだ。ゴミ銀行は、市などの支援を受けながら運営されている民間組織。住民がゴミを持ち込むと、買い取る金額を彼らの「通帳」に記載し、後日、「引き出し」に応じるという仕組みである。しかし、実態を探ってみると、厚くかかわるNGOが存在しており、市の立場での介入は得策でないと判明した。そこで里見さんは、ADIWIYATAに関する支援に注力することに軌道修正。着任して3カ月が過ぎたころだった。

【営業術(1)】日頃のコミュニケーションが人脈を手繰り寄せる

 学校でみずから環境教育授業を行い、それをベースに教員たちでADIWIYATAの受賞に向けた活動を進めていってもらう——。そんな青写真を描いた里見さんだったが、環境教育授業を行う学校については、配属先からの推薦などはなく、自力で確保していくほかないという状況だった。その開拓の足がかりとなったのは、先輩隊員に紹介された市内のある学校の校長だった。同校を訪ね、「環境教育授業を実施させてほしい」とお願いすると、校長は快諾。そうして最初の活動先が得られただけでなく、校長の縁でさらに数珠つなぎに活動先が見つかっていった。教育活動に意欲的な校長は、学校行事を頻繁に開催していたが、里見さんは活動のヒントを探すため、しばしばそれらを見学。するとそこには、他校の校長たちもよく見学に訪れていた。里見さんは彼らに話しかけ、環境教育を行っていることを宣伝。そうして、新たな訪問先を獲得していったのだった。
「人が集まる場所は、一気に人脈を広げるチャンスなのです」
 一方、里見さんは日頃からインドネシアの人たちと積極的にコミュニケーションをとることも大切にした。
「市内には600もの小・中学校があります。そのため、街に出れば至る所で教員の方たちと出会う可能性があるんですね。ですので、地域のイベントなどにも足を運び、服装などから『教員らしい』と見える人がいると、声をかけるようにしていました。もちろん、空振りも多々ありましたが、そうやって話しかけた人が実際に校長先生であり、その後の活動につながることもありました」

【営業術(2)】「プレゼンテーション」の活用

 里見さんが「営業活動」によって獲得した活動校での環境教育授業をスタートさせて間もなく、ある問題が表面化した。授業では「ゴミ」への意識を高めることを狙い、日本の学校で行われている「ゴミの分別」などの取り組みを紹介したが、授業を行った学校を後日訪問すると、相変わらず校内にゴミがポイ捨てされているケースがあったのだ。環境教育授業が子どもたちの行動変容に結びつくためには、教員たちの理解と協力が必要。しかし当該校の教員たちには、里見さんの授業を受けて自ら子どもたちへの働きかけを行おうという意思がなかったのだった。
 この事態を打開するためのヒントを見つけたのは、ある学校で初めて授業を行うため、事前の打ち合わせで同校を訪れた際のことだ。計画している授業の概要を説明したところ、「口頭の説明だけではわかりづらい。『プレゼンテーション』をしてくれないか」との要望を受けたのだった。
「必ずしもJICAボランティアのことを知っているわけではない相手に対して、こちらがどんなことをやりたいと考えているのか、言葉だけでは正確なイメージが伝わらないんですね。私自身も腑に落ちた要望でした」
 そうして里見さんは、以後、初めて授業を行う学校での事前の打ち合わせでは、教員たちに向け、パワーポイントのスライドを使いながら以下のような構成のプレゼンテーションを行うようになった。
(1)自己紹介
(2)JICAとJICAボランティアについての概要説明
(3)環境教育授業に関するそれまでの実績(実施校、回数など)
(4)提供可能な環境教育授業の紹介
「JICAの事業やそれまでの環境教育授業の実績を述べると、ぐっと信頼を寄せてもらえました。また、提供可能な授業の具体的な『カタログ』を示すことで、教員たちの興味を引くこともできました」
 加えて里見さんは、初めて授業を行う学校での事前の打ち合わせで、対象校の現状やニーズを把握するためのアンケートも実施。その結果をもとに対象校と話し合い、複数回にわたる授業の流れを作成した。そうして「ニーズ」と「シーズ(活動の種)」のすり合わせをしたことで、里見さんの環境教育授業が現場の状況に合ったものになっただけでなく、授業に参加する教員が増加。なかには熱心にメモを取る教員も現れたのだった。
 里見さんは最終的に、全28校、合わせて96回の授業を実施することが叶った。うれしかったのは、里見さんが任期を終えるとき、活動先の校長から「後任の隊員も学校で環境教育をしてくれるのか?」という質問を受けたこと。次のボランティアへとバトンをつなげられたことにひと安心し、里見さんは帰国の途に就いたのだった。

学校で環境教育授業をスタートする際に、対象校の教員に向けて自身の意図を知ってもらうために行ったプレゼンのスライド例。自己紹介のページ

同じスライドの、実施可能な環境教育授業の中身を説明するページ

後輩ボランティアの方々へ

基本的なことですが、とにかく「現場」に足を運び、いろいろな人と出会い、積極的に話しかけてみることが、JICAボランティアの活動にとっては大切な第一歩だと思います。私の場合、海岸でゴミ拾いイベントを実施したいと考えた際、事前に海岸の様子を見に行ったところ、ゴミ拾いをしている学校関係者に出会うことができ、それが縁で学校巡回につながったということがありました。まずは関係者の根拠地に足を踏み入れてみると、思わぬ縁が生まれるかもしれません。

里見さん基礎情報

【PROFILE】
1985年生まれ、群馬県出身。理系大学院の修士課程を修了後、印刷会社に就職。経営管理部で主に事業計画の策定や業績管理に携わった後、2017年4月、協力隊員としてインドネシアに赴任(民間連携ボランティア制度)。18年4月に帰国し、復職。

【活動概要】
マカッサル市(南スラウェシ州)の環境管理事務所に配属され、主に以下の活動に従事。
●住民説明会での環境啓発
●学校での環境教育授業の実施
●小学校教員向けの環境教育に関するワークショップの実施(他ボランティアとの協働)

知られざるストーリー