積極的な挨拶とコミュニケーションで
生徒たちの授業への出席率が向上

西島百合子さん(ガーナ・PCインストラクター・2015年度4次隊)の事例

教員養成校に配属され、ICTの授業を担当することになった西島さん。生徒の出席率が低いことが課題だったなか、授業の空き時間に校内を歩き回り、生徒たちとコミュニケーションを図ったことで、出席率が向上していった。

ICT授業で生徒たちにPC操作の指導をする西島さん

 PCインストラクター隊員として西島さんが配属されたのは、3年制の教員養成校。ガーナ第4の都市にあり、生徒数は1300人にのぼった。ひとクラスは30人程度で、いずれの学年も10以上のクラスがあった。ICTの授業が必修とされていたのは1、2年次。2人の教員に非常勤のインターンシップ生を加えた3人が担当していた。教員数は明らかに不足しており、西島さんは着任早々から、13クラスある1年生のすべてのICT授業を、一教員として担当することとなった。
 着任後、数週間で迎えた初授業。西島さんがスタンバイしていたPC教室には、開始時刻を過ぎても生徒たちが一向に現れない。同僚に相談するも、「すぐに来るから」と呑気な答えが返ってくるのみ。結局、西島さんの初めての授業は最後まで生徒が現れず、肩透かしを食らう形となった。
 その後もしばらく、半数以上のクラスで生徒が授業に現れず、残りのクラスも出席人数は3、4人という状態が続いた。
「初回の授業で待てど暮らせど生徒が来ないのには、本当に驚きました(笑)。当初は生徒が出席しない理由もわからなかったので、ひとりでも生徒がいれば、とにかくカリキュラムに沿った授業を続けていきました」
 なぜ生徒の出席率が低いのか。西島さんは閑散とした教室での授業を続けながらこれを探り、原因を次のように整理した。
●西島さんが「ICTの教員」であることが、生徒たちに認識されていない。
●生徒たちは外国人と触れ合う経験が少ないため、西島さんとの間に距離がある。
●生徒たちが興味・関心を持てないような授業内容となっている。
●1年生ではICT授業が成績評価の対象外となっている。
●時間割に不備があり、ICT授業がほかの授業とバッティングしているクラスがある。

【営業術(1)】校内を歩き回って顔を売る

授業の空き時間に生徒たちとコミュニケーションをとる西島さん。折り紙に興味を持った生徒たちと花を作成した

 生徒たちとの間の「距離」が気になり始めたのは、着任後すぐのことだ。教員であるということが生徒たちに周知されていなかったため、彼らにとって西島さんは、突如現れた単なる「見知らぬ外国人」。戸惑いからか、生徒たちに話しかけても、一歩引いた反応を取られていた。
「距離」を感じた点では、ICT科以外の教員たちも同様だった。任地では援助機関の外国人スタッフが視察に訪れるのは珍しいことではなく、西島さんも当初は教員たちに「2年間を共にする同僚教員」と認識されていなかった。ゆえに、彼らは西島さんを歓迎してくれたものの、その対応は「一時的に滞在するだけのゲスト」に向けたものにとどまっていたのだった。
 以上のような状況に対して西島さんが取った行動は、授業の空き時間に校内を回り、生徒や教員にみずから積極的に声をかけ、コミュニケーションを図ることだった。
「まずはできることから始めようと、とにかくしつこいくらいに挨拶しました。生徒や教員の人数がとても多い学校だったので、自分の顔を売り込むためにも、マメに動き回り、彼らとの接点を多く持つことに注力しました」
 日頃のこうした「営業活動」の結果、やがて生徒たちも警戒心を解き、名前を呼んで西島さんに挨拶してくれるようになっていった。

【営業術(2)】人が集まる所には積極的に参加

毎週月曜日に行われる朝礼の様子

 配属校では毎週、月曜日の午前6時30分から朝礼が行われ、生徒と教員たちが全員出席することになっていた。西島さんが初めてその場に出席したのは、着任して2カ月が経ったころのこと。西島さんはこの朝礼も「営業」の場として活用した。
「そもそも私は朝礼が行われていることを知らされていなかったんですね。同僚たちは、まさか私が出席するとは思っていなかったようでした。その様子を見て、やはり『ゲスト扱い』をされているのだと再確認し、以来、毎回出席するようにしました。すると、生徒たちからは、『教員と同じ並びにいる私』が目に入るんですね。そこから少しずつ、生徒たちに『教員』として認識されるようになっていきました」
 その後、迎えた新学期の冒頭に行われた全校集会でも、改めて全校生徒の前でICTの教員として挨拶をする機会を得ることができた。また、日常生活でコミュニケーションを取ることも続け、スポーツ大会などの学校行事に積極的に参加するなど、生徒や教員と一緒に過ごす時間を意識的に設けていった。
 こうして顔を売り続けた結果、「見知らぬ外国人」から「ICTの教員」へと変わり、第一関門を突破した西島さん。授業に出席する生徒も徐々に増加していき、着任当初の数倍へと押し上げることが叶ったのだった。時間割上のコマのバッティングについても学校側に改善してもらうことができ、出席者がゼロのクラスもなくなったのだった。
 生徒や同僚たちとの関係構築と並行して西島さんが力を入れたのは、授業の魅力を高めるための対策だ。2年生がICT科の試験があるため、机上での学習が主となる。そのため、PCに親しみ、実践を積むことができるのは1年生の間のみ。しかし、それまでは1年生の授業でも、文字を羅列し、同僚が説明していくという流れで進められていた。それでは生徒たちの興味を引くことができないと考えた西島さんは、教材に「アニメーション」を組み込んだり、PC操作の練習のために「ゲーム」を取り入れるなど、生徒たちが楽しめるような授業を試みた。そうした工夫に対する生徒たちの反応は上々だった。授業で出す課題に熱中して取り組む姿が見られたのだ。やがて「西島先生の授業は楽しい」と評判になっていった。
 授業の出席率を高めるために奮闘する西島さんの姿は、同僚たちの心にも響き、彼らとの関係の深化にもつながっていった。ある同僚は、「あなたは教員のひとりとして、私たちに歩み寄り、一緒に活動をしてくれる」との言葉をかけてくれた。「ゲスト」としてではなく、「一教員」として受け入れてもらえるようになったことを実感する出来事だった。

後輩ボランティアの方々へ

「大きなことを成し遂げよう」「何か成果を残さなければ」と焦る気持ちもあると思います。しかし、「毎日、自分から元気に挨拶をする」「顔を合わせるチャンスを積極的につくる」といった小さなことの積み重ねが大事ではないかと感じます。自分の存在意義を否定されてしまうこともあるかもしれませんが、焦らずに。まずは自分にできることを精いっぱいやることから始めてみてください。

西島さん基礎情報

【PROFILE】
1986年生まれ、神奈川県出身。帝京大学を卒業後、2008年より外資系ITコンサルティング会社にシステムエンジニアとして7年間勤務。16年3月に協力隊員としてガーナへ赴任。18年3月に帰国し、同年8月より地域おこし協力隊員として愛媛県宇和島市で勤務。

【活動概要】
タマレ教員養成校(ノーザン州タマレ市)に配属され、主に以下の活動に従事。
●ICTの実技授業の実施
●ICT授業の方法に関する同僚への助言
●校内のPCのメンテナンス

知られざるストーリー