個別の練習メニューを軸に
練習に対する意識改革を促進

中野純平さん(パラグアイ・ウエイトリフティング・2015年度2次隊)の事例

パラグアイ・ウエイトリフティング連盟に配属された中野さん。「弱みを克服するための練習」には消極的だった選手たちに対し、個別の練習メニューを作成し、練習に対する意識の改革を図った。

大会のウオーミングアップで教え子のフォームを確認する中野さん(右)

 中野さんが配属されたのは、パラグアイ・ウエイトリフティング連盟。活動場所は、同国スポーツ庁のトレーニング施設内のジムだった。施設には陸上競技場や空調完備の体育館などもあり、別の種目でもスポーツ分野の隊員が派遣されていた。中野さんに求められていた活動は、代表選手を含む10〜40代の選手約30人に技術指導を行うこと。中野さんは連盟に派遣された2代目の隊員で、前任者は普及活動により新たな有望選手を発掘した。しかし、なかにはその後、記録が伸び悩んでいた選手もおり、彼らのサポートを期待されて派遣されたのが中野さんだった。
 中野さんはまず、選手と一緒に自らも練習に取り組みながら指導をするというスタイルで、活動をスタート。スペイン語が未熟な分、「手本」を見せることでそれをカバーしようとの考えからだった。
 中野さんにとって初となる国内試合が開催されたのは、着任して4カ月が経ったころ。すると、記録が伸び悩んでいた選手が好成績をあげる。それを境に、中野さんに対する選手たちの態度に変化が訪れた。それまで「受け身」気味だった彼らが、技術に関する質問を積極的にしてくれるようになったのだ。

個別の練習メニューで対応

大会で試合に臨む選手に気合いを入れる中野さん(左)

 パラグアイの選手たちには、「パワー」という強みがある反面、「瞬発力」や「柔軟性」などが弱みとなっている傾向があった。選手たちは強みをさらに伸ばす練習には積極的に取り組むが、弱みを克服する練習は避けようとする。中野さんは、体が硬い選手に「ストレッチをするべきだ」と繰り返し伝えるなど、口頭で意識改革を促そうとしたものの、相手になかなか変化は見られなかった。
 そうしたなか、彼らの意識を変えるための策として試みたことのひとつは、選手ひとりひとりに合った個別の練習メニューを毎月作成し、課題の「見える化」を図ることだ。練習メニューの作成にあたって工夫したのは、選手の置かれた環境に合ったものにすること。選手たちはいずれも、仕事を持つか、学校に通うかしており、それらの空き時間を使ってウエイトリフティングに取り組んでいる。そのため、どれくらいの時間、練習に取り組めるかは、その日になってみないとわからない。そこで中野さんは、練習メニューの中身を「必ず取り組むべきもの」と「時間が足りなければ省略しても構わないもの」に区分。与えられた時間で最大限の効果が生まれるよう工夫した。
 練習に対する選手たちの意識を変えるために中野さんがとったもうひとつの策は、「現在の自分の力」をしっかり把握させることだ。従来配属先では、選手たちがそれぞれ練習中にどれくらいの重量を上げたかは、指導者がメモしていた。しかし、それを選手たちに示し、共に課題を探る作業などをしていなかった。一方、中野さんは各選手に対し、月のベスト記録の推移を示しながら、翌月の練習メニューのポイントを説明していった。
 以上のような「個別の練習メニュー」を軸にした指導方法により、選手たちの意識も徐々に変化。弱みを克服する練習への積極性が見られるようになっていったのだった。

大会は情報収集の好機

パラグアイの選手たちと中野さん(後列中央)

 教え子たちが国際大会に出場するチャンスが訪れたのは、着任の約1年後だ。南米で開かれたジュニア選手権である。教え子の大多数は、国際大会に出場した経験がなかった。にもかかわらず、国内の他選手との比較から過剰に自信を持つ「井の中の蛙」の選手もいた。中野さんは、この大会への出場で「世界との差」を痛感し、成長の糧にしてもらおうと期待していた。ところが、中野さんの予想に反して、個人で3位という好成績を上げたのだった。期待とは違う結果となったが、この大会は予期せぬ影響があった。大会後、中野さんのコーチングが的確だと、選手たちからの信頼が増したのだった。
 国際大会出場は、ほかにも重要な収穫があった。引率した中野さんは、参加した他国の一流コーチたちと積極的にかかわり、情報を交換。中南米の選手に有効な練習方法などを知ることができ、その後の練習に反映させることができた。以後、選手たちの記録は如実に向上。半年に平均で10パーセントという伸びを見せたのだった。
 任期終了が近づくにつれて重要になっていくのは、自身の任期が終了した後のために何をすべきかという点。中野さんが心がけたことのひとつは、選手たちが独力で練習を重ねられるよう、「正しいフォーム」を繰り返し教え、それが揺るがないようにすることだ。さらに中野さんは、練習の「管理方法」についても選手たちに伝えるよう努めた。練習メニューをどのような理論的根拠を基につくっていくか、あるいは各練習方法にはどのような目的があるかなどを、ひとつひとつ選手たちに説いていったのだ。
「『土砂降りの雨でもトレーニングを欠かさない』とも言うべきひた向きさがあった」。中野さんは教え子たちをこう振り返る。そうした資質をベースに、やがてパラグアイのウエイトリフティング界をけん引する指導者が教え子のなかから生まれることを、中野さんは期待している。

事例のポイント!

大会で情報収集を
スポーツ指導を行う隊員は、大会に選手を引率する機会がある場合も少なくないだろう。大会は、隊員自身が視野を広げる格好のチャンス。他の指導者と積極的に情報交換することで、現地の選手たちの特性などが見えてくるかもしれない。

中野さん基礎情報




【PROFILE】
1991年生まれ、長野県出身。松本大学卒業後、2015年10月に協力隊としてパラグアイに赴任。18年1月に帰国し、公益社団法人日本ウエイトリフティング協会に勤務。

【活動概要】
パラグアイ・ウエイトリフティング連盟に配属され、ウエイトリフティングに関する以下の活動に従事。
●配属先のジムに通う選手への技術指導
●国際大会への選手の引率
●公演などを通じた普及活動

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