活動Q&A集〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】

白旗和也さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:体育)
●日本体育大学教授

Question 1:運動会を開催する際の留意点とは?

小・中学校で活動する体育隊員より

 アフリカ地域の多くの学校では学校体育が名ばかりで、現地の先生も体育の楽しさを体験してきておらず、価値を十分に認知しているとはいいがたい状況です。
 そこで、子どもたちに運動の機会を提供しつつ、先生に体育の意義を伝える目的で運動会を実施できないか、現地の先生と話し合っています。実施する以上は、隊員が帰国後も持続可能な運動会にしていきたいと考えています。運動会を開催することのメリットとデメリットだけでなく、運動会開催を契機にこれまでの隊員がその後の活動をどのように行ったのかなど教えていただきたいです。

Answer

 運動の楽しさを知るうえでは、みんなが参加する運動会を開催することは一つの有効な手段といえます。しかし、いくつか留意しなければならない点があります。1つ目は、現地に合わせた運動会を考案すべきで、日本のものを移植しようと考えてはいけないということです。日本の種目は必ずしも受け入れられません。背景として、運動に対する意識や宗教、文化、環境が大きく異なるからです。
 もう1つの理由は、自立して実施できるようにしたいからです。自分たちで考案したものならば大切にします。移植するのは、あくまで趣旨や実施方法です。
 そこで、大切な2つ目は、5W1Hをはっきりさせて行うことです。何のために、いつ、どこで、だれが、なにを、どのようにするのかを明確にして進めることです。ここまで具体化して実施しなければ、組織的に運営できません。役割を明確にして行うことで、自覚が生まれます。
 3つ目は評価をきちんとすることです。運動会が無事に終わりよかったと安堵し、余韻に浸ることも大切ですが、その後、実施体制、活動計画、内容、役割分担、費用、そして何より現地の人々の満足度について評価することです。うまくできたことは十分賞賛し、改善点は明確にしたうえで、次年度の改善計画を立てます。その際、次回はどこまで任せられるのか、隊員の撤退計画を立てます。最終的には現地の教員や地域で実施していけるように、任せられることは任せていきます。大きなイベントを成功させることは大きな自信になり、何事にも自ら取り組む意欲につながります。こうして、自分たちでできそうだと認識してもらうことで、運動会にとどまらず、体育の授業への自信にもつながっていきます。

Question 2:実習生を対象に研修会を行う場合の留意点や効果的な方法は?

教育実習生の受け入れ小学校で活動する体育隊員より

 現在、教員養成校の実習先である小学校を拠点に活動しています。普段はこの小学校で授業を実施していて、現地教員と協力して体育の授業を行っています。今後、教育実習として養成校の学生が来るのですが、現地では体育の実習はほとんどされていません。そこで、実習生を相手に研修会を行いたいと考えているのですが、学校の先生や学生を対象にした研修などを実施する場合には、どのような点に留意し、どのような研修を行うと効果的であるのか、それがわかるような優良事例はあるでしょうか。

Answer

 開発途上国では、体育科教育に対して、あまり意識が高くない現状があります。そこで、はじめに体育の価値を高めることが必要です。研修時間がどれほどあるのかにもよりますが、押さえどころとしては、(1)「運動することの楽しさや意義を共有すること」、(2)「体育の目標・内容を知ること」、(3)「具体的な指導法を知ること・実践すること」です。
 (1)については、まず、一緒に運動をして楽しむ機会を作ると効果的です。その際、誰でも楽しめ、すぐにできる易しい運動、そしてふれあいのある運動を選択することが肝要です。簡単なゲームを扱うのも効果的です。きっとみんなが笑顔になることでしょう。そこで、みんなが楽しめた訳を考えます。「易しい運動だったので、達成感が味わえたこと」「関わりながら運動できたこと」「勝つためにチームで工夫したこと」などが挙がるでしょう。それらが体育の意義でもあります。このように体育では、楽しさを実体験することで体育の意義を頭・心・体で理解できます。
 (2)では、授業で何を押さえたらよいかを確認します。各国には学習指導要領が作成されていますが、中にはその国の現状に即していないものもあります。その場合、日本の学習指導要領をベースに進めるとよいでしょう。日本に限らず、世界的に体育の究極的な目標は豊かなスポーツライフです。つまり、各自に応じた生涯スポーツです。生涯にわたって自分に合った運動を続けられるようにしたいのですから、いかに運動が好きになれるか、そこに向けて授業を創造できるかが大きなポイントです。運動が好きになるためには、楽しさを感じられることが重要です。そこについては、(1)の研修で感じていますので、それらの要素が含まれるように授業を考案します。
 そして、仕上げは(3)になります。グループで考えた授業の1時間を実際、模擬授業として実施し、振り返ります。さらに改善した授業を実施し、よかった点を賞賛します。このように楽しさから入り、成就感が味わえる研修が受講者の自信(効力感)を高めます。2回目の研修には各自が実践した授業を持ち寄ると、発展的で具体的な協議ができます。


「スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)」とJICA海外協力隊

 SFTとは、東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて日本政府が実施する、スポーツを通じた国際貢献事業のこと。2014年から20年までの7年間で、途上国を含む100カ国以上で、1000万人以上を対象に活動することを目標としています。SFTコンソーシアムの運営委員を務めるJICAは、JICA事業を通してSFTを推進する立場にあるため、協力隊員が派遣国で実施するあらゆるスポーツ活動が、SFT事業の実績としてカウントされます。1965年の協力隊派遣当初から2018年3月末で、88カ国に延べ4184人が体育・スポーツ職種の隊員として派遣されており、そうした実績と経験が、SFTプログラムにJICAが協力する背景のひとつとなっています。

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