他国からのボランティアと
妊婦対象の講習会を実施

杉浦美帆さん(グアテマラ・栄養士・2016年度1次隊)の事例

教育行政機関に配属され、栄養に関する課題の解決支援に取り組んだ杉浦さん。同じ任地の病院で活動していた他国からのボランティアの橋渡しにより、細かな調整が必要な保健行政機関の施設で活動を展開することが叶った。

小学校教員を対象にした「軽食づくり」に関する講習会で、栄養バランスの良いメニューの例を紹介する杉浦さん(右)。現地の人たちには「野菜嫌い」の傾向があったが、軽く揚げたり、酢を効かせたりして食べやすくしたものは好評だった

 杉浦さんの配属先は、グアテマラ教育省の地方出先機関であるキチェ県教育事務所。求められていた活動は、同県ホヤバフ市を管轄する学区事務所を拠点に、同市内の小学校やコミュニティで栄養に関する課題の解決を支援することだった。
 教員や学校の管理をしている「学区調整員」が杉浦さんのカウンターパートだったが、教育技官である彼らには栄養に関する専門性はなく、優しく接してはくれるものの、活動については「自由にやってください」と放任のスタンス。学区事務所には栄養士もいなかったため、杉浦さんは当初から独力で活動をつくり、実践していかなければならない状況だった。
 要請書には、「ホヤバフ市では子どもたちの栄養が不足している」という情報が記載されていた。しかし、着任してみると、それを示すデータが見当たらない。そこでまず、杉浦さんは小学校における栄養の課題を見極めるため、自身の担当校だと配属先に指定された小学校13校で身体測定を実施。さらにその一部の学校では、児童を対象に栄養に関する知識を問うテストも行った。その結果、たしかに「やせ気味」の児童が多い一方、「肥満気味」の児童もいること、児童には栄養バランスに関する基本的な知識がほとんどないことなどがわかった。
 この調査を踏まえ、杉浦さんが任期前半のメインの活動としたのは、担当の13校を巡回し、4〜6年生のクラスで食育の授業を行うことだ。単独での実施である。
 グアテマラの公立小学校は午前中で授業が終わるため、「給食」はないが、中休みに「軽食」が出される。児童の栄養改善を目的とした制度だ。杉浦さんは任期の後半に入ると、この「軽食」の改善に活動の軸足を移した。予算が倍増されたことを受けてのことだ。
 各校に栄養士や調理師は置かれておらず、「軽食」は教員がメニューを考え、教員や保護者が調理をする。そのため、杉浦さんが着任した当時、栄養バランスの面で課題があった。ホヤバフ市の小学校で一般的だったメニューは、トウモロコシなどの穀物を原材料とする粉末を牛乳に溶かしただけのものが主流だったのだ。そうしたなかで杉浦さんが取り組んだのは、ビタミンやタンパク質が摂れるようなバラエティーに富んだメニューの導入を支援すること。具体的には、担当校の教員や調理担当の保護者を対象に、新規メニューの提案やその調理法の指導、さらには「メニューづくり」「食材調達」「衛生管理」など軽食づくりに必要な一般的知識の伝授なども行った。この活動も、基本的に単独での実施だった。

新たな活動場所を獲得

米国平和部隊のボランティア(奥の右から2人目)と共に妊婦対象の講習会を行う杉浦さん(奥の右端)

 以上のように「小学校」を舞台とした活動が柱のひとつだった杉浦さんだが、当初から小学校以外の場で活動するチャンスも模索。手探りでコミュニティや医療施設に足を伸ばすなどして、情報収集に努めた。そうして、次第に活動パートナーとなる人や団体とのつながりが配属先外に生まれていったが、なかでも重要なパートナーとなったのは、同市で活動する米国平和部隊のボランティア(以下、Aさん)だ。彼女とタッグを組んだことで、任期の終盤、活動に新機軸が加わった。市内の農村部10カ所にある保健所支所を回り、地域の妊婦を対象に保健に関する講習会を実施する活動である。
 Aさんの配属先は、ホヤバフ市保健所に隣接する病院。医療の専門性は持っていなかったが、着任前の研修で学んだノウハウを使って母子保健分野の啓発活動を行っていた。杉浦さんは保健所を訪問した際にAさんと出会うと、同じ外国人ボランティアということですぐに意気投合した。
 杉浦さんが「地域の女性に向けて栄養に関する講習をしてみたい」とAさんに相談したのは、出会いからしばらく経ったころ。Aさんにも同じ希望があったことから、協働で講習会を開催することとなったのだった。
 1回の講習会は2〜3時間。講師役は得意分野に応じて2人で分担。Aさんが「家族計画」や「出産時のリスク」などに関する講習を担当し、杉浦さんは「妊婦が摂るべき栄養」や「離乳食」などに関する講習を担当した。Aさんが講習を担当したテーマは、彼女が病院や保健所で普段から講習を行っているものだった。

保健所との間の橋渡し

妊婦対象の講習会で、ニンジンなどの野菜を使って実際に離乳食のサンプルをつくり、年齢ごとにどの程度の硬さや大きさが適切かを伝える杉浦さん(手前右)

 Aさんと協働することにはさまざまなメリットがあった。そのひとつは、受講者にとって「費用対効果」が高い講習会となった点だ。保健所支所に何度も足を運ぶことは妊婦にとって負担だが、杉浦さんとAさんが協働したことにより、1回の講習会でより多くの情報が得られるようになった。
 もうひとつのメリットは、講習会の「マネジメント」に関するものである。教育行政機関に配属されている杉浦さんにとって、保健所支所やそれを管轄する保健所は「未知の世界」。保健所支所で活動することについて、杉浦さんが単独で保健所に打診したこともあったが、返事は良いものの、実行に移してもらえなった。一方、病院に配属されているAさんは、保健所とのつながりが強かった。そのため、この活動では、講習会の開催日や受講者集めなどに関する保健所支所との間の調整を、Aさんが一手に担ってくれた。言わば、Aさんに相乗りする形で、杉浦さんの新たな活動が生まれたのだった。
 協働の活動だったことは、保健所側の協力姿勢にも影響があった。「外国人ボランティア2人がそろって行くなら」と、行き帰りに使う車を用意してくれたほか、保健所支所の看護師たちも、妊婦への参加の呼びかけや、講習での現地語への通訳などを請け負ってくれたのだ。
 講習会の後、開催した保健所支所の看護師から「今後、同様の講習会を自分たちで続けていきたいので、使った教材を残していってほしい」と要望されることもあり、杉浦さんとAさんの活動は一過性で終わらないものとなった。

杉浦さんからのメッセージ

「協働の可能性」を常に意識!
新たな出会いがあったら、まずは「この人と一緒に何かできないか?」と考える。この習慣は大切だと思います。というのも、私はAさんと出会ってから協働を発想するまでにタイムラグがあったため、「もっと早くから協働していれば、もっと活動が広がったのに」という思いが残ったからです。

杉浦さん基礎情報




【PROFILE】
1983年生まれ、愛知県出身。病院と保健所に計8年間、栄養士として勤務した後、2016年6月に協力隊員としてグアテマラに赴任。18年6月に帰国。

【活動概要】
キチェ県教育事務所に配属され、主に以下の活動に従事。
●小学生を対象とした身体測定、栄養知識テスト、食育授業、学校菜園の実施
●小学校で配給される軽食の改善支援
●妊婦を対象とした健康に関する講習会の実施(米国平和部隊ボランティアとの協働)

知られざるストーリー