“失敗”から学ぶ

着任直後に学校の重点目標の作成を依頼され、つくったものの……

文=門之園佳子さん(日系JV/ボリビア・日系日本語学校教師・2016年度派遣)

門之園さん(後列右端)が担当していた最上級生の卒業式の写真

 主な活動先であるサンタクルス日本語普及学校の授業見学を始めて1カ月が経ったとき、当時のカウンターパートだった校長から各学年の到達目標と学校の重点目標を変えてほしいと言われました。重点目標が25年間変わっておらず、毎週土曜日だけの授業で夏期講習もやめてしまった今の子どもたちの日本語力には、合っていないからという理由でした。
 できれば3カ月後の新学期から配布したいという校長の希望に、「私にできることなら!」と勢い勇んで引き受け、学年ごとに文章で短く書いてあっただけの到達目標を表にして、「聞く・話す・読む・書く」の4技能別の目標に加え、学習語彙や文法、使用教材なども見やすく改善しました。学校全体の目標を今までつくったことがなかったので、小学校教育の同期に頼んで他校の要覧などを見せてもらい、他の先生たちに担当クラスの学力などを聞き、日本の教育指導要領なども参考にしました。やっとできあがったとき、自分では「けっこういいのができたじゃないの~!」と大満足でした。校長に見せたら本当に喜んでくれて、「素晴らしい」とおっしゃってくれました。そしてウキウキしながらコピーをして、先生たちに「来年からこれを参考にしてくださいね~」と配り、先生たちがいつでも見られる場所に置かれることになりました。
 ところが、新学期が始まり職員室を見まわしてみても、重点目標を見ている先生はひとりもいません。そしてなんと、校長も私自身も全く見なかったのです。先生たちに「重点目標は参考にされていますか?」と質問して回りましたが「あ……うちの学年はまだここまで進んでいないので見ていないんです。すみません」と言われました。私の方がすみませんという気持ちです。自分でも見ないのだから他の先生が見ない理由は明らかです。
 立派な目標を掲げましたが、それは他を真似ただけで、この学校の、この子たちのためにつくられた目標ではなかったからです。実際の授業や日系社会の行事の練習・準備、他クラスの授業見学と、学校で過ごせば過ごすほどに、最初につくった重点目標は飾り物のようだなと、感じるようになりました。結局、つくり直すことになりましたが、今でも最初につくった重点目標は持っています。この失敗も大切な経験だと思うからです。

隊員自身の振り返り

失敗した原因は、「時期尚早」「ひとり作業」に加え、先生たちに「JICAの人ってこんなことができるのか」と思ってもらいたかった「見栄」があったことです。無理して外見ばかり上出来な物をつくってしまいました。一方、この失敗があったからこそ、学校の1年をしっかり経験してから、先生全員と何度も職員会議を繰り返し、学校のカリキュラムを作成することができました。「私ひとりではつくれない。だから、みんなに助けてもらい、みんなでつくることが大切だ」と伝え続けました。失敗したときは本当に落ち込みますが、この経験があってよかったなと思える日が来ると思うので、活動中の皆さんもがんばってください。

他ボランティアの分析

現場で望まれていることをじっくりと観察

 私の場合も、着任後すぐは気負いもあり、教員のレベルアップとして大学の講義のようなことをしていました。誰も批判しないので、疑問も持たずにいましたが、実際に望まれていたのは、多くの人たちに日本語学習の楽しさを知ってもらうことでした。その後は、オリジナルの着ぐるみを製作し、自らも着て、講演会などに軸足を移していきました。要請を出す幹部と、実際に仕事を共にする同僚たちの考え方が異なることもあります。最初は時間をかけて、現場で何が望まれているかじっくりと観察することも必要と思われます。
文=協力隊経験者
● SV・日本語教育・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
日系人協会に所属し、日本語の普及とレベル向上を目指し、日本語教育や教科書や教材の研究などを行った。

まずは配属先を知ることが重要

 私も配属当初、現地の事情を十分に理解しないまま新しいことを始めようとして失敗したことがあります。日本人教師は母語話者であっても、配属先での仕事に関しては「新人」です。そのことを理解して、CPや同僚教師に、配属先の事や日本語教育事情などを教えてもらい積極的にコミュニケーションを取ることで活動がスムーズになりました。現地のことは現地の先生がよくわかっています。ひとりで何かしようとするのではなく、活動にかかわる多くの人に意見をもらい、一緒に考えていくことでよい活動ができると思います。
文=協力隊経験者
● アジア・日本語教育・2014年度派遣
● 取り組んだ活動
公立高校で第一外国語として日本語を学ぶ生徒に指導を行った。普段の授業だけでなく、日本や日本文化への理解が進むようにと、スピーチ大会などのイベントの企画や運営にも取り組んだ。

門之園さん基礎情報




【PROFILE】
1981年生まれ、大阪府出身。京都外国語大学の日本語学科を卒業後、タイのバンコクにある日本語学校に勤める。そこでタイマッサージの資格を取得。帰国後、日本やオーストラリアでセラピストなどとして勤務後、2016年4月、日系社会青年ボランティアに参加。2018年7月に帰国。

【活動概要】
ボリビアの日系社会子弟の日本語力向上と日本語学校の活性化のため、以下の活動を行う。
●毎週土曜日の日本語授業
●カリキュラムづくり
●校内研修や日本語教師合同研修会への参加、企画
●日系社会の行事への参加
など

知られざるストーリー