JICA Volunteer’s before ⇒ after

片岡希望さん(タイ・ソーシャルワーカー・2014年度4次隊)

before:介護老人保健施設支援相談員
after:介護職業訓練校の現地法人職員

 介護老人保健施設で支援相談員として、6年間働いた後、協力隊に参加した片岡さん。タイでソーシャルワーカーとして活動中に、日本企業がミャンマー初の介護職業訓練校を設立する話を聞き、就職を決意。現在は、同校を開校するため、ミャンマーで働いている。

入口から出口まで人を支える

[before]他職種の隊員と協働し、来所高齢者へのアクティビティを実施する片岡さん(右)

 福祉関係の仕事に携わっていた父と祖母の影響で貧困問題に興味を持ったという片岡さん。「困っている状態から良い状態になるまで、その人にかかわりたい」と思い、福祉関係の支援相談員になろうと決めたのは中学生のときだ。高校生になり協力隊も進路のひとつと考えた際、要請書を見て社会福祉系の職種は実務経験が必須なことを知る。そこで、大学に進学し、ソーシャルワーカーの資格を取得。卒業後は介護老人保健施設の支援相談員となって、実務経験を積んでいった。
 ソーシャルワーカーは、支援を必要とする人やその家族の相談に乗り、利用できる社会福祉サービスを伝え、多様な職種の人たちをつなぎ、困りごとの解決に当たる。高齢化が進んだ今の日本には欠かせない仕事だ。片岡さんは、施設に6年間勤務し、協力隊への参加を考えたが、日本で必要な仕事なのに本当に海外に行く必要があるのか、悩んだという。
「今、日本にはソーシャルワーカーが約3万人いますが、その中から海外に出る人は非常に少ない。だからこそ海外で日本のソーシャルワークを伝える意義があると思いました」
 高齢者福祉の要請を探し、応募。ソーシャルワーカーとしてタイの高齢者施設への派遣が決まった。活動先は、高齢者の通所施設で、比較的元気で裕福な高齢者が通所する場所。求められた活動は、通所者に対する介護予防のアクティビティなどが多く、自身が取り組みたかったソーシャルワークに関連する活動が少ないことに歯がゆさを感じていた。しかし、配属先のニーズに沿うため、通所する高齢者のためにできることを日々考え、活動。少ないながら、現地のソーシャルワーカーに同行し、国営の介護施設への入所を判断するため、病院訪問や家庭訪問もした。
 訪問をして知ったのが、日本とタイとの介護の違いだ。タイも日本と同じように核家族化は進んでいるが、介護保険制度はない。しかし、近所に困っている人がいれば、一緒にご飯を食べたり、泊まりに行ったりして助け合って暮らしていた。
「日本が失いつつあるコミュニティの力や人とのつながり。タイで知った地域全体で地域を見守るシステムを、日本でつくることができないかと思い始めました」
 帰国したら、その学びを生かし、困っている人と地域をつなぐ「コミュニティソーシャルワーカー」(*)として働こうと思った。一方で、専門分野であるソーシャルワークを伝えようと意気込んで海外に出たにもかかわらず、思い通りにいかず、未熟な自分を感じ、やり残した気持ちも胸の中に残っていた。

つながりが生む、新しい目的

[after]職業訓練校を設立するため、ミャンマーの保健省との打ち合わせをする合弁会社のスタッフと片岡さん(左列、手前から4人目)

 派遣中、ミャンマーで介護事業を展開する日本の企業の話を聞く機会があり、そこで現勤務先の社長と知り合った。高齢化が進む東南アジアで人材育成の重要性を感じていたこともあり興味をもったという。
 やり残したことをミャンマーでやりきろうと、帰国後、現勤務先の社長に「私はソーシャルワーカーなので、介護全般の仕事がわかる。タイで活動した経験もあり、きっと役立つ」と売り込んだ。その結果、日本とミャンマーの企業の合弁会社が介護職業訓練校を設立する事業を行っており、その現地スタッフとして雇用された。同校は、将来的にミャンマーでも必要とされる高齢者介護支援を学ぶ学校で、卒業後は、日本の介護施設への就職も斡旋。その後、ミャンマーで日本の介護経験を還元してもらうことを目的としている。
 現在は、設立準備のため、役所への申請書類や訓練に必要なカリキュラムの作成に取り組んでいる。日本とは違う状況を、現地の人にどう伝えるかなど、思い悩むことも多い。
「ミャンマーの平均寿命は、約67歳。認知症や寝たきりの高齢者が一般的ではなく、医師も実際に担当したことがないと言います。また、排泄介助もオムツが高価で一般的ではない。周知されていないことをどう伝えていくのかが課題です。タイでの経験で、他国の介護事情への知識があるのは助けになっています」
 学校設立に一からかかわるという得難い経験は、今後の糧になると感じている。「帰国したらコミュニティソーシャルワーカーとして、高齢者だけでなく、困った人の生活が少しでも良くなることを提案し、何でもやってみたい。移動コンビニもいいですね」という片岡さん。ミャンマーのために自身の経験を生かすことが、次の一歩につながっていく。

*コミュニティソーシャルワーカー…地域において、支援を必要とする人の生活を見守り、万が一のときの早期発見につながるよう地域の人同士のつながりをつくる援助を行う人のこと。また、地域の生活支援のための新たなサービスの開発や、公的制度との調整なども行う。






片岡さんのプロフィール

[1987年]
福岡県出身。
[2009年]
3月、久留米大学文学部社会福祉学科卒業後、介護老人保健施設の支援相談員として勤務。
[2015年]
3月、青年海外協力隊に参加
選択の理由:介護老人保健施設で、業務改善に取り組み、大きな改善が見られたことで仕事が一段落。いつか参加したいと思っていた協力隊への参加を決めた。
タイのコンケン高齢者福祉開発センターにてソーシャルワーカーとして活動。来所高齢者への体操や脳トレーニングなどのアクティビティや病気の勉強会の実施、高齢者学校での講師、同僚の家庭訪問や病院訪問の同行、ソーシャルワーカーへの助言、住宅改修のアドバイスなどを行った。
[2017年]
3月、帰国。
6月、就職
選択の理由:任国外旅行でミャンマーを訪れ、長年閉鎖状態が続いていたとは思えないパワーを感じた。若い人が多く、多様なメーカーの車が走り、多くの人がスマホを持っている。「アジア最後のフロンティア」と言われるこの国に住みたい気持ちもあり、就職を決意。
ミャンマーにある日本の介護会社とミャンマーの旅行会社の合弁会社ポールスター・カイゴ・サービスの現地スタッフとして勤務。教育事業を担当し、職業訓練校の開所に携わっている。

[合弁会社ポールスター・カイゴ・サービス]
介護関連会社(さくらコミュニティサービス・笑顔いちばん)及びミャンマー現地法人(ミャンマー・ポールスター・トラベル & ツアーズ)による合弁会社。
設立:2015年7月
所在地:No.(82-A), Room-502, 5th Floor, Treasure Residence, Sayar San Lane, Bahan Township, Yangon, Myanmar
事業内容:人材サービス事業、介護サービス事業、教育事業
従業員数:9人(2018年12月現在)

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