成功も失敗も自分次第。
作業療法士としてコスタリカに残せたもの

海外で生活をしてみたいという憧れがあった大島さんは、作業療法士として日本で病院に勤務したのち、海外で生活していた。充実した生活の一方、自身の技術を使って海外で働きたいと協力隊に参加した。

大島 愛さん
(コスタリカ・作業療法士・2016年度1次隊)




[大島さんのプロフィール]
1987年生まれ、茨城県出身。埼玉県立大学保健医療福祉学部作業療法学科を卒業後、作業療法士免許取得。総合病院で4年勤務した後、フィリピン・オーストラリアへ語学留学。帰国後、訪問看護ステーションにて1年半勤務。2016年7月、協力隊員としてコスタリカに赴任。18年7月に帰国。

[活動概要]
配属先:グアピレス特別支援学校
主な活動:さまざまな障害がある生徒が通う特別支援学校(生徒数約180人)で、作業療法士として、主に以下の活動を行う。
●日常生活向上のためのトイレ・食事トレーニング
●廃材を使った姿勢補助具・自助具などの作成
●家族の社会参加活動への支援

大島さんの関係人物

[カウンターパート(※)]
ネリーさん(理学療法士):私の活動のパートナー。行動力があり、影響力のある頼れる存在。
[同僚・友人]
レスリーさん・ウェンディさん(教員):私のスペイン語のチェックをしてくれ、相談相手でもあった。プライベートでも遊んでいた仲。2人がいなければ成功しなかったことがたくさんある。
[同僚]
レオさん(体育の教員):ふざけて冗談を言ってくる、ムードメーカー的存在でいつも心を和ませてくれた。
[同僚]
ホルヘさん(美術の教員):物作りの際にいろいろなアドバイスやアイデアをくれ、たくさん助けてもらった。
[協力者]
グレーテルさん(理事会の代表):必要な物品や道具の手配など、常に協力してくれた。
[ホストマザー]
クリスティーナさん(学校の食堂の調理員):私の第二のお母さんで、本当の娘のように可愛がってくれた。職場も一緒なので学校の状況なども教えてくれた。
[友人]
日本人学校のバドミントン部の仲間:コスタリカ人・日本人混ざって土日に一緒にバドミントンをした。私のリフレッシュの時間。かけがえのない仲間。

※ カウンターパート…技術協力の対象となる、派遣国の行政官や技術者、配属先の同僚などのこと。

大島さんの活動

自助具を使った食事訓練の補助をする大島さん

 カリブ海に面するコスタリカのグアシモ市は自然の多い、のどかな市。同市にある特別支援学校に大島さんは配属された。約180人のさまざまな障害のある生徒が通っているが、車椅子や姿勢補助具などの道具の供給が不十分で、授業中に姿勢がうまく保てない生徒が多くいる。貧しい家庭も多く、道具の購入も難しいため、廃材を使った道具の作成が必要とされていた。
 配属直後、大島さんは教室を周り、生徒の観察や評価を始めたが、生徒数が多く課題の設定に悩み、また環境や言葉にも慣れていないことで、先が見えずに落ち込んでしまう。しかし、言葉がうまく通じない分、物づくりなどできることを進めていくうち、環境に慣れていくことができた。
 半年が経ち、活動先の様子がわかってきたころ、小学校に上がってもオムツをつけている生徒が多いことを感じた。「早急に対応しなくては」と、オムツ外しを目標としたトイレトレーニングのプロジェクトを開始。計画を教員に説明したが、うまく伝わらず、教員のやる気も今ひとつ。ひとりで活動をしていた大島さんは行き詰まりを感じ始める。
 そこで、言語聴覚士の同僚に協力を依頼したところ快諾。その動きを見た校長が他教員に働きかけてくれ、プロジェクトが進むようになった。「ひとりでは目標は達成できないことを実感した」と大島さん。結果として半年で33人中7人の生徒がオムツを外すことができたという。トレーニングの成果に加え、活動当初から実施した廃材を利用した自助具なども定着し、先生からの依頼も受けるように。地道にやってきたことが少しずつ形になり、活動は充実していった。

持続する活動を残すために

任期は残り半年。要請にあった廃材を使用した道具の作成や、トイレトレーニングのガイド作成など残せるものはできたが、まだ他にも何かできないかと、大島さんは生徒の親の社会参加や経済支援のために「折り紙アクセサリープロジェクト」を開始。生徒の母親に折り紙を教え、低コストでできるアクセサリーを作成、販売するというものだ。同僚と協力し、販売イベントを開催したところ、売り上げは上々。母親たちは、イベント後も作成を続けていってくれるという。2年を振り返って大島さんはこう話す。
「困難も、課題を見つけて解決することも、目標を達成することも、すべては自分の行動の結果として表れるというのが楽しくもあり、プレッシャーでもありました。旅行や留学では決してできなかった経験なので、本当に参加してよかったと思います」

大島さんの「やりがい曲線」

(1)活動最初の1週間を振り返る:数日間はカウンターパートと一緒に学校を見学。しかし、語学力不足により話をきちんと理解できず、疑問があってもなかなか聞けず……自分が何のためにここに来たのか、これから何ができるのか不安になりました。配属先にいる隊員は自分ひとりなので、同期隊員や他隊員がどんな状況かわからず、焦る部分もありました。しかし、「皆ぶち当たる壁だ」と思って、できることを頑張ることに! 言葉が通じなくては自分のやりたい活動もできないと思い、スペイン語の専門用語の単語集や基本的なスペイン語を家で必死に勉強。その後は、どのような生徒がいるのかを知るため、教室を巡回してひとりひとりの障害特徴や必要なことなどをメモしていきました。

(2)各教室を周り、生徒の観察や評価を開始。しかし、人数の多さと、課題の設定に悩み、先が見えずに落ち込む日々。

(3)少しずつ環境にも慣れて来たので、自分に何ができるかを見せるために廃材を使って姿勢補助具や自助具などを作成して生徒に使ってもらうように提案することを始めた。

スプーンを持つための補助ベルト

姿勢補助具

(4)配属先においての課題が見えてきたので、今後の活動計画を立てることができた。

(5)トイレトレーニングのプロジェクトがうまく行かずに悩む。

(6)トイレトレーニングの成果がではじめる。また、廃材を用いた自助具なども定着しつつあり、先生からの依頼も受けるようになった。

(7)研修で発表する機会をもらったり、感覚統合療法を実施するための部屋の立ち上げを任されたりなど、忙しくも充実する日々。

感覚統合療法のための部屋

(8)生徒の親の社会参加や経済支援のための活動として「折り紙アクセサリープロジェクト」を開始。

折り紙をつくる生徒の親

(9)学校内で「折り紙アクセサリープロジェクト」イベントを開催し、アクセサリーを販売。母親たちの満足度も高く、イベントは成功した。

(10)振り返って自分にひと言:配属先や生徒、その家族にひとつでも何かを残せたという達成感は、自信にもなった。日本から送り出してくれた家族、コスタリカで出会ったすべての人々に感謝!

知られざるストーリー