[授業のCHECK]
生徒の上達度合いを測る「定期テスト」を改良

宮野幸恵さん(ソロモン・PCインストラクター・2016年度2次隊)の事例

職業訓練校に配属され、パソコンの授業を担当した宮野さん。授業のわかりやすさを測る指標ともなる「定期テスト」に工夫を凝らすなどしながら、自身の授業の改善を進めていった。

宮野さん基礎情報





【PROFILE】
1984年生まれ、千葉県出身。ホテルに勤務する傍らで建築の専門学校に通い、その後8年間、建築設計に携わる。2016年10月、協力隊員としてソロモンに赴任。18年10月に帰国。

【活動概要】
首都ホニアラにあるドンボスコ職業訓練校に配属され、主に以下の活動に従事。
●CADソフトの基本操作を教える授業の実施(OSはmacOS、ソフトはAutoCAD)
●パソコンの基本操作を教える授業の実施(OSはMicrosoft Windows)


CADソフトの授業を行う宮野さん(左)。2つあったパソコン室の一方には、24台のiMacが設置されていた

 宮野さんが配属されたのは、カトリック系の職業訓練校。「建築」や「自動車整備」など6科が設けられた3年制のコース(職業訓練コース)と、「パソコン」と「溶接」の2科が設けられた2年制のコース(スキルアップコース)があり、両コースとも最終学年は企業実習を行うこととなっていた。いずれの科も、30人前後のクラスが1学年に1つずつ。宮野さんの赴任当時、所属するIT部門の教員たちで運営していた授業は次の3種だ。
(1)職業訓練コースの1年生を対象とした、パソコンの基本操作を教える授業(名称は「ベーシックコンピュータ」)
(2)職業訓練コースの一部の科の2年生を対象とした、CADソフト(*)の基本操作を教える授業
(3)スキルアップコースのパソコン科の授業
 配属校は4学期制で、年度の開始は1月。2016年の10月に着任した宮野さんは、17年度の1学期からCADソフトの授業(2)を担当したほか、翌2学期からは「ベーシックコンピュータ」(1)も担当するようになった。
「ベーシックコンピュータ」については、配属校に年間授業計画があったことから、それに則って授業を進行。一方、CADソフトの授業には年間授業計画がなかったが、かつてこれを担当した外国人ボランティアがスライド資料を残していたため、当初はそれを活用して授業を進めていった。

* CADソフト…コンピュータによる設計(CAD/キャド)のためのソフトウェア。

Windowsのパソコンが25台設置されたパソコン室で宮野さんが行った「ベーシックコンピュータ」の授業

定期テストを改良

 職業訓練校の目標は、指導した技術によってより良い就職が叶うこと。そのため、「卒業生がどれくらい希望に近い職に就くことができたか」というデータは、授業の良し悪しをチェックする明快な指標だろう。しかし、宮野さんは教え子たちの卒業を待たずに任期終了を迎えたため、自分の授業が生徒の就職にどのように結びついたかを任期中に知るチャンスはなかった。
 そうしたなか、宮野さんが自分の授業の良し悪しをチェックする指標としたのは「定期テスト」だ。CADソフトの授業や「ベーシックコンピュータ」では、担当教員が学期ごとに成績を付け、生徒が所属する科に提出することとなっていた。宮野さんは、成績付けのために定期テストを実施。その結果を指標に、自分の授業が生徒にとってどれくらいわかりやすいものだったかをチェックしていった。
 宮野さんはこの定期テストにつき、生徒のスキルがより正しく測れるものへと改良を重ねた。当初は、それまで「ベーシックコンピュータ」で行われていたやり方を踏襲して、学期末にペーパーテストを実施。しかし、この方法には次のような難点があった。
●ペーパーテストでパソコンスキルの上達度合いを測るのは難しかった。
●学期の前半に行った授業の内容は、多くの生徒が忘れてしまっていた。
●授業やテストで使う言語は英語だったが、生徒たちは英語が不得意。そのため、問題文の意味が伝わらないことも多く、その都度口頭で追加説明をしなければならなかった。
●宮野さん自身が英語に慣れていない時期に、生徒たちにわかりやすい問題文をつくるのは時間がかかった。
●生徒が所属する科に成績を提出しなければならないのは各学期の終了時だったが、教え子は150人ほど。期末にペーパーテストを行い、期限までに採点を終えるのは困難だった。
 宮野さんは以上を踏まえ、翌学期からはCADソフトの授業と「ベーシックコンピュータ」の両方で定期テストを次のように変更した。
●ペーパーテストを実技試験に変え、採点はその場で行う。
●期末だけでなく、中間にも行う。
 このような変更により、生徒のスキルの上達度合いがより正確に測れるようになったうえ、宮野さんの負担も軽減。さらに、導入した「中間テスト」が生徒自身の復習の機会にもなり、学期前半の授業で教えたことも生徒に定着するようになったのだった。
 定期テストを重ねてわかったのは、授業で教えたスキルはほぼ身に付いているということ。そうして「教える方法」については問題のないことが確認できたが、「教える内容」の妥当性をどうチェックするかについては、依然として模索が続いた。

宮野さんが作成したCADソフトの授業の教科書

「狭く深い授業」への転換

 前述のとおり、生徒たちの「就職状況」を自分の授業にフィードバックするチャンスはなかったが、17年度の終わりごろ、宮野さんはそれに代わる手段であらためてCADソフトの授業の「内容」をチェックした。現地の企業を回ってCADソフトが実際にどのように使われているかを確認し、授業で教えるスキルの取捨選択をしたのだ。回った企業は、建築会社など4社。CADソフトを使っていると思われる企業を電話帳で探し、見学を申し込んだ。訪問先で尋ねたのは次のような事柄だ。
●CADソフトをどのような業務で使っているか。
●CADソフトでどのような図面を描いているか。
●CADソフトのどのようなツールを主に使っているか。
●今の業務で必要なCADソフトの基本的なスキルは何だと思うか。
 この企業訪問でわかったのは、日本とは異なり、ソロモンでは限られたツールだけで図面を描く方法が取られているということ。振り返ると、宮野さんの17年度の授業は「広く浅い」ものとなっており、不要なツールの使い方などにも時間を割いてしまっていた。
 宮野さんはこの反省を18年度の年間授業計画に反映した。教えるツールは、ソロモンで必要なものに限定。それらの使い方を1学期だけで一気に伝授し、残る学期でたっぷりと図面づくりの実習にチャレンジさせる。そんな「狭く深い」授業への変更だった。
 宮野さんは、新たに組んだCADソフトの授業の年間計画をもとに、それまで配属校にはなかった「教科書」を作成。CADソフトを使う仕事に就くことができた生徒たちが、業務のなかでわからないことが出てきたときに参照してもらおうとの意図からだ。

POINT

「実用性の高い技術」を調査!
職業訓練校で授業を行う場合、教える技術が現地で実用性の高いものであることが大切。いずれかの時点で企業訪問などを行い、指導分野に関してあらためて「現地で実用性の高い技術」をリサーチすることも有益だろう。

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