[研修会のCHECK]
アンケートとモニタリングで研修会の効果をチェック

酒井ひかりさん(ベナン・小学校教育・2016年度1次隊)の事例

視学官事務所に配属され、小学校での図工授業の活発化に取り組んだ酒井さん。現地教員を対象に研修会を開催した後は、その効果をアンケートとモニタリングによってチェックした。

酒井さん基礎情報





【PROFILE】
1994年生まれ、石川県出身。大学卒業後の2016年6月、協力隊員としてベナンに赴任。18年6月に帰国。

【活動概要】
プラトー県サケテ市の視学官事務所に配属され、小学校の図工授業に関する主に以下の活動に従事。
●授業の実施(現地教員との協働)
●教員用指導書の作成・改訂(他隊員との協働)
●現地教員向け研修会の実施
●作品展の開催


酒井さんが実施した初回の研修会で、児童役となって切り絵に取り組む現地教員たち

同じ研修会で、仕上げた切り絵の作品を手にする現地教員たち

 市の視学官事務所に配属された酒井さん。小学校で実技教科の活発化を支援するという要請内容だったが、図工に的を絞って活動した。酒井さんの着任当時、ベナンでは十数人の隊員が教育分野で活動。彼らの多くは図工授業の活発化に力を入れており、分科会活動として図工授業の教員用指導書も作成していた。この指導書が活動の糸口になると感じたことなどから、酒井さんも図工を活動のメインとすることにしたのだった。
 配属先が所管する小学校を回り、図工授業の様子を確かめることから活動をスタートさせた酒井さん。すると、時間割に組み込まれているにもかかわらず、「主要教科のほうが重要」との考えから図工授業を実践していない教員が大半であることがわかった。実践していた教員も、アクティビティの引き出しは少なく、「実物に似せて絵を描かせる」といった授業に限られていた。
 そうしたなか、酒井さんがメインの活動場所とする学校を3校に絞ったのは、着任から半年あまり経ったころ。分科会が指導書を完成させて間もない時期だった。3校にはいずれも図工授業への関心の高い教員がいたことから、酒井さんは彼らをいわばカウンターパートに見立てて活動。酒井さん自身が授業を実践してみせたり、現地教員たちに指導書を使いながら授業に挑戦してもらったりした。
 以上のようなモデル校での活動の傍ら、週に2日は他校への巡回を継続し、図工授業の実践に向けたアドバイスを行った。そうした巡回活動のテコ入れとして、モデル校以外の学校の教員も対象に含めた図工授業の研修会を、任期中に2回実施。概要は次のとおりだ。
【第1回】
●時期/着任の約1年後
●受講者/市内全域の教員有志(約400人)
●日程/同じプログラムを、対象者を入れ替えて半日ずつ実施
●プログラム/すでに図工授業を実践していた現地教員たちによるモデル授業。受講者を児童に見立て、分科会が作成した指導書(オリジナル版)を使いながら「切り紙」や「折り紙」の授業を行ってもらった。分科会のメンバーたちにも、教壇に立つ現地教員のフォローをしてもらった。
【第2回】
●時期/帰国の約1カ月前
●受講者/配属先に近い小学校6校の全教員(約40人)
●日程/半日
●プログラム/酒井さんが実質的なカウンターパートとしてきた教員が、受講者を児童と見立てたモデル授業を実施。分科会が作成した改訂版の指導書を使いながら、「段ボールのクリスマスツリー」や「教室飾り」をつくる授業を行ってもらった。

酒井さんの活動先小学校の児童たち。手にしているのは、 図工授業で製作した紙のお面

事後のモニタリングも実施

 初回の研修会の開催にあたっては、立てた計画が現地に合っているかどうかを確かめるため、事前に配属先の上司に相談。「平日でないと参加者は集まらない」といったアドバイスをもらい、それらを踏まえて実施した。さらに、研修後にも会場で受講者に感想を問うアンケートを実施し、研修会の良し悪しをチェックする指標とした。盛り込んだ質問事項は以下のとおり。
(1)時間の長さの妥当性(選択式)
(2)進め方の妥当性(選択式)
(3)図工授業を大切だと考えているかどうか(選択式)
(4)その他(自由記述式)
 研修会の「方法」については、(1)と(2)の質問で不満の声はなかったものの、(4)では「インセンティブ」に関する不満が多く記されていた。「手当」や「交通費」、「昼食」が出なかったことの指摘だ。それを踏まえ、2回目の研修会では、受講者の人数も多くなかったことから、会場となった学校の給食をその日は余分につくってもらい、研修後に提供することとした。
 一方、アンケートでは、モデル授業で行ったアクティビティの難易度や興味深さなど、研修会の「内容」に関することについては、改善すべき点の指摘は皆無。反対に、「同じような研修会をまたやってほしい」など、高く評価する声が多かった。第2回の研修会を開催したのは、そうした声も踏まえてのことだった。
 アンケートでは内容を高く評価してもらえたが、研修会の目的は、あくまで受講者に図工授業を積極的に展開してもらうこと。酒井さんは初回の研修会の後、受講者たちの勤務校を回って図工授業の実施状況を調査。すると、研修会をきっかけに実践し始めた教員もおり、研修会の「内容」が妥当だったことが確認できた。新たに図工授業に挑戦し始めた教員がいる学校には、以後もたびたび足を運び、授業の引き出しを増やすためのフォローを行った。

教育分野の分科会でつくった図工授業の教員用指導書(改訂版)

「評価」の「比較対象」

 アンケートによって活動に関する評価を現地の人に尋ねる場合、「比較対象」の有無によって、回答の質はおのずと異なってくる。酒井さんが行った研修会の受講者たちは、「研修会」自体は経験したことがあったため、研修会の「方法」については不満な点を具体的に挙げることができた。一方、「図工授業」は大半の受講者が未経験だったために、研修会の「内容」についての具体的な指摘を挙げることができなかった可能性もある。
 こうした見方の裏付けともなるのが、指導書に関して実施したアンケートの結果だ。分科会のメンバーは指導書のオリジナル版が完成すると、それぞれ任地で少なくとも3人の教員に指導書の実物を渡し、感想を尋ねるアンケートに回答してもらった。その際、すでに作成していた「改訂版」のサンプルも渡し、「オリジナル版と改訂版のどちらが良いと感じるか」という質問も盛り込んだ。すると、オリジナル版の感想を尋ねる質問には「良い」という回答ばかりだったが、改訂版のサンプルと比較した感想を尋ねる質問には、「改訂版のほうが良い」という回答が多数という結果に。「比較対象」があって初めて良し悪しの評価ができることが明らかになったのだった。

POINT

アンケートだけでは不完全!
隊員が実施する研修会の評価を受講者に尋ねても、相手に「比較対象」となる研修会の経験がなければ、具体的な指摘は出にくい。そうした場合は、「事後のモニタリング」などと合わせて効果をチェックすることが必要だろう。

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