“失敗”から学ぶ

意気投合した農業普及員に農家への稲作普及活動を任せたところ……

文=照屋大地さん(ウガンダ・コミュニティ開発・2016年度2次隊)


稲の生育状況を見る照屋さん(左)と、農家(中央)、農業普及員のCP(右)

 私は、ウガンダの農村で住民の収入向上のために稲作普及を進めるべく、県庁農業課に配属され、職員・農家らとともに活動を行っていた。配属先にとって私は初めての隊員だったが、近年ウガンダは国全体で収入向上のための稲作栽培に注力しているということもあり、とても協力的だった。しかし、常に協力的な配属先の姿勢に甘え、熟慮に欠いた活動をしていたのではと思うこともあった。
 1年目は、現状把握と農家や職員との関係づくり、他隊員と自分の活動を比較してしまうこともあり、心に余裕がない状態だった。そんなとき、農村の事務所に配属されている農業普及員のカウンターパート(以下、CP)に出会う。彼は稲作の知識こそ浅かったが、周辺農家とのつながりが強く、年齢も私と近かったため良きパートナーとなった。2年目の活動は軌道に乗り、CPとともに稲作栽培技術指導やモデル農家の育成などを行い、それらは配属先や農家から高い評価を得られた。
 当時、1年目の遅れを取り戻したいと必死だった私は、ひとつでも多くの成果を残せたらと日々活動していた。その中で、CPと同じ事務所に配属されている農業普及員のFと出会い、農家と密な関係を構築している彼と意気投合した。彼を信用し、新規農家獲得または既存農家への支援のために種子などを託した。
 しかしある日、普及員Fが自身の利益のために稲作を始めていることが明らかになった。さらに、普及先農家のための肥料購入用資金も、自身の稲作に使用する肥料や農薬代に充てていたのであった。
 その後、普及員Fと顔を合わせるたび、普及の在り方について話したが、彼が自身の利益のための稲作栽培を辞めることはなかった。普及員Fに時間を割くことよりも、農家への普及活動に時間を費やすべきだと考えた私は、それから普及員Fと共に活動をすることはなくなった。私は、帰国後も普及活動が続くように考え、CPとともに最後まで活動をし、配属先からも称賛を得ることができた。しかし、私の中では「ひとりの普及員の考え方すら変えられなかった」「当時の自分は普及員Fの考えを深く聞き、理解しようとしなかったのでは?」と、今でも後悔として心に残っている。活動を通じてウガンダ、任地のことを知った気でいたが、それが慢心を生んでいたと感じている。

隊員自身の振り返り

失敗の原因は、他隊員との活動と比較して焦っていたこと、忙しさにかまけ普及員Fの種子配布など農家への稲作普及を任せきりにしていたこと、さらに問題発覚後もひとりで抱え込み、根本的な解決を図ろうとはしなかったことです。本来なら、比較して焦るのではなく、他隊員から活動のヒントを学び、自分のペースで活動すべきでした。また、普及員Fに種子を託すとき、最初は様子を見る必要があったこと、さらに問題が起きたとき配属先としっかり話し合い、解決策を探るべきでした。帰国した今、この経験を学びとし、これからはそれぞれの人間の目線に立って物事を考えられるように心がけ、日々頑張っていきたいと思っています。

他隊員の分析

事前の意思疎通と信頼関係の構築が鍵

 普及員Fは、自分なりに稲作普及のあり方を模索していたのかもしれませんね。この場合、種子や資金を託す前に、普及について十分に意見交換をしておけば、違った関係を築けたかもしれません。あるいは、農民たちの前で、稲作普及事業の目的や、種子・資金の用途を説明した上で託せば普及員Fも従ってくれたかもしれません。私は、新規作物の栽培を託す農民は、時間をかけて選びました。普及員や農民もそれぞれ自分なりのやり方や想いを持っているので、時間をかけた意思疎通と信頼関係の構築が、成功の鍵になったのかと思います。
文=協力隊経験者
● アフリカ・コミュニティ開発・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
県の農業・灌漑・組合課に配属される。普及員とはペースが合わず、単独で農民と関係を築き、収益性の高い農産物の導入・栽培指導・販路開拓や、稲作(陸稲)試験栽培および、果樹生産プロジェクトを行った。

相手にとっての己を知る

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉がありますが、隊員にとって大事なことは相手のことを知るだけではなく、「相手が自分をどう見ているか」を判断することだと思います。私も任地・配属先にとって初めての隊員だったので、多くの人が興味を持って近づいてきました。しかしよくよく話を聞いてみると、自己利益を追求するだけの内容だったことが多々ありました。活動成功の鍵は間違いなくカウンターパートや活動のパートナーです。その相手を吟味することは、隊員活動に限らずあらゆる場面で必要とされる視点だと思います。
文=協力隊経験者
● アフリカ・コミュニティ開発・2014年度派遣
● 取り組んだ活動
村落部でのネリカ米の栽培・普及活動、品種改良種キャッサバの栽培・普及活動、水衛生啓発活動、ハンドポンプ修理、水源整備、魚の養殖などを通じて、村落住民の生活環境の改善を目指し活動を行った。

照屋さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、沖縄県出身。愛知学院大学文学部グローバル英語学科を卒業後、旅行会社の沖縄ツーリストに入社。退職後、読谷村役場にて臨時職員として勤務。2016年9月、協力隊に参加。18年9月、帰国。現在は読谷村役場にて臨時職員として勤務。

【活動概要】
ウガンダにおいて任地住民の稲作を通じた収入向上を目指し、以下の活動を行う。
●バイク巡回による、周辺住民への稲作栽培技術普及
●県庁周辺住民を対象とした稲作栽培技術と衛生啓発のワークショップを開催
●モデル農家の育成、展示圃場を活用した新規・既存農家への稲作アプローチ

知られざるストーリー