活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】





荒木拓一さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:小学校教育、教育行政・学校運営)
●元公立小学校長、元東京国際大学非常勤講師

Q&A

Question:「学習環境」や「学習習慣」形成の方法と同僚の勤務態度について
〜小学校で活動している小学校教育隊員より〜

 2点相談があります。1点目は、ゴミが目立つ教室、机が整頓されていない教室、始業時刻になっても子どもたちがなかなか授業を始められる状態にならないという、「授業以前の問題」が目立つことです。環境教育の必要性も感じています。
 2点目は、「先生の勤務態度」です。授業が開始時刻に始まらない、私が授業に入ると授業への関与をやめてしまう、携帯電話が鳴ると授業を止めて外に出てしまう……。これらのことを直接注意したら、私が彼らの授業に入ることを拒否され、話もしてくれなくなりました。
 整った教室環境で、担任の先生と良い関係を保ち、授業ができるようにしたいと思っているのですが、これらの問題を解決するためにアドバイスをいただけますでしょうか。

Answer:

「快適な学習環境作り、みんなが認め合い自主的に学習に取り組む学習規範作り」。日本の教室でもこれを目指して、小さな活動を連続させています。
 登校から下校まで快適な教室環境を整えるために、朝教室の窓を開ける、教室のゴミを拾うなど、みんなで相談して「係分担」するのもそのひとつです。子どもの頃行った係活動を思い出しませんか。
 子ども達は本来「頼まれごと」、「係活動」は好きなのです。一方「飽きやすい」という特性もあります。授業開始前に、「ひとり〇個ずつゴミを拾ってから授業をはじめましょう」ということをした記憶はありませんか? 同様に「机は黒板の方にしっかり向くように並べましょう」ということも。そして1時間の授業が終わると、黒板係などが自主的に活動をはじめます。取り立てて「環境教育」や「学習環境整備活動マニュアル」などといわずとも、意識した日常活動の継続でいつの間にかその習慣ができあがります。
 教室を清掃する習慣のなかった学校に配属されて、自分の教室から始めた清掃活動が、学校全体の「清掃時間」として設けられ、地域を巻き込む活動にも拡がったという報告もありました。焦らず、教室の中の小さな活動から、児童と先生、共に進めてみましょう。
 担任の先生との件は、同僚という立場を超えて「友達」としてのお付き合いが大切な要素になるのでしょう。いろんな会話の中から「相互理解」が進むことが大切です。ときにはお茶を飲みながら、食事を共にすることも良いでしょう。このように互いに理解が進めば、「携帯電話」のことも、「始業開始時刻の遵守」のことも、「授業進行方法」のことも、「教育活動上の共通の話題」として深く話ができるようになるはずです。
「話し10回よりお茶3回、お茶3回よりお酒1回」と揶揄されることにもまた「真」が隠されているのかもしれませんね。せっかくの機会です、任地でたくさんの友達を作ってください。

【特別寄稿】 「愛、夢、希望、勇気」

文=荒木拓一さん

このたび技術顧問を退任される荒木拓一さんに、技術顧問としてのご経験を振り返ると共に、JICA海外協力隊に向けたメッセージをお寄せいただきました。

図工作品展示を終えて、笑顔いっぱいのベナンの児童たちと現地教員

 9年の在任期間、青年、シニア問わずたくさんの素敵な大人に出会うことができました。どの国を訪れても、子ども達の前でするはつらつとした活動を観ることができました。
 豊富な経験を生かして教員養成校で活動するシニアは、図画工作科指導法の授業で、斬新で具体的な指導手法を駆使されていました。教科学習として教わった経験さえない学生に、表現することの楽しさを伝える工夫一杯の指導は圧巻でした。
 アフリカで活動していた若者は、1クラス100人を超える児童の興味を引きつけ、実に楽しそうに歌を歌い、リズム遊びをしていました。その授業時間中、一度も「叱る」ことがなかったのは見事で感動さえしてしまいました。
 中米の若者達は、中南米広域研修と称して10に近い国々から協力隊員・カウンターパートの参集を得て、4、5日にわたる研修会を組織・運営し、充実した研修を作り上げていました。3年ごとに(3回目は1カ国での国内研修だったが)行われた研修主題は連続性がありました。単発で終わってしまいがちな研修を、3年間をつなぐ「アクションプラン」を確認しあい、それぞれの任国での活動につなげようとしていた計画も見事でした。この研修会の企画力・経営力・運営力には素直に敬服してしまったものです。
 たくさんの開発途上国への出張機会を通して、いつも強く感じたことはシニア、青年ともに、学生・子ども達に「生き方(行き方)モデル」としての大人の生き様を堂々と示す活動をしてくれていたことでした。意識せず行ったことなのでしょう。それでもその授業活動に心を揺るがされた学生・子ども達は、「こんな素敵な大人(教員)になろう」と、明確に、あるいは漠然とモデル化したはずです。そして間違いなく、進路選択に迫られたときには、協力隊員のはつらつとした姿をモデルにした選択をするはずです。まるで隊員から「遺伝子」を受け継いだようにです。
 ご自分の、今おこなっている活動の一つひとつを思い起こしてみてください。学んで新しく作り上げた指導法もあるのでしょうが、自分が子どもの頃に「させられた」あるいは「みせられた」学習手法、授業法を無意識に真似をしていることに思い当たることはありませんか。自分で全て作り上げたと想いながらも、振り返ってみると、大好きな人をモデル化して活動していることがあるものです。
 それほどまでに子ども達の前に立つ大人の影響は、成長期の子ども達に作用します。
 表題は、かつて私が教員だった時代に、学校に集う大人が教育活動に当たる「合言葉」としていたものです。
 私達は、「子ども達に限りない愛情を注ぎ、21世紀を立派に背負う子ども達に夢をかけ、希望を持ち、自信に満ちた人生を歩むことを期待して教育活動を進めること」を目標としたいものです。経験の長短は大きくは影響しません。子ども達の未来に期待し、活動を試みる「(心)意気と(情)熱」こそが大切なのです。そのために、大いなる理想を掲げ、力強い一歩を、勇気を持って踏み出したいものです。皆さんの、次に踏み出す勇気ある一歩に期待しています。

知られざるストーリー