中学校の「環境委員会」を
環境教育授業の担い手へと育成

田崎丸美さん(ペルー・コミュニティ開発・2016年度2次隊)の事例

町役場に配属され、町内の小・中学校で環境教育に取り組んだ田崎さん。同僚たちにその取り組みを引き継いでもらうのが難しかったなか、「生徒が生徒に環境教育授業を行う」という仕組みをつくり出した。

田崎さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、市役所に事務職で勤務。2016年10月、協力隊員としてペルーに赴任(現職参加)。18年10月に帰国し、復職。

【活動概要】
農畜産業が盛んなピウラ州タンボグランデ町の町役場に配属され、主に以下の活動に従事。
●小・中学校での環境教育の実施
●農業観光ツアーの企画・実施
●小学校での折り紙の指導


小学生を対象に、自作した土地の模型を使って環境教育授業を行う田崎さん

 農村部にある町の役場に配属された田崎さん。着任の半年後に着手し、任期を通じてメインの活動となったのは、学校での環境教育だ。町ではゴミのポイ捨てが多かったうえ、資源ゴミを回収する団体が存在するにもかかわらず、住民によるゴミの分別が徹底されていなかった。そうした背景から、配属先は以前より環境教育に取り組みたいと希望していたものの、環境部門の担当者の手が回らない状態だった。そこで白羽の矢を立てられたのが田崎さんだった。
 現地の学校は、3月に年度の授業が始まり、12月に終わる。2016年10月に着任した田崎さんが学校での環境教育をスタートさせたのは、17年度の冒頭からだ。同年度に巡回したのは、小学校3校と中学校2校。主に最高学年(小学校は6年生、中学校は5年生)を対象とした。テーマを変えた5つの授業を1セットとするプログラムを、1週1テーマというペースで順次、各校で実施。時間は「理科」のコマを借りた。授業のテーマは次のとおり。
(1)町のゴミ処理の現状
(2)ゴミの分別の仕方
(3)ゴミの分解にかかる時間
(4)水の効果的な使い方
(5)日本の「環境」事情

任期半ばに引き継ぎ法を検討

 17年度いっぱいをかけて5校での環境教育を終えると、田崎さんはあらためて活動を振り返った。学校で18年度の授業が始まるのは、帰国まで残り半年あまりという時期。おのずと「帰国」が視野に入ってきた。17年度は、「できることは何でもやろう」というスタンスで、自分が講師となって学校での環境教育を展開してきたが、それは自分の帰国後も継続されるべきもの。しかし、配属先の同僚たちには、引き継いでもらえる余裕がない——。
 そこで田崎さんが着想したのが、「生徒が生徒に環境教育を行う」という仕組みをつくることだった。講師役になりうると目星を付けたのは、町内の中学校2校にあった「環境委員会」だ。存在を聞きつけ、顧問の教員を訪ねたことがあったが、「活動らしい活動ができていない」とのことだった。そこで田崎さんは、以下のような理由から、学校で環境教育を行うことを委員会の「伝統」にしようと考えたのだった。
●教員たちには異動や退職があるため、彼らに環境教育の手法を伝えても、学校の財産として残らない。
●ペルーの中学生には、人前でも堂々と発言できる「大人っぽさ」がある。
●中学生は、近い将来、環境問題を含めた地域の問題の解決に取り組む主体となる世代である。
 この構想について、配属先の環境課長も「いいアイデアだ」と賛同してくれたことから、田崎さんは早速2校を訪問。顧問の教員から実施の了承を得ることができた。

生徒が自作教材で授業

田崎さんの授業を受けた環境委員には修了証を授与。授業を行うために必要な自信を持ってもらうのが狙いだ

環境教育の授業を行う中学5年生の環境委員。ゴミが自然に与える影響について説明している

中学5年生の委員による授業を真剣に聞く生徒たち

 2校で最初に行ったのは、委員を相手にした田崎さんによる環境教育授業。それまでの授業で扱ってきた5つに1つ追加して計6テーマとし、6回の授業を行った。学校はいずれも午前と午後の2部制であり、授業は2部のはざまの時間帯を利用。学校側の都合に応じて、1校(A校)では主に高学年の委員を対象に、もう1校(B校)では低学年の委員を対象とした。
 委員への授業が完了すると、すぐさま彼らは、ほかの生徒を対象とした授業の実践に移った。A校では、委員が手分けをして全学年を対象に実施。一方、B校では、低学年の委員が高学年の生徒を相手に授業をするのは難しいだろうとの判断から、委員がそれぞれ自分のクラスの生徒を対象に実施した。委員が行った授業は、田崎さんが行った6回の授業の内容を1回分にまとめたもの。時間は、授業の合間を利用した。
 講師役を務めた委員たちの成長は顕著だった。最初こそ、緊張で声が小さかったり、話す内容を忘れたりして、田崎さんがサポートに入る場面もあったが、やがてリズムをつかむと、堂々とした立ち居振る舞いになっていくのだった。一方、受講する側の生徒たちも、同年代の仲間が行う授業を受けるのは初めての経験だったため、委員の講義に興味深く耳を傾けていた。
 以上のように、講義をする生徒と受講する生徒の両方に刺激の大きかった「生徒対生徒」の授業は、彼らのその後の行動変容にもつながった。顧問から「ゴミの分別が定着し、回収する団体に渡せる資源ゴミが多くなった」と報告が入ったほか、全校生徒で一斉に校内を清掃する日に田崎さんが学校を訪ねると、委員たちがリーダーシップを発揮している姿が見られたのだった。
 田崎さんは委員を相手にした授業のなかで、黒板に貼る板書代わりの教材を彼らに自作してもらった。田崎さんが使っていた教材から要点をピックアップし、テーマごとにそれぞれ2枚の模造紙にまとめたものだ。それを委員たちは、自分たちが講師役となる授業で使用。両校の委員会が今後、それを代々受け継ぎ、生徒たちへの環境教育授業を継続していくこと、さらには両校が「モデル」となり、同様の取り組みが他校へと広がっていくことが、田崎さんの期待するところだ。

“任期終盤”の心構え 〜田崎さんの事例から〜

引き継ぎ手は「つくる」もの!
任期終盤にやるべきことのひとつは、それまで取り組んできた活動の「引き継ぎ」。配属先の同僚たちがその相手となり得ない状況ならば、ほかの誰かを引き継ぎ手に「育てる」という選択肢を検討する必要がある。

知られざるストーリー