職業訓練校の間で
検索スキルを競う大会を開催

小塚千秋さん(ガーナ・PCインストラクター・2016年度2次隊)の事例

ICT部門の教員として職業訓練校に配属された小塚さん。任期の後半に入ったとたん、一時帰国を余儀なくされるという不測の事態が発生したが、任期終盤は活動を絞り込み、配属校を超えたイベントを実現させた。

小塚さん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、福岡県出身。大学卒業後、IT系企業に数年間、エンジニア職で勤務。2016年9月、協力隊員としてガーナに赴任。18年9月に帰国。

【活動概要】
ウィネバ職業訓練校(セントラル州)に配属され、主に以下の活動に従事。
●授業の実施(ICTコースの専攻科目、全コースの基礎科目)
●複数の職業訓練校を対象とした「検索大会」の開催(分科会による活動)


 小塚さんがICT部門の教員として配属されたのは、4年制の職業訓練校。1学年の生徒数が百数十人という規模だった。ICT部門の教員が担当することになっていたのは、ICTコースの専攻科目の授業と、全コースの基礎科目であるICTの授業。着任当時、同部門に現地教員が配置されていなかったため、小塚さんは当初からすべての授業を一手に引き受けることとなった。その数は、週に27コマ(1コマは2時間)。一方、時間割は週15コマ。同じ時間に複数の授業をこなさなければならないという状態だった。

現地教員が配置されたものの

基礎科目としてのICT授業を行う小塚さん

ICTコースの専攻科目の授業。パソコンのマザーボードに搭載された部品を取り外す練習をしている

 現地教員に技術を伝えたい——。小塚さんは当初からそんな思いを持ち続けた。しかし、ICT部門に現地教員が配置されることのないまま、任期は半ばに到達。そこでにわかに、新たな活動に挑戦できる可能性が生まれる。「インターネットの検索スキル」を競う大会の開催だ。
 基礎科目のICT授業は1回の受講者が100人を超えたが、パソコン教室にあった使用可能なパソコンはわずか10台ほど。しかも、同じ時間に同じパソコン教室でICTコースの専攻科目の授業も行わなければならず、基礎科目のICT授業は「実習」がほとんどできない状態だった。そうしたなかで小塚さんは、「実用性が特に高いパソコンスキルだけでも習得させてあげたい」と希望。そのきっかけづくりとして着想したのが、複数の職業訓練校の間でスキルを競う大会の開催だ。
 小塚さんはこの構想を、活動がパソコンに関連している隊員で構成する「エレクトロニクス分科会」で紹介し、共同開催を持ちかける。その際に、大会の具体的内容のアイデアとしてメンバーから挙がったのが、「インターネットの検索スキルを競う」というものだった。このスキルがあれば、自分の仕事に関してわからないことが出てきたときに、ある程度自力で解決できるようになる。職業訓練校のどのコースの生徒にとっても卒業後に重宝するスキルだということで、早速、実現に向けて運営に関するおおまかな役割分担を行った。幹事となったのは小塚さんだ。
 そうして大会の準備をスタートさせようとした矢先、予期せぬ事態が発生する。自身の健康上の理由で一時帰国しなければならなくなったのだ。任期終了まで残り10カ月という時期だった。医師には、ガーナに戻れるのは半年後だと告げられた。
 配属校のICT部門に現地教員が配置されたとの知らせを受けたのは、一時帰国して1カ月ほど経ったころだ。ついに「現地教員に技術を伝える活動」に取り組める可能性が生まれた。しかし、ガーナに戻る時点で任期の残りはわずか4カ月。新任の教員と互いの考えを理解し合うところから始めなければならないため、どんなに急いでも、技術を伝える活動は中途半端な結果に終わってしまうだろう。そう考えた小塚さんは、彼との共同作業は断念すべきだと判断。代わりに、日々の授業や検索大会に専念し、それらを確実にやり遂げようと決めた。

学校間のネットワークも誕生

任期終盤に開いた「検索大会」の様子。観戦する生徒が自分のスマートフォンで検索に取り組む姿も見られた

「検索大会」の会場。選手は前方で検索に取り組み、そのパソコン画面をスクリーンに映し出して観客にも見えるようにした

 検索大会の準備は、小塚さんが幹事だったことから、一時帰国の間は停滞。予定どおり半年でガーナに戻ることができた小塚さんは、すぐさま準備を再開する。大会の概要は次のように企画した。
■インターネット環境が良いことから、会場は小塚さんの配属校とする。
■小塚さんの配属校から遠くない職業訓練校に出場を打診する。
■競技は「ICT」「家政」「電子」「その他」の4部門を設置。各分野の仕事で必要となる知識についてクイズを出し、インターネットで調べて答えさせるというものにする。
■出場校は各部門に2人ずつ代表選手を出す。
■各部門の競技時間が30分程度となるよう、出題数は5問程度とする。
■検索エンジンは「Google検索」を使用する。
■ガーナのクイズ番組に倣い、解答権が順に移っていき、正解した学校に点数が入る方式とする。
 出場を表明したのは4校。小塚さんは週に1回のペースで各校を回り、選手の選抜など準備を進めるよう促した。出題するクイズの難易度を決めるため、各校で一部の生徒を対象にした検索スキルのテストも実施。そうして実際に出題したのは、「このエクセル関数の意味は?」(ICT部門)や「サバに一番多く含まれている栄養素は?」(家政部門)といったクイズだ。
 以上のような準備を経て、小塚さんの任期終了まで残り2カ月という時期に大会は実現。1校が直前に辞退し、最終的に小塚さんの配属校を含む3校の戦いとなった。競技中は、代表選手が一心不乱に検索に取り組むだけでなく、観戦している生徒が自分のスマートフォンを使って検索に取り組む姿も見られ、「『検索』は『術』のひとつ」と実感してもらえる機会となったようだった。
 検索大会の実施は午前中。同じ日の午後には、引率で来ていた各校のICT部門の教員とエレクトロニクス分科会のメンバーとで、授業に関するアイデアを交換するミーティングを開いた。話し合ったトピックは、「パソコンが無い状況で、パソコンの授業をどう進めるか」「パソコンの台数が生徒の人数より少ない状況で、パソコンの授業をどう進めるか」など。生徒のためになると考えて企画した検索大会が、同時に学校を超えた教員たちのネットワークを生む場ともなったのだった。

“任期終盤”の心構え 〜小塚さんの事例から〜

活動の取捨選択を!
予期せぬ事態により、計画どおりに進まないのは協力隊活動の常。任期終盤は、「どの活動も中途半端で終わってしまった」ということのないよう、取捨選択をして臨むことが重要だろう。

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