JICA Volunteer’s before ⇒ after

松尾佳世子さん(ザンビア・服飾・2010年度4次隊)

before:アパレル企業 社員
after:ヨガインストラクター、ウェブショップ経営者

 服飾の専門学校を卒業して10年間、洋服をつくり続けた。その技術が通じるのか試そうと、協力隊に参加。派遣国のザンビアで知ったのは、「自由な生き方」だった。帰国後は、自身の技術とザンビアの布を生かした雑貨店をウェブ上で経営し、ヨガのインストラクターに転身。好きなことをして暮らす、そんな生き方を実践している。

働いて獲得した技術を生かしたい

[before]ザンビアの職業訓練センターの生徒と話し合う松尾さん。「1日中会議の日もあった」という。作業のことだけでなく生徒同士のトラブル、家庭の愚痴など何でも聞いた

 料理が好きだった松尾さんは高校の家政科に進学し、調理とともに服飾を学んだ。「自分の身長に合う既製服が少なく、つくった方が早い」と気づき、その後、服つくりの楽しさにのめり込んだ。卒業後、服飾専門学校に通い、アパレル企業に就職。「話す間もなく、ひたすらミシンで縫い続けていた」というが、その工程は松尾さんの性に合っていた。たまに同僚と飲んで忙しいと愚痴を言い、何となく海外に憧れて英会話を習い、休みの日は好きなヨガに通う日々。そのうち仕事では副主任になり、社外でも教える立場になっていった。ひと通りの服つくりを経験し、同じ仕事にちょっとした「飽き」も感じていた9年目。同僚から「海外で活動できる協力隊というものがある」と聞いたことを思い出す。約1年後、自分の技術を別の場所で試したい気持ちが高まり、協力隊へ参加することを決めた。
 ザンビアの地方都市にある職業訓練センターで服の制作の指導と、その技術を使った収入獲得を目指して活動をした松尾さん。赴任当初は、アフリカ英語が聞き取れない上、生徒が話すのは現地語で、「ひとりでは何もできないので、みなさん助けてください」という状態だったそうだ。幸い協力的な同僚がおり、周囲の力を借りて活動をしていると、制服製作の注文が入った。長年の仕事で得た専門的技術はそのまま指導に生かされ、製作の流れや教える立場で培った経験も非常に役立った。ただ、指導より注力したのは、人の話を聞くことだった。というのも、作業の進みが遅く生徒に怒ったら、生徒が来なくなるという大失敗をしたからだ。
「その時の現状を把握することが重要で、例えば生徒が無断欠席したとき、私の感情はさておき話を聞く。すると家が遠い、家事が大変、私が嫌だとか必ず理由があるのです」
 正直、嫌われている理由を聞くのは怖かったが、自分はいずれ帰る身で、やるべきことがある。モヤモヤした状態でいるより、聞いて改善することを選んだ。服の仕上がりは厳しく指導した一方、活動先の雰囲気は柔らかくするよう努めた。生徒の技術は向上し、定期的に制服の注文が入り、帰国前には継続した収入を得られる見通しが立った。
 活動中は現地の方以外に、隊員やJICA専門家にも助けられた。食事を共にすれば、「あれをやりたい」「次は別の方法を試そうと思うんだ」と会話が盛り上がる。みんな前向きで、愚痴がない。それを見て毎回、「どんなに大変な状況でも楽しめる」ということを学んだ。特に専門家や周りの隊員が「次はこれをやるんだ!」と目を輝かせ、実際に達成していく姿は、輝いていた。こんな働き方がいい、そう感じるようになっていった。

好きなことを突き詰めた先に

[after]福岡県・博多にある喫茶店「マスカル珈琲」に陳列される、松尾さんが運営するウェブショップ「NATOTELA」の商品(中央にある、チテンジのミニハンカチタオル・くるみボタンのヘアゴムとピアスなど)。マスカル珈琲のオーナーも協力隊経験者で、同店ではオーナーの派遣国エチオピアの品々も見ることができる
マスカル珈琲の住所:福岡県福岡市博多区博多駅南4-16-14 1F

 帰国後、松尾さんは「好きなことをやった結果、お金を得る生き方をしたい」と考えた。手元には趣味で買い集めたアフリカの布がある。ザンビアとつながり続けるためにも、その布で雑貨をつくり、販売するウェブショップを開始。同時に、派遣前から好きだったヨガIR(インストラクター)になろうと考え、学校に通った。
 IRになって4年、現在は、友人のヨガ教室やスポーツジム、公民館で週に6日、ヨガを教えている。IRは「相手がいて成り立つ仕事」。知識と同じくらい人に好かれるのも大事なことだ。人に助けてもらうことで何かを達成した協力隊経験があるから、人とかかわって生きていく大切さを実感できる。「レッスン後、参加者様の表情が明るくなり、少しずつ健康になっていく姿を見られるのが楽しい」と松尾さんはいう。また、ヨガの知識を深めるため、体の構造を知ろうと「解剖学」も勉強中だ。体の状態と心の因果関係を知ることが面白く、空いた時間を勉強に費やしているうち、今ではヨガ教室のひとつで講義を持つほどになった。
 そして、松尾さんにはもうひとつやりたいことがある。それはザンビアの元同僚とウェブショップの一部を一緒に運営すること。元同僚自身も現地に店を持つ事業家で、「いつか一緒に」と派遣中から考えていた。先日、隊員を通じて、元同僚からウェブレターが届いた。「いつ帰ってくるの!!」、懐かしい顔と声。帰国して5年、元同僚に会いに行く方法を探し始めたところだ。






松尾さんのプロフィール

[1981年]
長崎県出身。
[1999年]
4月、香蘭ファッションデザイン専門学校卒業後、アパレル企業へ就職。
[2011年]
3月、青年海外協力隊に参加(選択の理由:海外への憧れはあったがツテがない。そこで、自力では行きづらい距離にある国でもバックアップを受けられ、健康面や安全面でもサポートを得られる協力隊に参加することを決めた)。
ザンビアの北部にあるチフワニ職業訓練センターで、20〜40代の地域住民に婦人・子ども服の縫製技術を指導した。
[2014年]
3月、帰国。
10月、ヨガの専門学校に通い、その後、ヨガインストラクターとして働き始める。
ウェブショップ「NATOTELA」の運営を開始(選択の理由:活動先に行く途中、毎日同じ人に会った。路上で暮らし、道になっているマンゴーを食べたり、教会でご飯をもらったりしていたようで、活動中の3年間その人は変わらずそこにいた。「人は自由に生きていけるのではないか」と感じ、好きなことをして生きていく道を選ぶ)。

[NATOTELA]
アフリカの布チテンゲやカンガを使ってつくるハンドメイド雑貨の店。NATOTELA(ナトテラ)はザンビアの現地語で「ありがとう」という意味。松尾さんが1からデザインを手がけ、ひとつひとつNATOTELA(ありがとう)の気持ちをこめてつくった雑貨を、以下のウェブサイトで販売している。

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