現地教員とのチームティーチングで
現地教員の指導力向上を支援 〜学校での啓発活動〜

佐藤 翔さん(カメルーン・環境教育・2016年度1次隊)の事例

小・中学校で環境教育の授業を担当した佐藤さん。当初は「多忙」を理由に現地教員の関与が得られなかったが、任期が後半に入ると、彼らとのチームティーチングが実現していった。

佐藤さん基礎情報





【PROFILE】
1993年生まれ。大阪府出身。大学卒業後の2016年7月、協力隊員としてカメルーンに赴任。18年6月に帰国。その後、自身の協力隊経験を綴ったエッセイ『ぼんじゅーる、カメルーン』(デザインエッグ社)を自費出版。現在は、バイオトイレの海外普及に取り組む(株)TMT.Japanの社員としてカメルーンに駐在。

【活動概要】
NGO「ニーナ・ギアネッティ」がニョン・ソー県ンバルマヨ市で運営する中学校に配属され、主に以下の活動に従事。
●環境教育授業の実施(チームティーチング)
●環境教育マニュアルの作成
●環境関連イベントの実施(現地の環境NGOとの協働)


色を付けたビンの王冠で学校名のモザイク看板をつくる生徒たち。佐藤さんが授業に取り入れたアクティビティのひとつだ

 佐藤さんが配属されたのは、カトリック系のNGOが運営する中学校。時間割に環境教育の授業が組み込まれていたが、指導できる教員がおらず、佐藤さんには一教員として授業を行うマンパワーの活動が求められていた。「現地教員とチームティーチングを行い、彼らに環境教育の手法を伝える」という青写真を描くものの、彼らは担当する教科で手いっぱい。引き受けてもらえそうな様子ではなかった。
 そうしてまずは単独で授業を行うこととなったが、直面したのは語学力の壁だ。当初は授業で使うフランス語の力が未熟だったため、「講義」をするのが難しかった。そこで取った対策は、アクティビティが中心の授業にすること。扱うテーマを「3R(*)」に定め、関連するアクティビティの情報収集に奔走する。なかでも有益だった情報源は、SNSを使った他国の環境教育隊員とのやりとりだった。
 そうして、佐藤さんの授業運営は早々に軌道に乗った。「ペットボトルで『ほうき』をつくる」「環境に関する歌を歌う」など、ひとつひとつのアクティビティに対して、生徒たちは積極的に取り組んでくれる。その姿を見るにつれ、「環境教育の授業を絶やさないためにも、教員たちに指導できるようになってもらわなければ」との思いは募っていく。そこで佐藤さんは、チームティーチングのパートナー探しも諦めずに継続。しかし、アクティビティの具体的な例を提示して教員たちの興味を引こうと努めるものの、「多忙」を理由に断られてしまうことが続いた。

* 3R…「Reduce(発生抑制)」「Reuse(再使用)」「Recycle(再生利用)」の優先順位でゴミの削減に努めるべきとの考えを示す言葉。

他教科の授業の一部を環境教育に

自作の紙芝居『川を汚したのは誰だ?』を使い、水の汚染について考える授業を行う佐藤さん

 チームティーチングの件で状況が好転し始めたのは、着任して1年が過ぎたころだった。
 そのひとつは、新たな活動校の獲得だ。佐藤さんの受入機関であるカメルーン中等教育省の担当者と話をする機会があり、その席でチームティーチングのパートナー探しが難航していると相談。すると、新たに公立の小・中学校数校を活動場所とさせてもらえることになったのだった。新規の活動校で佐藤さんは、環境教育に意欲的な教員たちと巡り会い、ようやくチームティーチングでの授業を実現することができた。佐藤さんとチームティーチングをした教員のなかには、後に単独で環境教育の授業を行うようになってくれた人もいた。
 新規の活動校を得た時期、最初の活動校でも状況に変化が訪れた。プライベートで親交があった理科の教員であるエバル・エティエンヌさんに、まだチームティーチングの実現をあきらめていないことを吐露。すると、「理科の授業の中に、環境に関連のある単元があれば、その授業の一部を環境教育に充てるというのはどうか」と提案してくれたのだった。エバルさんから渡された理科の教科書を見ると、「水」や「空気」など、環境保全に関する啓発と結びつけやすいテーマの単元が見つかる。そうして、「エバルさんの理科の授業に佐藤さんが入る」という形でのチームティーチングがスタートした。
 エバルさんとの協働はさらにほかの教員へも波及。職員室で佐藤さんとエバルさんがチームティーチングの打ち合わせをする様子を見た教員が興味を持ち、自分の授業にも環境教育を組み込んで構わないと申し出てくれたのだ。そうして実現したのは、「音楽の授業で、環境啓発の歌を教える」といったものなどだ。

環境教育マニュアルの作成

 佐藤さんが授業実践以外で力を入れた活動のひとつが、現地教員向けの環境教育マニュアルの作成だ。着手したのは、任期も残り1年をすぎたころ。カメルーンには佐藤さんと同じ時期に複数の環境教育隊員が派遣されていたことから、それぞれが授業で実践しているアクティビティをまとめ、簡単に共有できるようにしようとの意図だった。ペットボトルやビンの王冠を使った工作など、佐藤さんが実践し、現地教員にも真似が容易なアクティビティも、手順をまとめれば一冊の本になるほどの量になっていた。
 マニュアルの作成で重要な役を担ってくれたのが、環境教育を中心とする活動を行っている現地のNGOだった。出会ったのは着任して間もない時期。佐藤さんの前任隊員とつながりのあった彼らが、小学校で行う手洗い啓発のイベントに誘ってくれたのがきっかけだった。以来、ラジオを使った啓発や、ゴミ拾いイベントの実施など、地域住民を対象とした環境教育活動をたびたび彼らとともに実施。マニュアル作成について相談したときも、「ニーズは高いと思う」と協力を快諾。フランス語のチェックなどをしてくれた。
「ニーズは高い」という言葉の意味を、佐藤さんは後日、改めて実感することになった。佐藤さんの帰国が迫っていると知った活動先の教員たちから、「いつか環境教育の授業をする余裕ができるかもしれない。今まであなたがやったアクティビティのマニュアルはないのか?」と質問を受けることがしばしばあったのだ。
 マニュアルの完成は帰国の間際。活動先など関係機関に配布したところで、佐藤さんの任期は満了を迎えた。その後、マニュアルの活用を促す目的のイベントを、製作に協力してくれたNGOが企画・実施するようになったという。

佐藤さんが作成した環境教育マニュアルの表紙。カメルーンの他の環境教育隊員が実践したアクティビティも載せている

環境教育マニュアルのページ例。ペットボトルをリユースして植木鉢をつくるアクティビティの手順を紹介している

左掲写真のアクティビティを佐藤さんが授業で実践したときの様子

事例のポイント

相手の負担が少ない方法を探る!
現地教員に環境教育授業を行ってもらう場合、配慮が必要なのは彼らの負担増だ。「担当教科以外に環境教育授業を行う」という「足し算」が難しければ、「担当教科の授業に環境教育を組み込む」という「引き算」もある。

知られざるストーリー