自然保護官が撮影した自然保護区の写真で
コンテストを開催 〜自然保護区での啓発活動〜

中村俊一さん(ペルー・環境教育・2016年度2次隊)の事例

自然保護区を管理する機関に配属された中村さん。ビジターセンターや地域の学校で自然保護に関する啓発に取り組んだが、「新しい風」として配属先に好評だった活動は、同僚たちが撮影した自然保護区の写真のコンテストだった。

中村さん基礎情報





【PROFILE】
1989年生まれ、群馬県出身。東海大学農学部応用植物科学科卒。「群馬県立ぐんま昆虫の森」の里山ガイド・昆虫飼育員、「郡上八幡自然園」の自然体験指導者、「尾瀬国立公園・山ノ鼻ビジターセンター」の管理員を経て、2016年10月、協力隊員としてペルーに赴任。18年10月に帰国。

【活動概要】
パラカス国立自然保護区(イカ州)の管理を行う国家自然保護区管理事務局パラカス事務所に配属され、主に以下の活動に従事。
●野生生物の調査(海鳥や昆虫など)
●学校での環境教育授業の実施
●地域や学校での環境教育イベントの開催(人形劇の上演、ビデオの上映、折り紙教室など)
●ビジターセンターの業務支援(訪問者の案内、環境教育パネルの作成、環境教育ワークショップや写真コンテストの開催など)


 中村さんが配属されたのは、パラカス国立自然保護区の管理を行う国家自然保護区管理事務局パラカス事務所。東京都の1・5倍ほどの広さを持つ同保護区は、7割近くを海が占める。アザラシやペリカン、ペンギン、海鳥など多様な野生生物の生息地となっており、その生態を観察するツアーが人気で国内有数の観光スポットとなっている。
 貴重な資源である保護区の生態系を脅かすのは、住民や観光客が投棄するゴミ。また、違法なダイナマイト漁(*1)によってウミガメなどの貴重な生物が傷つけられてしまうといったことも多発していた。そうした問題への対策として、配属先には生物学などの専門性を持つ「自然保護官」が数人置かれ、地元の住民や漁師、観光客を対象に環境教育を行っていた。中村さんに求められていたのは、自然保護官たちとともに環境教育を行い、その充実化を図ることだ。

*1 ダイナマイト漁…ダイナマイトなどの衝撃波で魚を殺したり気絶させたりし、回収する漁法。

「未来の漁師」たちへの環境教育

小学校で実施した環境教育の授業で「海中の情景を描いた巨大パズル」に取り組む児童

ビジターセンターの訪問者に、自作の環境教育教材「地球の箱」を使ったアクティビティを提供する中村さん

保護区を訪れた観光客の子どもたちを相手に中村さんが行った環境教育。サイコロを振り、出た目に書いてある環境問題に関するクイズに答えるアクティビティだ

 着任早々、ダイナマイト漁に関する調査を進めていくと、隣町の漁師たちの仕業であることがわかった。彼らは漁を終えるとすぐに保護区を去ってしまうため、啓発を行うチャンスを見つけるのが難しかった。そうしたなか、自然保護官であるカウンターパート(以下、CP)が妙案を思いついたのは、中村さんが着任してから半年ほど経ったころ。「漁師の子どもたちが通う学校で環境教育を行う」という案だ。漁師の子どもたちは将来、高い確率で漁師の道を選ぶ。そこで、先回りして彼らに啓発を行おうと考えたのだった。学校で学んだことを、子どもたちが家で親に伝えてくれることも期待できた。
 授業は中村さんとCPの二人三脚。中村さんがスライド資料をつくり、CPがそれを使って講義を行うという分担でスタートさせた。講義のテーマは「海洋の生態系」や「パラカス国立保護区」など。テーマや講義の内容はCPが考えたが、やがて中村さんの提案で「アクティビティ」も積極的に取り入れるようになった。アクティビティの考案で参考にしたのは、「海洋学習」の教材を紹介・提供するウェブサイト「LAB to CLASS(*2)」だ。子どもたちに特に好評だったアクティビティは、「海中の情景を描いた巨大パズル」など。楽しみながら学べる授業は好評となり、小学校4校でそれぞれ月に1度ずつ授業を行うことが定着していった。
 保護区内に設置されたビジターセンターも、中村さんが環境教育を行う場となった。対象は訪れた観光客。さまざまな教材を自作し、アクティビティを楽しんでもらった。短時間のアクティビティでありながら観光客の反応が良かったのは、「地球の箱」というオリジナルのものだ。用意する教材は、表面に「地球」を描いた2つの箱。ひとつは「きれいな地球」で、「笑顔」が貼ってあり、もう一方は「汚い地球」で、「泣き顔」とゴミが貼ってある。いずれの箱にも、コック付きのタンクを格納。中身は、前者の箱がきれいな水で、後者の箱が濁った水。観光客に行ってもらうのは、コックをひねってコップに水を汲んでもらうことだ。「地球が汚れれば、飲む水も汚れてしまう」ということを感じてもらう趣旨のアクティビティである。小学生にも意味が理解できるものであり、地元の小学校の教員から教材の貸し出しを求められ、さらにそれを児童たちが借りて家に持ち帰るほどの反響だった。


同僚たちが保護区の魅力を切り取る

ビジターセンターに展示した写真コンテストの応募作品

「見てごらん、きれいだろう」。自然保護官の同僚がそう言って、スマートフォンで撮影した保護区の写真をうれしそうに見せてくれたのは、任期の半ばごろ。外部の人の立ち入りを禁止している区域の風景写真だった。配属先の者だからこそ切り取れる保護区の姿がある——。そのことに気づいた中村さんは、新たな啓発の方法を思いつく。同僚たちが撮った保護区の写真のコンテストを開くというものだ。この取り組みには、次のような効果が期待できた。
■観光客が、ツアーでは見ることのできない保護区の様子を知ることができる。
■保護区内の自然保護に対する地元住民の意識が高まる。
■同僚たちに、自分たちの使命に対する誇りが生まれる。
 自然保護官や、彼らの仕事を手伝うボランティアたちに出品を募ったところ、集まったのは50枚ほどの写真。ツアーでは見つけることが難しい野生生物のクローズアップなど、力作ぞろいだった。審査員は配属先の幹部。金賞・銀賞・銅賞のほか、「最も情熱的な写真」などいくつかのテーマで特別賞も選んでもらった。
 応募作品は、ビジターセンター内に展示。すると、すぐに反応が現れた。それまで、ツアーの客は駆け足にセンターを後にするのが常だったが、展示した写真の前でガイドが足を止め、写真を使いながら保護区の自然について説明する姿が見られるようになったのだ。
「自然」に対する関心の度合いは、人それぞれだ。中村さんが任期を通して心がけていたのは、とにかく多くの人の「窓」を叩いてみること。そうして窓から顔を出し、中村さんの活動の意図を理解しようと努めてくれた同僚や住民、観光客たちが、今後、保護区の自然を支え続けてくれることが中村さんの願いだ。

事例のポイント

実施者も楽しめる環境教育を!
同僚たちが撮影した自然保護区の写真でコンテストを開いた本事例。同僚たちにも、「より素敵な写真を撮ろう」と熱が入った。このように、実施者側も楽しめる環境教育ならば、継続される可能性も高いだろう。

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