活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】





三好直子さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:環境教育)
●(公社)日本シェアリングネイチャー協会専務理事、海洋教育教材「LAB to CLASS」運営委員

Q&A

Question 1:「行動が変わった」という手応えが得られません
〜学校での啓発に取り組む環境教育隊員より〜

 イベントや巡回授業など、試行錯誤しながら環境教育をやってきました。しかし、「みんなの行動が変わった!」という手応えをなかなか得ることができません。ゴミの啓発活動の直後にゴミをポイ捨てして帰る参加者を見るのはまだしも、環境担当者自体がポイ捨てしている場面もしばしばです。相変わらず汚い街の様子に直面するたびに途方にくれます。啓発活動をすることに意味はあるのだろうか…と、自分がやっていることの価値がわからなくなってきます。

Answer 1:

「知る」と「行動する」の間にはものすごく大きなギャップがあります。「大量消費はいけない!」「プラスチックはゴミの元凶!」「食物の大量廃棄はもったいない!」「こんなに安価なのはおかしい!」ということはわかっているのに、100円ショップやコンビニを愛用してしまう自らの行動にもつながり、他人事とは思えません。
 でも、啓発活動がなかったらどうなるのでしょう。日々の暮らしの中に潜む私たち自身の行動の意味が誰からも知らされないとしたら……おそらく協力隊にかかわる人たちは、どこかで社会の課題を知る機会を持ち、その改善に向けて自分のできることはないかと一歩踏み出したのだと思います。啓発活動がその一歩を後押しする可能性を信じたい。
 成果が見えにくい中で、「なんで変わらないんだろう」「やっている意味があるのだろうか」と自分に向けて発する「問い」が、自分の力を弱めてしまうことも多いと感じます。そんな問いが頭をもたげたら、「今できることは何だろう」「どうやったらこの状況を少しましにできるだろう」「どうやったらこの状況を楽しくできるのだろう」と、自分に向ける問いを可能性に向かう問いに切りかえていくのも大切なスキルだと思います。人は問われたものを見つけにいくので、問い方によって見えてくる風景はかわります。
 2015年にスタートしたSDGs(*)のアジェンダは「我々の世界を変革する」というタイトルです。中に「我々は地球を救う機会をもつ最後の世代になるかもしれない」という一文があります。地球は私たちがどうであっても続くでしょう。でもこの美しさや豊かさをこれから先の世代に引き継いでいけるか否か、今、この世代の人類がキーストーンを握っていることは間違いないです。
 野山の木々が数十万、数百万の種を散布し、太陽のエネルギーをもらい、ほんの一握りが芽吹く。時には、大木が倒れ、その場所に光があたり、今まで眠っていた種が一斉に芽吹き出すこともある。協力隊の活動とそのイメージが重なります。人々が変わりだす、動き出す、そんな場所やタイミングがあちこちで生まれることを信じて、思いをもった人が種まきを怠らず、創意工夫をしながらエネルギーを注ぎ続けていくことしかないと思います。

* SDGs…Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)

Question 2:同僚たちに活動への関心を持ってもらえません
〜地域での啓発に取り組む環境教育隊員より〜

 配属先は私の活動に関心がありません。同僚たちはそれぞれの仕事で忙しそうで、私の世話をしている余裕はないこともわかるので、遠慮してしまいます。どう活動をすすめていいのか、ひとりで悶々としています。

Answer 2:

 帰国直後の隊員たちに聞きました。「もう一度活動スタート時に戻ってやり直せるとしたら、初期に何をしますか?」。
 ある隊員は真っ先に「関連しそうな団体、省庁を調べて訪問する」をあげました。同じような思いをもっている地域の団体と出会ったり、キーパーソンが集まる会議を知ったり、力になってくれる人が現れたりして、活動の突破口となったのに、外部調査を始めたのはかなり後になってからだった……と。
 環境に関連する施設を訪ねた折にしっかり写真を撮って、それを同僚に見せることがすごく好評だったという声も。国内にたくさんのアイデアや工夫があるのに、意外に共有されていないことが多いようです。
 自分の趣味にプラスαの啓発要素を加えてやってみた例もいろいろ。マラソンの好きな隊員が、マラソン大会のときにトングと袋を持ってゴミを拾いながら走ったとか、サッカー好きな隊員が試合の後にゴミ拾いをしたとか。自分のやりやすいところから。
「自分のやっていること、やりたいことの見える化」で効果をあげた隊員もいます。写真をメインに、文字は少なめにした活動レポートを、直属の上司だけに送るのでなく、少し拡げてちゃっかりメールのCCでほかの人にも送ることで、配属先の人たちが声をかけてくれるようになったと。写真にちょっとコメントを加えるくらいならば、初期のころからでもできるのでは。日本での活動の紹介などから始めてもいいように思います。
「もう一度活動スタート時に戻ってやり直せるとしたら、初期に何をしますか?」という質問を、活動のうまくいっている先輩隊員に質問してみるのもいいですね。さまざまな知見は先輩隊員が持っています。
 CPとの関係づくりは大事ですが、そこばかりにこだわり、誰もかまってくれない事務所でひたすらパソコンで調べものをする、他隊員のFBをチェックして焦ってしまう……言葉が不自由な中、ついつい陥ってしまう行動パターンです。人と人とのやりとりの中で語学力も上がり、可能性の芽が育ちます。こもりたくなるけど、一歩外へ出て、生の人、生の情報に触れていきましょう。もちろん外での活動は、CPが関心を示さなくても「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」を忘れないでくださいね。配慮を忘れると「外で勝手にやっている人」になってしまうので。

知られざるストーリー