“失敗”から学ぶ

受け身の姿勢で活動していたら、自分の存在意義があやふやに

文=生田卓也さん(ベナン・小学校教育・2016年度2次隊)

図工の研修会に参加した現地の教員と生田さん。研修会では、蚊とりペットボトルと、紙を用いて民族衣装を作成した

 ベナン北部の都市にある視学官事務所(日本でいう教育委員会)が配属先で、実際の活動は視学官事務所ではなく、現場となる小学校で行っていました。1年目は小学校の授業見学から始め、徐々に先生と一緒に授業をするなどの活動を行いました。配属先となる視学官事務所にはなるべく毎日顔を出してあいさつしていましたが、上司は出張や巡回、会議などが多く、会えない日がほとんどでした。授業はしていたものの、報告する相手がおらず、成果も感じられない。そんな毎日が続くうち、何のためにベナンに来たのか見失い、「自分はここでは必要とされていないのではないか」という思いを抱くようになりました。
 1年が経とうとするとき、配属先の方々と企画調査員(ボランティア事業)の方を交えての中間活動報告会がありました。その報告会ではこの1年の活動を振り返り、残りの1年の活動目標を設定します。その中のディスカッションの時間で、配属先の方々から、私の活動に満足してもらえていること、そして私の強みである算数の指導をもっと先生たちに広めてほしいという話になりました。
 そのときまで、率直にここまで期待されているとは感じていませんでしたが、それを聞き、今後も頑張っていこうという気持ちが芽生えました。また、そこで気づいたのは、活動において受け身の姿勢であったということです。
 それまでの私は、学校で気になることやこうしたいと思うことを先生たちに伝えることはありませんでした。学生時代から社会人時代を振り返ると、やるべきことを与えられることがとても多く、活動もそういうものだと思っていたところがあったのだと思います。それに対して隊員は何かをしないといけないということはなく、自分のやりたいことを考えて、具現化していきます。受け身の姿勢ではうまくいくわけがなかったのです。
 以来、受け身であるという自分自身の弱みを強く認識し、算数の研修会や動画作成などをできるだけ自分から提案するようになりました。その結果、研修会は全部で7回行い、延べ500人以上の先生たちが参加してくださいました。1年目の終わりに自身の弱みと失敗に向き合える報告会という機会があり、よかったと思っています。

隊員自身の振り返り

自分の中でモヤモヤと考えても答えは出ないので、相談したり率直に考えを伝えたりするべきだった。話し合う機会を持ったことで、自分が思っていた以上に必要とされていたこと、期待されていたことに気づいたため、学校で気になることがあったときは、その都度、同僚である先生や、配属先にいる上司に直接話せばよかったと感じている。

他隊員の分析

人とのつながりを大切に!

 今回のケースは上司とのコミュニケーションをとる機会が少ないことも大きく影響したのではないかと思います。コミュニケーションをとる方法は直接伝える以外に、間接的な方法もあると思いました。私も活動中に、受け身の姿勢で、要望があるままこなし、方向性を見失いかけたことがありました。そんなとき、教育関係者、同僚、CP……とにかくいろいろ話せる相手がいたことが、軌道修正と支えになったと感じています。信頼できる人が増え、話しができると、自分の考えがほかの人に伝わり、周囲の協力を得て事が進むのではないかと思いました。
文=協力隊経験者
● 中南米・幼児教育・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
県教育事務所の支所に配属され、主に、幼稚園での技術指導(情操教育や「当番活動」の紹介など)、県内の幼稚園教員を対象とした定期研修会や、幼稚園での研究授業などを行う。

目標の具体化

 私も目的を失い「なぜここに来たんだろう?」と悩んだことがあります。「やりたい」事を絞れず、目標を具体化できていなかったからだと思います。私の場合はソフト面とハード面とひとつずつ目標を立て、数値化、具体化し、すべきことをブレイクダウンしました。そして、帰国から逆算し、スケジュールを立て、PDCAを回していると、考え込む時間もなくなり、結果、悩むこともなくなりました。気づいていないようで1年目でしっかり種まき→成長できているようなので、目標をしっかり持ち、帰国まで逆算しスケジュールを立てればよい結果が生まれると思います。
文=協力隊経験者
● アフリカ・柔道・2014年度派遣
● 取り組んだ活動
刑務官へ柔道指導を行った。ソフト面では派遣国本土の柔道大会で指導チームが総合優勝。またハード面では稽古を行う柔道場がなかったため、民間企業や団体とコラボをし、畳を日本から調達し、配属先と協働で現地に柔道場を建設した。

生田さん基礎情報





【PROFILE】
1987年生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、(株)栄光で塾講師、教室長、教室運営に携わる。16年9月、協力隊に参加 (現職参加)。18年9月、帰国し、復職。

【活動概要】
ベナンの北部都市ナチテングー視学官事務所に配属され、ナチテングー市内の小学校の小学校卒業試験の合格率向上を目標に以下の活動を行う。
●管轄小学校の巡回、授業
●算数や図工などの研修会実施
●算数の授業指導に関する動画作成

知られざるストーリー