高校に設立した「野菜クラブ」の活動を、
外部機関の協力を得ながら充実化

太田 至さん(パラグアイ・野菜栽培・2016年度2次隊)の事例

職業訓練高校の農牧科で野菜栽培の指導に取り組んだ太田さん。生徒の実践経験を増やすことを目的に設立した野菜クラブの運営支援では、外部機関の協力を取り付けながら、活動の充実化を図っていった。

太田さん基礎情報





【PROFILE】
1992年生まれ、静岡県出身。2015年に東京農業大学を卒業した後、16年9月、協力隊員としてパラグアイに赴任。18年9月に帰国。現在は静岡県内の総合高等学校に食品園芸系列の講師として勤務。

【活動概要】
カアグアス市職業訓練高校(カアグアス県)の農牧科に配属され、主に以下の活動に従事。
●農業基礎の授業の実施
●野菜クラブの設立・運営の支援
●保健科の学校菜園授業の支援
●地域の祭りなどにおける野菜の調理方法の紹介


 太田さんが配属されたのは、カアグアス県カアグアス市にある職業訓練高校の農牧科。3年制の学校で、農牧科は生徒数が1学年30人程度、教員数が4人という規模だった。
 着任するとすぐに配属先は年度末の長期休暇に入ってしまったため、太田さんは同市の市役所の農牧課で手伝いをさせてもらうことにした。任地の農業事情を知ったり、人脈を広げたりする好機と捉えたのだった。
 新年度が始まると、配属先からの要望により、1年生の農業基礎の授業を担当することに。そのかたわらで、配属先のニーズを探っていった。

「実践経験」を積む場を創設

クラブの運営方法について自主的に話し合いを行う部員たち

 農牧科の教員たちの授業を見学させてもらうと、「座学」に偏り、「実習」の時間が少なかった。その背景にあったのは「予算不足」。実習に必要な道具などをそろえるのが難しかったのだ。生徒の実践経験を増やす手段として太田さんが考えたのは、農牧科の有志生徒で野菜の栽培から販売までを行う「クラブ」を創設することだった。野菜の売り上げで道具や種、肥料などを購入できれば、配属先の予算が不足していても継続できる。「販売」は授業の範囲を超えた事柄であるため、「クラブ」という形態が適当だと思われた。
 カウンターパート(以下、CP)にあたる農牧科の教員も、このアイデアに賛同。そうして、2人で協力して「野菜クラブ」を立ち上げることになったのは、着任して10カ月ほど経ったころだ。最初の部員は30人ほど。始動に必要な費用だけは配属先に負担してもらえることとなり、校内で露地栽培をスタートさせた。授業で行われていた実習は、技術的に容易なレタスの栽培ばかりとなっていたことから、クラブではレタスのほかに、トマトやピーマン、ズッキーニなどさまざまな野菜を栽培することとした。
 すぐさま部員たちから「もっと畑を広げたい」という要望が上がったことから、農業を営む保護者に土地を借りて、第2の畑にした。そうして滑り出しは順調だったが、スタートして2カ月後に迎えた年度末の長期休暇にピンチが訪れる。「周年栽培」(*)を経験させる目的で休暇中も栽培を続けることにしたところ、家の用事などを理由に活動を休む部員が続出。負担が集中した一部の部員から反発が出て、クラブが解散の危機に陥ってしまったのだ。
 半ば存続を諦めかけた太田さんだったが、休暇が終わると、再開を求める声が部員たちから上がる。そうして、「活動計画を部員自身に考えさせるなど、彼らに主体となってもらう」「CP以外の農牧科教員にも指導に入ってもらい、栽培のフォローを手厚くする」といった運営方法の改善を図ったうえで、再スタートを切ることとなったのだった。

* 周年栽培…価格が高騰する時期の販売を狙って、技術の工夫をしながら季節にかかわりなく行う栽培。

ズッキーニが好評に

野菜を収穫し、販売用に仕分けを行う野菜クラブの部員たち

 クラブで栽培し始めた野菜の生育期間は2〜4カ月。収獲できるようになると、直売所を設けて販売し、その売り上げを次の栽培のための種や肥料の購入費用に回すようになった。
 好評だったのは、任地では珍しかったズッキーニだ。適切な調理方法がわからない住民がほとんどだろうと考えた太田さんは、パスタなどお勧め料理のレシピをチラシにまとめ、客に配布。すると、「おいしかった」との評判が広がり、良い売れ行きが続いた。
 ズッキーニには任地に競合相手となる農家がいなかったことから、「利益率」の面でもうまみがあった。任地で普及しているレタスやトマトなどの価格は、地元のスーパーと市場の中間程度に設定。一方、ズッキーニの場合は、地元のスーパーで売られている他の野菜よりも高い水準の価格にしても、買ってもらうことができたのだった。

学外の協力で栽培規模が拡大

パラグアイ農牧省農業普及局による講習会で、小型耕運機の使い方について学ぶ野菜クラブの部員たち

部員や同僚とともにクラブの畑に設置した灌水設備。白く長いホースから水が出る仕組みだ

 自分たちでつくった野菜が売れる喜びは、部員たちの意欲を刺激。自発的に会議を開いて「当番制」の導入を決めるなど、活動への主体性が高まっていった。そうして、栽培規模をさらに拡大しても彼らは管理していけるだろうと思われたが、ネックになったのは、設備や道具を拡充する資金がなかったことだ。この問題への対策として太田さんが試みたのは、クラブを学外の機関につなぎ、その協力を取り付けること。休暇を利用して広げた人脈を頼りに、引き受けてくれる機関を探した。
 そうして協力を快諾してくれた機関のひとつは、カアグアス市にあった、パラグアイ農牧省農業普及局の出先機関。その職員がときどきクラブで講習会を開いてくれることとなり、国内の野菜栽培の現状など、配属先の教員には入手が難しい情報を提供してくれた。なかでも効果が大きかったのは、「小型耕運機」に関する講習会だ。実物を持ち込んでくれたため、部員たちはその操作を体験することができただけでなく、新たに6アールの畑をつくることも叶った。
 太田さんの任期の残りが半年ほどとなったころには、カアグアス市役所の支援により、灌水設備を設置することもできた。穴を開けたホースを畑に配置し、タンクに貯めた水をポンプで流すという手動式のものだが、一日がかりだった水やりが、15分で完了するようになった。そうして生まれた余力で、ナガナスなど新たな品目の栽培へと手を広げられるようになったのだった。
 太田さんがかかわった1年間にクラブが稼いだお金は、合計すると170ドルほど。その間に栽培規模の拡大が進んだことから、帰国後は、さらに売り上げを伸ばすことができるだろうと見込まれている。

事例のポイント

配属先外の人脈づくりは前広に!
農林水産分野の活動では、配属先の予算不足などで必要な道具や材料が整わないという例も多いだろう。そんなときの頼みの綱は、「外部機関」による協力。前々から配属先外での人脈づくりを進めておけば、助っ人が必要となったときに、タイムラグなくしてそれを見つけ出すことが可能になるはずだ。

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