活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

Question 1:ヒレナマズの幼生の餌について
〜ヒレナマズの養殖に取り組む養殖隊員より〜

 ヒレナマズは任地の環境でも生存できるため、その養殖を普及させる活動に取り組もうと考えています。ヒレナマズの初期餌料(幼生の餌)には、アルテミア(*)を使うことが一般的かと思いますが、任地の経済状況ではそのコストをまかなうのは難しそうです。そこで、アルテミアほどコストがかからない代わりの餌があるならば、教えていただきたいです。

*アルテミア…成体の体長が1センチ程度である小型の甲殻類

Answer 1:

 昨年、世界中に散らばっている養殖隊員によるスカイプ会議が開かれました。そのなかで上記のような質問が出され、技術的に興味深い議論がなされたので、ここでその話題を取り上げたいと思います。
 ヒレナマズという魚は東南アジアやアフリカで養殖されており、劣悪な環境下でも生存できるため、養殖そのものはそんなに難しくありません。しかし、人工種苗生産は結構大変で、いかに健康な種苗を大量に効率よく生産するかが問題となります。
 その鍵となるのは卵の質、ひいては親魚の質ですが、加えて大切なことは、生まれたばかりの仔魚への餌の供給です。孵化したばかりの仔魚は腹部に卵黄をもっており、それを栄養にしますが、卵黄を吸収した後は自力で餌を摂らなければなりません。口が開いた直後に良い餌があるかどうか、初回の栄養摂取がうまくいくかどうかが、その後の生き残りに大きな影響を与えます。
 ヒレナマズの初期餌料には、アルテミアのノープリウス幼生(最初期の幼生)がよく使われます。アルテミアは乾燥耐久卵が市販されており、米ユタ州のグレートソルト湖産が有名ですが、今では安価な中国産も出回っています。とはいっても、やはり種苗生産では結構なコストになるので、代替となる餌はないでしょうかというのが、上記の質問でした。
 時間が限られているスカイプ会議の席上では、ミジンコがアルテミアに替わる餌料生物であるという情報が共有されましたが、私はその後、JICAの技術協力プロジェクトとしてヒレナマズの種苗生産技術の指導に携わっている専門家に問い合わせをしました。すると、やはりタマミジンコという種がアルテミアに替わる最良の初期餌料であろうとのことでしたので、その旨をスカイプ会議に参加した隊員たちにメールで共有しました。
 隊員はそれぞれ活動現場で一人悩みながら、日々、挑戦していると思います。技術に関する情報の入手方法が限られているなか、隊員間の情報交換やJICA専門家への相談で、抱えている問題の解決の糸口が見え、目の前が明るくなることもあるかもしれません。スカイプ会議はその一助になるものだと考えます。

【回答者】





千頭 聡さん
●JICA国際協力専門員(担当分野:農漁村開発、水産開発)



Question 2:野菜の鮮度を保持する簡単な方法とは?
〜農村部で活動する隊員より〜

 任地では、多くの家庭に冷蔵庫がありません。そのため保存ができず、多くの野菜や果物が廃棄されています。冷蔵庫がなくてもできる簡単な貯蔵方法などはありますでしょうか。

Answer 2:

 野菜を長持ちさせるには、乾燥させないこと。野菜の多くは90パーセント以上の水分を含み、収穫直後より水分が蒸発していきます。水分を失うことでエチレンという植物ホルモンが出てきます。エチレンは呼吸を増大させるので、養分も消耗されてしまいます。また、呼吸により水分も失われ、ついには老化、腐敗に至ります。おばあちゃんの知恵袋ではありませんが、濡れた新聞紙で野菜を包み、水分の蒸発を防ぐのも鮮度保持の方法のひとつです。ただし、新聞紙も乾燥するということを忘れずに。最近は色々なフイルムを利用して乾燥防止をしています。
 次に野菜の鮮度保持で大切なことは貯蔵温度です。農産物は温度が上昇すると新陳代謝が活発になり、水分や養分の消耗が増加するので25℃以上は野菜にとって赤信号。派遣国において冷蔵庫があれば、そこに貯蔵するのがポピュラーです。冷蔵庫の中でも果菜類、葉菜類、根菜類と分けて貯蔵する方がポピュラーな方法です。例えばリンゴとレタスを一緒に入れるとリンゴから発散されるエチレンガスでレタスは傷んでしまいます。多くの人は野菜や果実は何でも冷蔵庫に入れれば良いと考えているようですが、低温を嫌う青果物もあります。バナナはその代表選手ですので要注意! 気温の低い場合(5~10℃)は、野菜を冷蔵庫に入れなくても日持ちします。ハクサイ、キャベツ、ダイコンなどは新聞紙に包んでダンボール箱に入れ、温度の低い暗所に置けばひと月くらいはもちます。ショウガ、タマネギ、ニンニクなどは網袋に入れて物置などに吊るしておくとよいでしょう。ニンジン、イモ類などは畑に穴を掘って軽く土をかけておくのも鮮度保持の方法です。
 さらに野菜の鮮度保持に関係の深いものとして「貯蔵姿勢」があります。シュンギクを立てた時と横にした時の貯蔵実験では、立てた時の方が鮮度が良いという結果が出ています。なぜなら立てた時の方がエチレンの生成量が少ないから。実はネギやトウモロコシなどは、輸送中は立てて運んでいます。
 野菜や果物を貯蔵する前にその作物が栽培されている姿勢を思い出し、収納してください。より長く新鮮で美味しい青果物を食べるカンタンな裏技です。

【回答者】





髙橋久光さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:農業開発)
●東京農業大学名誉教授

ボランティア成果品 Pick Up 〜農林水産分野〜

JICA海外協力隊が作成する成果品(教材・資料・映像など)については、その共有・活用の促進を目的に、JICA青年海外協力隊事務局が「ボランティア成果品」として登録・保管する制度を設けています。詳しくは『JICA海外協力隊ハンドブック』をご参照ください。






『ニンジン・レタス・ピーマン・オクラの採種』

【作者】トンガの野菜栽培隊員
【内容】ニンジン、レタス、ピーマン、オクラの採種方法を解説。任地で野菜の種の入手が困難であったことから、農家の自家採種を後押しする目的で作成。
【形態】カラー・20ページ・英語
【構成】
❶種の保存方法
❷採種に適した株の見分け方
❸採種の方法

[農林水産分野の登録例]
●『バヌアツの魚たち』
バヌアツで獲れる魚介類の図鑑(作・バヌアツの養殖隊員)
●『野菜栽培マニュアル』
15種類の野菜の栽培マニュアル(作・セネガルの野菜栽培隊員)
●『ため池改修モデル事業』
ため池改修の設計書や積算資料など(作・モザンビークの農業土木隊員)

知られざるストーリー