休日の地域活動に参加し、
現地の人々への感情が変化

井垣智志さん(ルワンダ・公衆衛生・2016年度3次隊)の事例

郡役所に配属され、水と衛生に関する啓発や環境改善に取り組んだ井垣さん。毎月1回、休日に行われる住民の地域活動に参加したことで、活動に有益な情報などを得ることができた。

井垣さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、中小企業のメーカーに勤務。退職し、カナダでのワーキングホリデーを経験した後、長崎大学大学院の熱帯医学・グローバルヘルス研究科に進学。大学院を休学し、2017年1月、協力隊員としてルワンダに赴任。19年1月に帰国。

【活動概要】
東部県ンゴマ郡の郡庁に配属され、主に以下の活動に従事。
●学校での衛生啓発
●井戸管理の支援
●同僚が行う地域の衛生チェックへの同行


 東部県ンゴマ郡の郡庁保健課に配属された井垣さん。求められていた役目は、水と衛生に関する啓発や環境改善だった。実際に取り組んだ活動は次のとおり。
■小学校での衛生啓発 着任の約半年後から、小学校2校を月に1、2回のペースで回り、感染症や栄養、環境などをテーマとする衛生啓発の授業を行った。
■学校の「衛生クラブ」の支援 着任して半年あまり経ったころから、全寮制の中・高等学校で環境や衛生に関する活動を行う「衛生クラブ」の活動を支援。クラブが取り組んだのは、学校周辺の美化を目的にした活動(ポイ捨てやトイレの使い方に関する生徒への啓発、トイレの蓋の設置、簡易手洗い設備の設置など)や、任地の市場を会場にした衛生啓発イベントでの「手洗い」をテーマにした自主制作劇の上演など。
■井戸修理の支援 郡内の十数カ所の井戸について故障の有無や使用状況を確認。その後、故障している井戸の修理を住民や後輩隊員らとともに進めていった。任期の半ば過ぎからはこの活動がメインとなった。
 カウンターパート(以下、CP)は多忙で、井垣さんは単独で活動を進めざるを得ない状況だった。彼女からは最初に「自由に動いてかまわない」と言われたものの、地域の衛生に関する課題を把握したり、その解決策を見つけたりするのは容易でなく、すぐには思い描いていたような活動が始められなかった。そうして日増しに「罪悪感」や「疎外感」が募るなか、「わずかでも現地の役に立っている」という安心感を得たいという思いで参加したのは、住民が行う地域奉仕活動だ。毎月、最終土曜日の午前中にルワンダ全土で行われている「ウムガンダ」という催しである。
 ウムガンダには2種類ある。ひとつは、コミュニティ単位で住民が集まって実施するもの。校舎の建設や植樹など、公共設備の設置や管理がメインだ。朝8時ごろから2時間ほど作業を行った後、参加者によってコミュニティの問題について話し合う1時間ほどのミーティングが行われるのが通例である。
 もうひとつのウムガンダは、複数のコミュニティの住民が参加する規模の大きなもので、主催は各郡庁。コミュニティ単位のものと異なる点は、ミーティングの際に郡庁の職員から郡庁の事業に関する報告などが行われる点だ。ンゴマ郡でも、毎月地域を移しながらこのタイプのウムガンダが実施されており、毎回2、300人の住民が参加していた。
 井垣さんが初めてウムガンダに参加したのは、着任の翌月。郡庁主催のものだ。ウムガンダについては、派遣前訓練や赴任後の研修の際に先輩隊員から聞いており、前述のような動機のほか、ルワンダ人とともに汗を流すことで、彼らと同じ目線に立ってものを考えることができるきっかけになるだろうとの期待もあり、参加させてもらうことにしたのだった。
 当時はまだ住民が話すルワンダ語の力が足りず、ミーティングの内容を理解するのも難しかった。しかし、住民とともに汗を流すこと自体が爽快だったことから、井垣さんは以後、郡庁主催のウムガンダに毎回参加するようになった。

住民による井戸修理の様子。ンゴマ郡ではアフリディブという種類の手押しポンプが付いた深井戸が一般的だった

住民による井戸修理の様子。給水立上り管を取り出す作業

井垣さんが支援した中・高等学校の衛生クラブが設置した簡易手洗い設備


現地のペースに合わせた活動に

 ウムガンダへの参加は、やがて井垣さんの活動に財産をもたらすようになる。そのひとつは、郡庁の他部署の職員とのつながりだ。ンゴマ郡庁主催のウムガンダには、各部署の職員が持ち回りで参加。井垣さんにとって、郡庁内のネットワークを広げる格好の機会でもあった。
 小学校での衛生啓発の授業を始める際に、「郡庁の中で誰と誰の了承を取り付けなければならないか」を教えてくれたのも、ウムガンダで知り合った他部署の職員だった。井垣さんが派遣前訓練で学んだ言語はフランス語。しかし、同僚と会話ができるレベルではなかったため、英語で会話しようとするが、CPは英語が苦手であり、当初は活動について配属部署の同僚たちに相談をするのがためらわれてしまった。そうしたなか、ウムガンダで知り合った他部署の職員のなかには英語が話せる人もおり、彼らに相談相手になってもらうことができたのだ。
 一方、ウムガンダで住民たちと触れ合う経験は、井垣さんの活動の「基本姿勢」に影響を与えた。学校での衛生啓発を始めた当初、井垣さんは「ルワンダ人はどうしてこんなにルーズなのか」と苛立つことも多かった。事前に日時の約束をしていたにもかかわらず、当日になって受け入れ先の教員から「忘れていた。今日は無理だ」などと言われることもしばしばだったのだ。しかし、ウムガンダで地域のために汗を流すルワンダ人を目にすると、「ルワンダ人にもすばらしい面はあるのだ」と思い直し、苛立ちも収まる。そんなことを繰り返すうちに、やがて「彼らのゆったりとしたペースに合わせてやっていこう」と、どっしり構えることができるようになったのだった。
 井垣さんが「歩み寄り」の姿勢を持つようになると、ルワンダ人も井垣さんに歩み寄るようになる。任期後半、井戸修理の活動を開始すると、案の定、一緒に活動するメンバーが約束の集合時間に遅れることが頻発。しかし、井垣さんは苛立つことなく、別の活動の準備をしたり、近くにいるお母さんたちと世間話をしたり、子どもたちと遊んだりして、メンバーが来るのを待った。そして、彼らが到着すると「来てくれてありがとう」と声をかけた。そうした対応をしばらく続けた後、少しずつ「『9時に集合』という話ではなかったかな?」などと、遅刻をやわらかく指摘するようになる。すると、メンバーが集まる時間が少しずつ早まっていく。そうして任期の終了間際には、井戸修理の際、必要な道具をそろえたうえで約束の時間の10分後にはメンバー全員が集合し、すぐに作業が開始できるまでに変化。「彼らだけで井戸の管理を続けていける」と期待を持ったうえで、帰国の途につくことができたのだった。

サツマイモ畑をつくるためにウムガンダで原野を開墾する様子

ウムガンダで作業後に行われる参加者のミーティング。手前に立っているのは郡長

井垣さんは毎週末、リフレッシュのために任地でジョギングを行っていたことから、首都キガリで行われたマラソン大会にも参加した

井垣さんからのMessage

ルーチンワークで自己管理
私は毎週末のルーチンワークにジョギングを取り入れたのですが、余暇にルーチンワークを設けるのは効果的でした。運動によってリフレッシュされ、「日々の活動のエネルギー」を蓄えられている気がしたからです。

知られざるストーリー