“失敗”から学ぶ

子どもたちのためになると思った行動が、彼女たちの心身を傷つけてしまった

文=小川結実さん(旧姓:橋本/タイ・青少年活動・2016年度1次隊)

全入所者に、「2年後の自分に向けて手紙を書く」という活動を実施し、その説明を行う小川さん。2年間の活動の最後に、この活動を行った

 私が活動していた、人身取引被害者保護福祉センター(*)に在籍する子どもたちは、寮で生活をし、平日の日中は職業訓練などを行う施設で過ごします。週末は寮で1日を過ごさなければならず、暇を持て余しており、さらに急に100人ほどの女子と衣食住を共にしなければならないため、ストレスを感じている子どもたちが数多くいました。
 活動中期、子どもたちが寮でも有意義な時間を過ごせるように、平日の活動を企画しました。好きなキャラクターのポーチ・筆箱の編み方や、家族へ手紙を書く子どものためにポップアップカード・折り紙など、すぐに子どもたちが使えて喜ぶ物を活動に取り入れていました。
 それらの活動のひとつに、キャラクターの塗り絵や絵を描くというものがあり、「週末も寮で絵を描いたり、家族に手紙を書いたりするときに色を使いたい」という子どもたちがいました。そこで私は、外出も持ち物も制限されている子どもたちのために、「色鉛筆を貸して、子どもたちが充実した週末を過ごせるなら」と思い、金曜日の夕方に色鉛筆のセットを貸しました。
 土曜日の夜、色鉛筆セットについていた小さな鉛筆削りを分解し、刃の部分で自傷行為をした子どもたちが出ました。
 以前から自傷行為をしている子どもたちはいて、今回も発覚してから1~2週間ほど続きました。その理由は、子どもたちの生きてきた背景にあります。大人に騙されて人身取引(売春)をさせられていたことや、大人の気を引くため、大人に自分のことを心配してもらうために悪いとわかっているのに悪いことをあえてしてしまう。そのような怒りや悲しみを自分を傷つけるという方法でしか消化できなかったからです。
 私は「子どもたちが充実した週末を過ごせるように」という思いが先走り、子どもたちの生きてきた背景まで深く考えられていませんでした。また普段は刃物を渡すことはありませんが、そのときは、鉛筆削りが自傷行為の道具になるということまで考えが及びませんでした。さらに、センターでは子どもたちが間違えを犯したら、「叱る→罰」という流れが普通で、「どうして、ダメなのか」を聞いてくれる人がいなかったというのも自傷行為が発生した要因のひとつではないかと考えます。

*人身取引被害者保護福祉センター…暴力や脅迫、誘拐、詐欺などの手段で、弱い立場にある人を別の国や場所に移動させ、売春や強制労働などの目的で搾取する 「人身取引」。その被害者を保護し、社会復帰を支援する場所。

隊員自身の振り返り

自傷行為が発生後、自傷行為をした子どもたちひとりひとりと話しました。共通していたことは、「寂しかった。家に帰れず、イライラした」と施設での生活に満足していない子どもたちの姿でした。そこで、私が考えた活動をメインで行うより、数種類の活動から子どもたちがしたい活動を選んでもらうようなスタイルに切り替えました。また、子どもたちがしたい活動ができるように、はさみや針の使い方をもう一度確認し、色鉛筆は子どもたちに削らせてから貸し出すようにしました。この件を通して、「日々感情が変化する子どもたちに対応していく」、それが私にできることだと気づきました。

他隊員の分析

子どもの周りにある事象を多角的に捉える

 私は、子どもと向き合うということは、その子たちの歩んできた道のりを知り、今どんな気持ちで過ごしているのか耳を傾け、これからどんな道を歩んでいきたいと願っているのかを想像することだと考えています。そして、自分自身の感情を自覚し、過度な感情移入をしないで、多角的に子どもたちの周りにある事象を捉えることが重要だと思います。現地で新しい活動を始めるとき、「始める時期は適切か」「誰のための活動か」「誰が必要とする活動か」を考えることができれば、個別化したアプローチにより、望ましい結果が出るのではないでしょうか。
文=協力隊経験者
● アフリカ・青少年活動・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
学校現場以外での情操教育実践を目指し、公立幼稚園1校と孤児院での図工・音楽・運動の時間の支援や、路上で生活する子どもたちを対象にしたアトリエ開催、遠足の実施、衛生指導を行った。

相手の視点への接近

 施設での更生教育は集団性と個別性が混在し、しばしばさまざまなトラブルが同時に発生します。施設の職員やそこで活動する隊員はひとつのことに専念して対応するのが困難となり、職員の即断と強行が優先され、子どもたちの視点が見過ごされがちです。そのため、こちらからの指示に対して子どもたちはかなり強い口調で「なんで?」と言い、拒否・抵抗することも多かったです。子どもたちが新しい社会性を身につける前提条件として、まずは時間をかけて彼(女)らの視点や疑問と向き合うことが大切で、そこに精力を注ぐ必要があったと考えます。
文=協力隊経験者
● 中南米・青少年活動・2012年度派遣
● 取り組んだ活動
ストリートチルドレンの保護と支援を目的に活動する国際NGOで、施設内における子どもたちの生活を充実させるために、レクリエーションやスポーツ、情操教育、各種イベントなどを行った。

小川さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、福岡県出身。大学在学中の海外でのボランティア活動や留学で、国際協力及び外国語に興味を持つ。卒業後、福岡県の公立中学校で4年間担任を務め、2016年に現職教員特別参加制度を利用し、協力隊に参加。18年3月に帰国し、以前在籍していた中学校で今も担任を務めている。

【活動概要】
人身取引被害者保護福祉センターに保護されたばかりの女子 (12~18歳)に対して、ライフスキルトレーニングと基礎学力定着のために以下の活動を計画・実施。
●自尊感情を高めるため、フォト日記作成や構成的グループエンカウンターを実施
●学習ワークシートの作成 など

知られざるストーリー