ビジネススキルの指導から収入向上支援をスタート
〜「食品」の製造・販売〜

渡邉あすみさん(マラウイ・コミュニティ開発・2016年度3次隊)の事例

農村部の小規模ビジネスグループを対象に、収入向上の支援を行った渡邉さん。最初に取り組んだのは、基本的なビジネススキルの定着を図ることだった。

渡邉さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、福島県出身。2012年、国際基督教大学を卒業後、化学系専門商社に就職。17年1月、協力隊員としてマラウイに赴任。19年1月に帰国。9月から海外の大学院に留学する予定。

【活動概要】
カロンガ県コミュニティ開発事務所に配属され、農村部の小規模ビジネスグループを対象に主に以下の活動に従事。
●基本的なビジネススキル(価格設定、帳簿記帳など)のトレーニングの実施
●パンやクッキー、バイオブリケット(*)などの製造方法を教えるワークショップの実施
●商品の改良や開発、販路開拓の支援
●生活改善指導

* バイオブリケット…石炭粉におがくずなどの植物性廃棄物を混ぜ、高圧で成形した燃料。「燃焼時間が長い」などの特長がある。


 渡邉さんが配属されたのは、地域開発を担う県庁のコミュニティ開発事務所。県の農村部では住民が10〜50人ほどでグループをつくり、モリンガパウダーやヤシの葉細工などを製造・販売する小規模ビジネスに取り組んでいた。そうしたグループを巡回し、収入向上に向けた支援を行うことが、渡邉さんに求められていた活動だった。

「どんぶり勘定」からの脱却

ヤシの葉細工のグループ。従来、実用品の「ゴザ」をつくり、地元の住民に販売していた

ヤシの葉細工のグループでは、コースターを開発して外国人観光客に売るようになった

 渡邉さんの主な活動対象となったのは10グループ。着任するとまず、同僚とともにそれらを回って現状を調査した。すると、どのグループも基本的なビジネススキルに問題があることがわかった。そのひとつが、「利益」の観念の欠如だ。「材料費」を計算することなく、「ほかの人たちが付けているのと同じ金額」に価格を設定していたのだ。なかには、ほかと比べて明らかに大きいパンを同じ金額で売っているグループもあった。そのメンバーに原料とその購入費を確認し、試しにパン1個あたりの材料費を計算してみると、彼らが付けていた価格をオーバー。グループのメンバーはそうした可能性をまったく予想していなかったようで、「どおりでお金が増えていかないわけだ」とつぶやくのだった。
 基本的なビジネススキルに関するもうひとつの大きな問題は、「帳簿記帳」の習慣がなかったことだ。そのため、月の売り上げがいくらなのかを尋ねると、メンバーたちがそれぞれ違う金額を口にするのだった。帳簿がなければビジネスの管理は不可能であり、たとえ適切な価格設定ができるようになっても、収入の向上は見込めない。
 そうして渡邉さんは、各グループに基本的なビジネススキルを教えることを最初の活動に設定。同僚とともに各グループを週に1、2回程度のペースで回り、材料費の計算手順を含む適切な価格設定の方法、および帳簿記帳の方法に関するトレーニングを、3、4カ月にわたって実施していった。
 各グループのメンバーたちは、始めこそ学んでいることの意義が理解できない様子だった。また、材料費の計算には「割り算」など彼らが不得意とする作業もあった。しかし、適切な価格設定により収入が目に見えて向上するようになると、メンバーたちは渡邉さんに感謝の言葉をかけてくれるようになったのだった。

販路拡大を視野に商品を見直す

モリンガパウダーは従来、バケツに入れて地元の住民に売り歩いていた

開発したモリンガパウダーのパッケージ。「90の栄養素を含み、300の病を予防する」と効能を明記したラベルを貼った

モリンガパウダーを原料に加えたクッキー。新たに開発したモリンガパウダーの加工品のひとつだ

新商品の「モリンガクッキー」のつくり方をモリンガのグループのメンバーに指導する渡邉さん(手前右)。クッキーのほかにケーキやパンも開発した

 ビジネススキルの指導を終えると、渡邉さんは商品の見直しに着手する。その活動対象のひとつが、「モリンガパウダー」の製造・販売を行っていたグループだ。モリンガパウダーとは、モリンガの葉を粉末状にしたもので、現地の人たちは茶に混ぜたり、おかずに混ぜたりしていた。グループでは従来、地元の住民に販売していたが、パウダー自体の質は良いものの、売れ行きが芳しくなかった。モリンガパウダーは栄養価が高い食品であることから、高所得層や外国人観光客も興味を持つはずだと踏んだ渡邉さんは、そうしたターゲットへの販路拡大に向け、次のようなステップで商品の改良や新商品の開発を支援した。
(1)モリンガに関する勉強会の実施
 モリンガの効能を知るメンバーがいなかったことから、彼らを対象にモリンガに関する勉強会を実施。すると、メンバーたちにはモリンガの製品を売ることに対する誇りが生まれたようだった。
(2)パッケージの改良
 モリンガパウダーは従来、バケツに入れて地元を回り、計り売りしていた。渡邉さんは、外国人観光客が来るような店舗にも置いてもらえるよう「パッケージ」を開発。小分けのビニール袋の口をアフリカ布のリボンで閉じたものだ。表には、ひと目でわかるように効能を簡潔に記載したラベルを貼った。また、大小2つのサイズを展開することで、客の多様なニーズに対応できるようにした。
(3)新商品の開発
 利益率がより高くなるよう、モリンガパウダーをさらに加工する新商品の開発も試みた。モリンガパウダーを原料に加えたクッキーやケーキ、パンなどだ。

 以上のような商品の改良・開発が終わると、販路拡大に取り掛かる。狙いを定めたのは、県内の町中にあった博物館だ。訪問者リストを確認させてもらうと、案の定、外国人観光客や他地域から来たマラウイ人観光客が多く、委託販売も快く引き受けてもらうことができた。
 売れ行きの変化は期待以上だった。モリンガパウダーは、1カ月に売れる量が以前の約7倍に急増。さらにクッキーなどの新商品は、販売開始直後に売れ切れとなり、予約が入るほどの人気となった。
 同じ博物館では、渡邉さんが支援したほかのグループの商品も委託販売してもらうことができた。そのひとつは、ヤシの葉で編む雑貨だ。そのグループも従来、実用品のゴザをつくって地元の住民だけに販売していたが、渡邉さんは土産物として外国人観光客に買ってもらえるような「コースター」や「鍋敷き」を新商品として開発。やはり博物館では良い売れ行きだった。
 以上のような販路の拡大は、メンバーたちの自信にもつながった。農村部で暮らす彼らにとって言わば「遠い存在」だった「博物館」や「外国人」と、ビジネスを通じてつながりを持てるようになったからだ。今後はその自信を糧に、彼らが自力でビジネスのさらなる改善を進めていってほしいと渡邉さんは期待している。

新たな商材を探していたグループに「バイオブリケット」を紹介。地元では知られていない品物だったが、販売し始めると売れ筋商品になった

グループがつくったバイオブリケット

渡邉さんの活動のうわさを聞きつけ、「新たにビジネスを始めたい」と支援を依頼してきたグループには、パンやクッキーのつくり方を指導した

知られざるストーリー