新商品の「ココナツ石鹸」を開発し、
女性たちの収入向上を支援 〜「石鹸」の製造・販売〜

髙橋将太さん(ガーナ・コミュニティ開発・2017年度4次隊)の事例

貧困地域の女性たちの収入向上支援に取り組んだ髙橋さん。利が薄い商品だった「ココナツオイル」に替え、「ココナツ石鹸」の製造・販売を始めたところ、首都でも売れる商品となった。

髙橋さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、長野県出身。東北大学大学院修士課程を修了後、江崎グリコ株式会社に研究職で入社。18年3月、協力隊員としてガーナに赴任(民間連携ボランティア制度)。19年3月に帰国し、復職。現在はコーポレートコミュニケーション部にて、CSRの推進を担当している。

【活動概要】
セントラル州アゴナ・スウェドルにある「ビジネス支援センター」に配属され、貧困地域の女性たちの収入向上を目的に、主に以下の活動に従事。
●ココナツオイルに関する調査
●ココナツ石鹸のつくり方を教える講習会の開催
●ココナツ石鹸の「包装コンテスト」の開催
●ココナツ石鹸の販路開拓支援


水分を分離させてココナツオイルを抽出している様子。活動対象の女性たちは従来、オイルをもっぱら未加工のままで販売していた

 髙橋さんが配属されたのは、郡庁所在地の町にある「ビジネス支援センター」。貧困地域の住民を対象に小規模ビジネスの支援を行う組織である。髙橋さんの活動場所となったのは、町の中心部から2キロほど離れた地域だ。70人ほどからなるコミュニティがあり、大半が農業を営んでいた。特にココヤシの栽培が盛んで、十数人の女性が個々にココナツオイル(*1)を製造し、町中で週2回開かれる市場に卸していた。髙橋さんが取り組んだのは、そうした女性たちの収入向上を支援することだった。
 コミュニティの住民たちは当初、初めて見る外国人の髙橋さんを警戒する様子を見せた。そこで、まずは関係構築に専念。毎日彼らのもとを訪ねては、一緒に食事をとるなどした。そうして1カ月ほど経ち、彼らの警戒心が解かれたと感じた髙橋さんは、ココナツオイルに関して生産者と消費者の両方を対象に調査を実施した。
【生産者側の調査】
 ココナツオイルの製造・販売に取り組む女性たちの作業現場を見学したり、彼女たちへココナツオイル製造に関する聞き取り調査を行ったりした。得られたのは次のような情報だ。
●製造工程のすべてを手作業で行っているため、手間がかかり、生産性が低い。
●ココナツオイルは市場の卸先の言い値価格でしか販売できないため、「割に合わない」ビジネスになってしまっている。
●商品に虫などの異物が混入している場合があるなど、衛生面や品質に問題がある。
【消費者側の調査】
 町中の市場で買い物をしていた地域住民約120人に、ココナツオイルの使用状況に関する聞き取りを行った。得られたのは次のような情報だ。
●使用される食用油はパームオイル(*2)が主流。「ココナツオイルを使っている」と答えた人は5パーセント程度に過ぎなかった。

*1 ココナツオイル…ココヤシの果実(ココナツ)から得られる油脂。
*2 パームオイル…アブラヤシ(パームヤシ)の果実から得られる油脂。

割りの良い新商品を求めて

 当初はココナツオイルの品質や生産性の改善が活動の中心になると予想していた髙橋さんだったが、調査の結果を踏まえて軌道を修正。ココナツオイルが割の良いビジネスにつながるよう、これを使った新たな加工品の開発に挑戦することにした。
 髙橋さんは、ココナツオイルを製造している女性たちと町の市場に足を運んでは、ヒントを探った。注目したのは「石鹸」だ。石鹸は油脂を原料とするが、ココナツオイルを主原料に使ったもの(ココナツ石鹸)は売られていなかった。しかも、石鹸は高価な設備がなくても製造でき、その技術も易しい。
 そうして、新たなビジネスとして「ココナツ石鹸」の製造・販売を女性たちに提案したのは、着任して5カ月ほど経った時期だ。ところが、売れる確証のない新商品に手を出すことに、女性たちは難色を示す。唯一、挑戦を希望してくれたのは、彼女たちのなかで最年少だった18歳の女性(以下、Aさん)だ。髙橋さんは、彼女がいずれ女性たちのリーダー役になってくれることを期待して、二人三脚で商品開発に取り組むことにした。
 工夫したのは「色」。黄色のココナツオイルだけでなく、赤色のパームオイルも原料に加えることで、鮮やかなオレンジ色の石鹸に仕立てることができた。また、市場で売られている他の石鹸との差別化を図るため、「包装」も開発。「オレンジ色」の魅力が伝わるよう、透明の袋を選択し、1つずつ個包装することにした。
 商品開発を完了すると、早速市場での販売を開始。すると、「悩みだった手荒れが治った」「ニキビが良くなった」などと効能が好評に。そうして、口コミにより売り上げが伸びていったことから、髙橋さんは販路の拡大を画策。狙ったのは、町から車で4時間ほどの距離にある首都だ。小手調べにイベント会場で販売したところ、完売。その際に外国人にも評判が良かったことから、髙橋さんはAさんとともに首都の土産物店を回り、売り込みを重ねた。結果、新たな卸先の獲得に成功したのだった。

首都の土産物店に陳列されたココナツ石鹸。生産者や商品を紹介するPOP広告を添えてもらった。商品名の「Natural Gifts」は髙橋さんが提案し、Aさんの賛同を得て決定されたもの。天然素材にこだわっている点を表現しつつ、Aさんの名前にも因んでいる

髙橋さん(左)が開催した石鹸づくりの講習会。混ぜ合わせた材料を木枠に流し込んでいる。木枠は大工に特注したものを使用。材料はココナツオイル、パームオイル、水、苛性ソーダ、香料。赤いパームオイルと黄色いココナツオイルを入れることで、鮮やかなオレンジ色に仕上がる

ココナツ石鹸づくりに取り組む女性たちと、配属先の同僚たち。グループのオリジナルTシャツも作成した


「コンテスト」で意欲を刺激

石鹸の「包装コンテスト」で実技に取り組む女性たち

「首都でも買ってもらえる」という点は、Aさん以外の女性たちの意欲を刺激した。「自分も石鹸づくりに挑戦したい。つくり方を教えてほしい」という要望が彼女たちから上がったのだ。髙橋さんはすぐさま、彼女たちを相手に石鹸づくりの講習会を開催。着任して10カ月、帰国する2カ月ほど前のことだった。
 技術面で女性たちの多くがつまずいたのは、「包装」だ。「きれいに包装された商品」に接する機会がそれまでほとんどなかったことから、「きれいで均一な包装」がなかなか定着しないのだった。その解決策として髙橋さんが企画したのは、「包装コンテスト」。「競争」が刺激となって、技術レベルの向上につながると考えた。審査員役となったのは、髙橋さんと配属先の同僚たち。女性たちの作業を見て、「丁寧さ」や「きれいさ」など数項目にそれぞれ5点満点で点数をつけ、総合得点で順位を決めた。このコンテストにより、女性たちの意識は向上。「きれいで均一な包装」が実現するようになったのだった。
 そうして、女性たちがすべての工程について一定レベルの作業ができるようになったところで、髙橋さんの1年間の任期は終了。以後、Aさんがリーダー役となって、さらに新たな商品を開発したり、販路を広げたりといった活動を展開していくことが、髙橋さんの期待だ。

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