観光業の仕事で重要な「ホスピタリティ」の指導に注力
〜「ホテル業」の人材育成〜

星 雅之さん(東ティモール・観光・2016年度2次隊)の事例

職業訓練校のホテルコースで授業の改善を支援した星さん。国内のホテルやレストランを回ってその現状を把握したうえで注力したのは、「ホスピタリティ」の指導をより手厚くすることだった。

星さん基礎情報





【PROFILE】
1979年生まれ、愛知県出身。ホテルで宿泊部門の現場業務や宴会・婚礼部門の営業業務に従事した後、2016年10月、協力隊員として東ティモールに赴任。18年10月に帰国。現在は、地域活性化を手がける会社の社員として、観光コンテンツや新たな事業の開発、社会課題解決の事業などを担当する。

【活動概要】
首都ディリにある職業訓練校「観光ホスピタリティ学校」のホテルコースに配属され、主に以下の活動に従事。
●授業の改善支援
●「ホスピタリティ」について教える授業の立ち上げ・実践
●校内ゴミ捨て場の設置(「ハウスキーピング」の授業の一環)
●インターン先ホテルの選定やインターン中の生徒のフォロー


「レストランサービス」の授業でナプキンの折り方を指導する星さんと生徒たち

 星さんが配属されたのは、首都ディリにある3年制の職業訓練校のホテルコース。「フロント業務」や「ハウスキーピング」など、ホテルで働く者が必要とする技術を教えるコースで、生徒数は100人あまり、教員数は10人という規模だった。
 教員たちは「ツーリズム」など関連する専門知識を大学で学んでいたが、ホテルでの実務を経験していなかった。そのため、星さんが着任するまでは、授業がどうしても「座学」に偏ってしまっていた。そんななかで星さんが配属先から要望されたのは、「実技指導」への支援を行うこと。実際には、「レストランサービス」と「フロント業務」の授業で実技の指導方法を改善することが、活動の柱となった。

「ホスピタリティ」に特化した授業

「フロント業務」の授業で使われていた「フロント」のセット。従来は、生徒が「受付担当者」と「客」の役になって想定問答を読み上げる「アナログ」の実習だけが行われていた

星さんが実習授業のために作成したフロント業務用のエクセルファイル。「静かな部屋が良い」という客の希望を入力すると、「エレベーターの昇降口から離れた部屋」が自動的にピックアップされるようなものになっている

星さんが作成したフロント業務用のエクセルファイルの操作を学ぶ生徒

 着任後、星さんは休暇を利用して国内のホテルやレストランを回り、観光の現場の実情を探っていった。そのなかで見えてきたのは、「国内最先端」とされる観光の現場でさえも、「ホスピタリティ」に欠けている点だった。東ティモールの人々は「明るい」、「陽気」と感じる人が多かったが、こと「接客」になると、途端に「挨拶」や「笑顔」がなくなり、「無愛想」に見えてしまうのだ。この「ホスピタリティ」については、配属先の授業でも指導が手薄だと感じるテーマだった。例えば、「テーブルセッティング」の技術を教える授業。同僚たちは「スプーンやフォークを並べる順序」までは教えるが、「真っ直ぐに並べたら、客が気持ち良く感じる」といった点まで踏み込んだ指導とはなっていなかった。
 そうした状況を踏まえ、「ホスピタリティ」を真っ向からテーマに取り上げた授業を星さんが担当するようになったのは、任期も折り返し地点に差し掛かるころだった。まず、「客の立場に立ち、どのようにもてなされたら気持ち良いかを考える」という、「ホスピタリティ」の一般的な概念を生徒たちに説明。すると彼らは、そうした姿勢の重要さは理解するものの、ホテルでの仕事で具体的にどのような振る舞いが「ホスピタリティ」に当たるのかがわからない様子だった。そこで星さんは、「ホスピタリティのある接客」をテーマにしたディスカッションを導入。例えば、「レストランの客が周囲を見回しているとしましょう。どのような理由でそうした行為をしていると考えられますか」と尋ねる。すると、生徒からは「トイレを探している」などの意見が挙がる。星さんはさらに、「では、店の者はそこでどのような対応をするのがべストだろう?」と問いかけ、生徒たちに考え、意見を述べさせる。
 そうしたディスカッションの後には、「ロールプレーイング」も行った。「ゲスト役」となったのは星さん。欲していることや困っていることが読み取れるような「挙動」を演じ、生徒たちには「そこで接客する側がどのような対応をすべきか」を考え、演じてもらった。
 ディスカッションとロールプレーイングを組み合わせたこの授業形式は、「テーブルセッティング」など個々の技術ごとに実施。すると期待どおり、生徒たちは徐々に「客の立場に立って考える」ということが自然にできるようになっていった。

インターンシップ先での高い評価

同僚と星さんが生徒たちを引率し、首都にある高級ホテルを見学したツアー。星さんが休暇を利用して行ったホテルの調査は、見学ツアーやインターンシップの受け入れ先の開拓にもつながった

 前述の「ホテル巡り」でわかったもうひとつの重要な事実は、国内の大半のホテルでは、フロント業務に「コンピュータシステム」が導入されていることだ。宿泊の予約や会計などをパソコンで管理し、例えば予約の受け付け時、客の人数や希望条件などを入力すると、ふさわしい部屋が自動的にピックアップできるようなシステムである。一方、配属先には国内のホテルのフロント業務で使われているソフトが用意されておらず、「フロント業務」の実技授業はもっぱら「アナログ」の面に終始。生徒が「受付担当者」と「客」の役に分かれ、教員が用意したわずかばかりの想定問答を読み上げるというものだった。
 そうした状況への対策として、星さんは「想定問答」のアイデアを出してそのバリエーションを増やす一方、国内のホテルのフロント業務で導入されているコンピュータシステムを簡略化したエクセルファイルを作成し、任期の半ば過ぎに授業に導入。「客の人数や希望条件を入力すると、ふさわしい部屋が自動的にピックアップできる」という機能を備えたファイルだ。星さんは、生徒たちが実習授業でその操作を体験することで、単にパソコン操作に慣れるだけでなく、「客の希望に応える」という「ホスピタリティ」の姿勢を生徒自身の血肉としてもらおうと考えたのだった。
 以上のように、「ホスピタリティ」の本質とその具体的な実践方法を伝える授業への改革に力を注いだ星さん。するといつしか、生徒たちの間で「ホスピタリティ」という言葉が星さんのアイデンティティを表現するものと認識されるようになる。星さんがいつもよりも元気がなく、口数が少ない日には、生徒から「先生、今日は『ホスピタリティ』がありませんね!」などと声をかけられることも出てきたのだ。
 星さんの活動の意義は、客観的にも表れていった。「ホスピタリティ」の指導を受けた生徒たちが、インターンシップ先のホテルに就職する数が例年より増加したのだ。「客の立場に立って考えられる」という、ホテル側が求める人材像にマッチしている点が評価されてのことだった。

知られざるストーリー