“失敗”から学ぶ

活動のアプローチ方法が任地の状況に適しておらず、計画が進まない状態に

文=堀井大輔さん(パラオ・生態調査・2016年度3次隊)

隊員活動の最終日に、オフィス前の船着き場で、配属先のスタッフと記念撮影

 私が配属されたコロール州政府の保全・法執行部は、世界遺産「ロックアイランド群と南ラグーン」を管理している。その世界遺産の生態調査は、国内外の組織や研究者によって不定期に行われており、配属先は長年それら調査のサポートを行っていた。コロール州政府から依頼された活動内容は「配属先のスタッフによる長期的な生態系のモニタリング調査の計画、実施、及びそれらのデータベース構築の支援」。ゼロからモニタリング調査の計画を立てることへの責任感とやりがいを感じながら活動を開始した。
 任地に赴く前から、私は「同僚は十分な知識と経験があり、やる気もある」と勝手に考えていた。また、多くの協力隊経験者が「知識や経験を任地の人に押し付けるのではなく、任地の人から学ぶ姿勢を大切にすべきであり、実際に任地の人から多くのことを学んだ」旨の情報を発信していたので、「自分のやり方を押し付けてはいけない」という思いを強く持っていた。そのため、カウンターパート(以下、CP)の主体性を大切にし、隊員はあくまでもサポート役というアプローチ方法で活動に取り組んでいた。しかし、CPが能動的に「生態系のモニタリング調査」の計画を立てる様子は見られず、プロジェクトが進展しない状態が半年間続いた。CPとコミュニケーションを重ねることで、実はCPは生態調査に関係するバックグラウンドを持っていないことや、仕事を増やしたくないと考えていることを知った。
 成果が出ないことに焦りを感じた私は、「まずは隊員が主体となって活動し、CPにそれら一連の流れを経験してもらうことで、仕事への興味を持ってもらおう」と考え、活動のアプローチ方法を変更。配属後7カ月目からは、私が先頭に立ってモニタリング調査の計画を立案し、各専門家と調整を重ね、配属後9カ月目にモニタリング調査を開始。この間、CPを置いてきぼりにしていた感が強いが、配属後1年が過ぎた頃からCPも「生態系のモニタリング調査」自体に興味を持ち、徐々にプロジェクトの主導権をCPに移行することができた。
 CPと十分にコミュニケーションが取れていない状態で、思い込みを基に活動のアプローチ方法を決めたことが失敗であった。任地ごとに適した活動のアプローチ方法があることを学んだ。

隊員自身の振り返り

活動のアプローチ方法を次の3つの状態で決めたことが失敗の原因だと考えます。(1)コミュニケーション不足で、CPの本音を知らない状態。(2)「環境分野の業務に携わる人は皆その分野に興味があるだろう」などの先入観を持った状態。(3)予習した知識を鵜呑みにした状態。配属先の状況を知り、スタッフやCPと十分にコミュニケーションをとった上で、活動のアプローチ方法を決めるべきでした。任地の状況に即したアプローチ方法(今回の場合、隊員が先頭に立ち「やってみせる」)を早い段階から取り入れることができれば、プロジェクトをより前進させることができたと考えます。

他隊員の分析

主体性をひきだすとは……

“主体性をひきだす”にはCP自身の考え方や価値観を深く知ることが重要であり、それらは彼らの文化や社会背景に大きく根付いています。今回は、ご自身の「先入観」と「対話不足」により、その背景を知り理解するまでに時間を要したものと思います。私自身も、活動初期における対話による信頼関係の構築は、後々の活動の幅を大きく左右すると振り返っています。そのためにも、まずは彼らの文化に沿って積極的に行動を共にし、理解を深めるのもひとつの手段ではないでしょうか。それに伴い彼らの考え方をいち早く掴むことができるのだと思います。
文=協力隊経験者
● アジア・青少年活動・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
派遣国の養護施設と隣接する学校にて子どもたちに向けて日本文化や英語・算数などのクラブ活動を実施、平和学習や国際交流イベントなども開催した。

率先垂範はやりすぎを避ける

 私も任地ごとに適した活動のアプローチ方法があるのだと学びました。SWOT分析は強み・弱み・機会・脅威を知ることで具体的な対策を打ちやすくなりますからどの隊員もやってみるといいと思います。CPや同僚の考え方や人間関係を早めに知ることは、その後の期間を有効に活用するために重要です。隊員が先頭に立ってやってみせることは時として必要ですし、隊員が離任した後も定着して継続されることを願っています。私も率先垂範に心がけ実行しましたが、「やりすぎ」は同僚のやる気や自主性に影響するので“適度”がポイントです。
文=シニア海外ボランティア経験者
● 大洋州・マーケティング・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
水族館と国立博物館でそれぞれ約1年間、主に来館者数や売店・カフェの売り上げを増加させるための支援に従事。スタッフの心の内を「1対1」の対話で引き出し、活動に対する理解と協力を得ながら活動した。

堀井さん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、滋賀県出身。広島大学大学院国際協力研究科に在学中にフィリピン大学の修士課程に交換留学。大学院修了後、建設コンサルタント会社に入社、環境コンサルタントとして主に環境アセスメント業務に従事。休職し、17年1月、協力隊に参加。19年1月に帰国。

【活動概要】
パラオのコロール州政府の保全・法執行部において、配属先のスタッフによる世界遺産での長期的な生態系モニタリング調査の開始を目指し、主に以下の活動を行う。
●野鳥・ウミガメ・植物等の調査の開始
●Accessを用いたデータベースの作成
●GISデータの整備 など

知られざるストーリー