非行や被虐待などの経験を持つ少女が通う自立支援施設に配属された三浦さん。地域の高齢者施設や特別支援学校などでボランティアを行う授業では、念入りな事前学習を取り入れることで、少女たちの主体性や対象者を思いやる心をじっくりと育てていった。
【PROFILE】
1988年生まれ、東京都出身。2011年に大学を卒業後、教育関連の団体に就職。16年10月に協力隊員としてセントルシアに赴任。18年10月に帰国。
【活動概要】
少女を対象とした通所型自立支援施設「アプトン・ガーデンズ・ガールズ・センター」(カトリーズ市)に配属され、施設の少女たちが主体となって行う以下の各種プログラムの運営を支援。
●高齢者施設でのクリスマスパーティー
●特別支援学校での交流会
●保育園での職場体験
●小学生との合同演劇会
●公開フォーラム(少女たちの発案による、差別問題をテーマにしたものなど)
三浦さんが配属されたのは、非行や被虐待などの経験を持つ12〜16歳の少女を受け入れる通所型自立支援施設。国語や算数などの基礎教科や、パソコンなどの実技教科の授業が、毎日5コマずつ実施されていた。登録している少女は常時十数人程度で、授業を担当する職員は4人。9月に年度が始まる3学期制で、2学期間通って巣立っていくことが目安とされていた。
着任早々、三浦さんは自身の活動について配属先の幹部と話し合いを実施。「施設に外からボランティアがやってきて、編み物などを教えてくれることは多いけれど、少女たちが施設の外でボランティアをする機会は少ない」。幹部が口にしたそんな課題意識が発端となり、少女たちが地域でボランティアに取り組む「地域奉仕活動の授業」の立ち上げが決定。三浦さんと同僚教員のひとりが担当することとなった。「自分は社会にポジティブな影響を与えられる存在だ」という「自己有用感」を少女たちが獲得する一方、少女たちに対する「どうせ不良だ」という地域のネガティブな見方もなくなる——。そんな期待で立ち上がった授業だった。
「地域奉仕活動の授業」は週に1回、連続する2コマが当てられることとなった。授業の最初のプログラムとなったのは、近隣の2カ所の高齢者施設でクリスマスパーティーを開く取り組みだ。従来、クリスマスに施設の少女たちが高齢者施設を訪れることは恒例となっていた。しかし、なかば強制的に歌を歌わせるだけという、少女たちにとって教育効果の薄いものになっていたとのことだった。三浦さんの着任は11月で、本番まで約1カ月半。三浦さんたちは「事前学習」を含む以下のような段取りで進めていった。
(1)事前学習
最初の授業では、「高齢者」についてどのようなイメージを持っているか、少女たちに尋ねた。すると、「怠け者」「怖い」「ちゃんと考えることができない」など、ネガティブな言葉が多く挙がる。そこで次に行ったのは、高齢者の立場を理解させるための授業だ。まず、「段ボールを自分の関節に巻いて動いてみる」といった方法で、高齢者の体の不自由さを疑似体験するアクティビティを実施。続いて、「アルツハイマー病の人に日常がどう感じられているか」を描いたドキュメンタリーフィルムを鑑賞させた。そうしてあらためて最初の授業で少女たちが挙げた高齢者のイメージを提示し、「みんなが挙げた特徴は、加齢による体や脳の変化が原因なこともあるんだよ」と説明。すると、少女たちは神妙な面持ちで話を聞くのだった。
(2)施設見学
事前学習を終えると、少女たちを引率して対象の高齢者施設を訪問。職員に質問をする場を設けた。「どうして高齢者はシワだらけなの?」。そんな屈託のない質問に対し、職員は「あなたたちの皮膚も、伸ばしたらすごく広いのよ」などと懐が深い受け答えをしてくれたうえ、高齢者とかかわる楽しさも語ってくれた。
(3)アクティビティの準備
当日に行うアクティビティの準備を始めると、事前学習や施設見学の効果が顕著に現れた。少女たちが自らアイデアを出してきたのだ。そうして、「ダンスを披露する」「クリスマスソングを高齢者たちと一緒に歌う」といったプランが固まると、練習を開始。少女たちは高齢者に渡すプレゼントの製作も自発的に行った。
(4)当日と事後学習
迎えた当日。少女たちは各アクティビティを真摯にこなし、最後には高齢者たちと手を取り合って別れを惜しむ姿が見られた。その後、「振り返り」の学習として、当日の様子を撮影した写真とコメントで構成する「思い出壁新聞」を3部作成。1部は活動先に掲示し、残りの2部は少女たちが高齢者施設に届けた。事後に少女たちにとったアンケートでは、「人の気持ちになって考えることができるようになった」「自分に自信がついた」といった変化が現れていた。
三浦さんが同僚とともに手探りで形づくっていったこのクリスマスパーティーの段取りは、以後、「地域奉仕活動の授業」のフォーマットとして定着した。たとえば、近隣の特別支援学校に赴き、そこの児童たちに工作などを教えるプログラム。自閉症やダウン症など、見た目にはわかりづらい障害がある子どもたちが通う学校で、配属先の少女たちは従来、「頭がおかしい子たち」などとあざける言葉を口にすることもあった。ところが、自閉症児が「100匹の蟻が体を這っているように感じる」などと自身の感覚を語るドキュメンタリーフィルムなどで事前学習を重ねると、少女たちの姿勢は変化。事後に特別支援学校の校長から「少女たちは当校の子どもたちに心を開いて接していた」との評価をもらうことができた。他方、授業をともに担当した同僚は「これまで少女たちの間にはいじめなどもあったが、このプログラムによって彼女たちはやさしく、繊細になった。今回の交流は、素晴らしい初めの一歩だと思う」と、同種のプログラムの継続に意欲を見せてくれたのだった。
「事前学習」でじっくり「主体性」を育てる!!
子どもたちを地域とつなぎ、そこからさまざまなことを学ばせる活動では、「一過性のイベント」に終わらせないためにも、念入りな「事前学習」で子どもたちの主体性を育てることが重要だろう。