活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

【回答者】

藤岡孝志さん
●JICA海外協力隊技術顧問(担当分野:青少年活動)
●児童養護施設等スーパーヴァイザー


Question 1:関係づくりの難しい子や自己評価の低い子にどう対応すればいいか
〜児童保護施設で活動する青少年活動隊員より〜

 施設で活動していますが、子供たちの喧嘩や子供からの暴言への対応をどうすればよいか困っています。関係づくりがとても難しいです。それから、もともと自己評価が低く、なかなかやる気を見せてくれない子供たちと一緒に活動するのに困っています。これまで行われてきた施設での活動内容もマンネリ化していて、施設の職員も子供たちの変化に対してあきらめがちです。子供たちの可能性を信じているのですが、なかなかそれがうまく引き出せていない気がしています。ご助言をいただけると、うれしいです。

Answer 1:

1、子供との関係性の見立て
 まず、青少年活動で心がけなければならないのは、子供たちとの関係性の見立てを常に怠らないことです。特に、活動開始時、非行少年や被虐待で傷ついた子供たちは、関わる隊員が本当に自分のことを親身になって考えてくれるかを試してくることがあります。「試し行動」といいますが、わざとこちらを怒らせることを言ってきたり、いろいろなことを押し付けてきて、支配できるかどうかを試したりします。それらに感情的に反応して怒ってしまったり、子供からの「支配 ‐ 被支配」の関係に巻き込まれたりして(あるいは、挑発されて)、子供に高圧的に出たりすると、子供たちからの信頼を失ってしまいます。子供たちの怒りや挑発、支配の背景には、子供たちがこれまで生きてきた歴史性が反映されています。その歴史に思いをはせる余裕があれば、挑発に乗ることもないし、怒りに任せて怒るということもありません。よくないことをした子供には、そのことがどうしてよくないかを淡々と簡潔にわかりやすく言葉で伝えます。

2、子供たちの自主性の尊重 〜隊員は前面に出ない〜
 青少年活動では、活動内容は常に、子供たちの自主性を尊重し、隊員は常に脇役に徹します。主役は子供です。例えば、近隣の福祉施設、学校など他の施設でのボランティア活動も有効活用しながら、一緒に地域での活動を行っていくこともできます。
 施設の子供が地域に出ていくきっかけに、「近隣の高齢者施設訪問を子供たち自らが企画すること」をした隊員もいました。この隊員は、青少年の自主性を後押ししました。施設に行く前にまず、高齢者についての勉強をし、高齢者へのイメージを子供たちに書いてもらいました。とてもネガティブなものでした。また、手作りの道具(インスタントシニア)で高齢者の体験もしてみました。そのあと、子供たちは老人ホームの下見と職員へのインタビューをし、そのうえで、訪問の企画をし、ダンスや歌の練習をして、実際に訪問をしました。その間、一貫して隊員は子供たちを見守りました。高齢者の方々は大変喜んでくださいましたが、子供たちも自分たちが人の役に立ったことがすごくうれしかったようです。当然子供たちの高齢者へのイメージも大きく変わり、また自分たちも生き生きとしてきました。施設長をはじめ、施設の職員の方がたからも、子供たちの変化をしっかりと評価していただきました。



Question 2:アンケート実施に関する注意点とは?
〜児童養護施設で活動する青少年活動隊員より〜

 子供たちと1年以上過ごし、言葉も上達してきたことで、何人かの子供は、施設や職員についての不満や悩みを相談してくるようになりました。しかもその内容は、「他の子がいじめてくる」であったり、「職員が話を聞いてくれない」といったもので、多くの子が「他の職員にも相談したけど何も変わらない」と言っています。子供の将来を思うと、やはり職員自体が変わらなければいけない部分も多くあると思っています。そこで、施設職員と施設入居者(子供)に対して施設の現状に関するアンケートを実施し、それをもとに職員・子供と話し合い、今後の活動の方針を作りたいと考えています。ご助言をいただけると、うれしいです。

Answer 2:

1、子供と施設との板挟み 〜巻き込まれないために〜
 隊員共通の悩みですね。派遣先の職員の意識の低さや技術不足をどのように補ったり、伝えたりするか。ただ、(青少年活動での)ボランティアの立場では、(それぞれの国や施設の養育方針への)指導ということはなかなか難しいでしょう。あくまでも一緒に取り組む姿勢が必要です。難しい子どもへの対処に苦労しているのは、施設長も職員もボランティアも同じなので。危惧されるのは、予定されているアンケートで、特に子供向けは、子供たちの職員への不満を噴出させ、隊員が、子供と施設職員(当然、施設長も)との板挟みになる可能性が大きいということです。その意味で、当然のことながら、施設長及び指導的立場の職員の了解を得ることが必要となります。慎重に対処すべきです。アンケートは事前に見てもらって、助言を受けたほうが良いです。そうでないと、施設長や職員と、隊員との関係が崩れる可能性があります。ボランティアの立場では、施設長が「ノー」と言ったことはできないですね。

2、子供たちの変化から施設長や職員の意識を変える
 ただ、子供たちの変化から施設長や職員の意識を変えることはできます。考えられることは、行事やイベントの後、子供たちのお互いの仲間に対する意識が変わったり、大人に対する見方が変わったりすることを子供たちからのアンケートで証明することは大事です。関わっている職員や施設への直接評価ではなく、ボランティアの活動を通した子供たちの変化をアンケートで随時とっていくことです。これは、施設長も他の職員も抵抗なく許可してくれるでしょう。そして、結果として、ご質問の中にもあった周りの大人の意欲の向上にもつながると思います。大人の方々へのアンケートもそのような観点で見直すとよいですね。

3、子供たちの変化をデータで示す
 よい活動をされているので、自信をもって、ご自身の活動を通して、「子供の変化」をしっかりとデータ(アンケート、写真、振り返りの自由記述等)で示すとよいですね。暴言を吐く子供や、暴力的な子供が叱ってどうにもなるものではないということを関わりの具体性の中での変化として、しっかりと示すことが必要です。例えばある子はスポーツをしているときは暴力的でなかった、とか。ボランティアとしてできることの限界性を認識しながら、できることを最大限模索していくことが大事です。

4、支援者が結束してこそ、子供たちの安心、安全、そして、健やかな成長が実現
 このような助言に対して、隊員から以下のお返事が届きました。「ご返信いただきありがとうございます。一緒に取り組む姿勢ですね。確かに、職員に直接関わることを避けて、子供に向き合っているつもりになっていたのかも知れません。職員の中には熱意を持って子供に関わろうとしている方もいるため、アンケートを通して、そういった方たちと今後何をしていけば良いかを話しあえるようにしたいと思っています。アンケートの内容と実施について、施設長や他の職員に相談してみます」。その後、隊員は、子供たちとのことだけでなく、さらに、施設長や他の職員の協力をえながら、活動の成果をみんなで共有し、施設をあげての活動にしていくことで、自分がいなくなった後でも、しっかりと残る「活動」へと意識的に大きく展開することができました。「隊員も含めた、支援者が結束してこそ、子供たちの安心、安全、そして、健やかな成長が実現する」。 これが、青少年活動職種の真骨頂であり、醍醐味でもあります。

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