配属先との関係を堅持する「月例報告書」を導入
〜活動スタイルづくり〜

小郷智子さん(ルワンダ・コミュニティ開発・2016年度4次隊)の事例

郡庁に配属され、住民による小規模ビジネスの支援に取り組んだ小郷さん。事務所外での作業が多い活動だったが、配属先に提出する「月例報告書」を早々に定着させ、カウンターパートとの良好な関係の維持につなげた。

小郷さん基礎情報





【PROFILE】
大阪府出身。大学で開発学を、大学院で国際公共政策を学んだ後、(株)三菱東京UFJ銀行(現・〈株〉三菱UFJ銀行)に入行。2017年3月、協力隊員としてルワンダに赴任。19年3月に帰国。

【活動概要】
東部県ルワマガナ郡の郡庁に配属され、主に以下の活動に従事。
●伝統工芸品の製造・販売に取り組む協同組合の支援
●「貯金」の習慣化を目的とした啓発の実施
●新規ビジネスの立ち上げ支援


任期序盤の一枚

小郷さんが任期序盤に導入した「月例報告書」のバインダー。当初は文章だけのものにしていたが、配属先で扱われる報告書で「写真」が多用されていたことから、月例報告書もページ数を増やし、写真を掲載するようにした

 小郷さんが配属されたのは、郡庁のビジネス振興課。求められていた活動は、住民が取り組む小規模ビジネスをサポートすることだ。任期中に取り組んだ主な活動は次のとおり。
■伝統工芸品の製造・販売の支援
 サイザル麻の繊維でバスケットなどを編むルワンダの伝統工芸品の製造・販売に取り組んでいた協同組合を対象に、デザインの多角化や販路の拡大を支援した。
■「貯金」に関する啓発の実施
「新規事業を立ち上げたいけれど、元手がない」と嘆く住民が多い一方、彼らには「お金を貯める」という習慣がなかったことから、青少年センターに通う子どもや、商店主などを対象に、「貯金をする」というモチベーションを持ってもらうことを目的とした講習を実施した。
■新規ビジネスの立ち上げ支援
 新規ビジネスの立ち上げに意欲を持つ個人を対象に、「カフェの経営」や「ドライフルーツの製造・販売」といった事業の立ち上げに向け、製造技術の指導などを行った。

「メモ書き」から「月例報告書」へ

 小郷さんの着任時、ビジネス振興課の課長は空席となっており、課長補佐にあたる人がカウンターパート(以下、CP)となった。ところが、CPとコミュニケーションをとることが容易ではなかった。ルワンダの教育言語がフランス語から英語に切り替わった2009年以前に社会に出たCPが得意とするのは、ルワンダ語とフランス語。一方、小郷さんが派遣前訓練で学んだのは英語であり、ルワンダ語は現地語学訓練で少し学んだ程度だった。そうした「言語の壁」に加え、CPは多忙で席を空けていることも多かったのだ。
 光明を見出したのは、着任して2週間ほど経ったころ。CPにお願いして郡庁の資料を入手し、勉強のために読み込もうと思ったが、なかなか彼をつかまえることができなかった。そこで小郷さんは、「資料が欲しい」旨を英語で付箋に書き、CPの机に貼っておいた。すると、数日経ってようやく顔を合わることができたときに、CPはすぐさまその資料を手渡してくれた。小郷さんがいないときに付箋の伝言を読み、用意しておいてくれたのだ。
「CPは紙に書いた伝言を無視することはなく、しかも、英語の文章を読むことができる」。そう知った小郷さんは、以後、CPに依頼したいことがあるときは、英語の「メモ書き」で伝えるようになった。
「メモ書き」の頻度が増え、煩雑になってきたことから、「月例報告書」というまとまった形の書類でCPとコミュニケーションをとるようになったのは、その後まもなくのことだ。月例報告書に記載した内容は、その月に行った活動の「報告」と、翌月以降に行う活動の「予定」。分量は当初、「報告」と「予定」をそれぞれA4判1ページに収めた。ボリュームのある報告書では、英語が苦手なCPが目を通さなくなってしまう可能性があり、かつ、小郷さん自身も作成・提出を継続しづらくなると考えたからだ。文書はワードで作成したが、メールで電子データを送付したのでは見落とされてしまうおそれがあると考え、プリントアウトしたものを渡すようにした。さらに、「予定」の欄に書いたことを忘れたときに見返してもらえるよう、月例報告書を綴じて保存するためのバインダーを用意。「提出した月例報告書にCPが目を通したら、既読のサインをもらい、小郷さん自身がバインダーに綴じて、決まった場所に仕舞う」というルーチンをつくった。
 月例報告書はほかの同僚たちにも配布。また、着任して半年ほど経つと課長が着任したため、サインは課長にもらうようになった。

小郷さんが支援した協同組合がつくる伝統工芸品を扱うようになったホテルの土産物コーナー

青少年センターで子どもたちを対象に行った「貯金」に関する啓発講習。ペットボトルで貯金箱を製作するなど、「貯金すること」へのモチベーションを高める工夫をした

小郷さん(右端)は週末に教会で空手指導も実施。その教え子たちにも「貯金」に関する啓発を行った

活動を進める「レール」に

 この月例報告書は、任期を通じて同僚たちと良い関係を保つベースとなった。
【信用】 小郷さんの活動は、事務所の外で住民とともに行う作業が大半を占めた。しかも、同僚はいずれも多忙であり、彼らに活動に同行してもらえるのは稀だった。そうして小郷さんの活動の「目撃者」が配属先にいないなか、「いつ、どこで、何をやったか」を伝える月例報告書は、小郷さんに対する同僚たちの「信用」につながった。結果、物産展への参加やJICAの隊員総会などで任地を離れる際などには、事細かに事情を説明せずとも、「トモコが行きたいと言うのだから、きちんとした理由があるのだろう」と言って、すぐに出張申請書に「OK」のサインをしてもらうことができた。
【支援】 月例報告書の「予定」欄には、予定している活動に関して依頼したいことも記すようにした。たとえば、事務所外での活動で同僚の同行が必要なものには、「どなたかを推薦してほしい」などと太字で記載。すると課長は、可能な限り対応してくれるのだった。また、「JICA事務所の職員が配属先にやって来る」など、課長に対応してもらうことが必要な行事についても記載するようにしたところ、課長がそれを見てスケジュールを調整してくれた。さらには、依頼事項を記載しなかった活動についても、課長は月例報告書の記載を見て、「この活動をするのなら、この人に知恵を借りるといいよ」と自発的にアドバイスをくれるようにもなっていった。
【リマインド】 月例報告書に記載した依頼は課長に忘れられてしまうことも少なくなかった。そのため、小郷さんは予定の活動を月例報告書で伝えた後も、口頭や「メモ書き」でリマインドすることを欠かさなかった。口頭でリマインドする際には、月例報告書のバインダーを取り出して、「ここに記しておいた件です」と説明。すると、「なるほど。私が見落としていたのだね」と言って、その予定を肝に銘じてくれるようになるのだった。
 以上のように、小郷さんの活動にとって「レール」とも言うべき基盤となった月例報告書。バインダーにたまった書類の束は、任期終了時、そのまま小郷さんの活動を引き継ぐ人にとっての「引き継ぎ書」にもなった。

小郷さんの事例のPoint

コミュニケーション手段が鍵
地域住民を対象とする活動が多いコミュニティ開発隊員などの場合、顔を合わせる時間の少ない配属先の同僚たちとの関係維持は、課題のひとつ。コミュニケーションの方法を早々に確立しておけば、後の活動がスムーズになる。

知られざるストーリー