“失敗”から学ぶ

2代目隊員として、初代隊員と比べられることによる活動の停滞

文=トラン智美さん(東ティモール・コミュニティ開発・2016年度3次隊)

特産品フェアで加工食品を販売する女性たち。トランさんは、ネットや本などを活用し、家で試作をしてみて、身近にある手に入りやすい材料でつくれる商品を提案したり、品質に問題がある商品に対する改善策などを提示したりするなど、商品づくりから販売までを見守るような活動にシフトチェンジしていった

 私は、2代目の隊員として、バウカウ県のコミュニティ開発センターというNGOに派遣されました。初代隊員の活動(営業活動とマーケティング分析)を引き継ぎながら、新しいことを始めてほしいというのが配属先のニーズでした。
 しかし、前半の約1年間は、周囲から前任者の活動と比べられたことで、なかなか活動が軌道に乗らず、苦労することばかりでした。前任者は、男性でひとりでもがつがつと営業を進めていくタイプの手法をとっており、配属先から「同じような形での活動をしてほしい」という風に言われることがしばしばありました。しかし、私は「隊員はあくまで伴走役、主体は女性グループの生産者たち」という気持ちを大きく持っていました。また、支援しているグループの大半が前任者の指導による営業活動のノウハウはありつつも活動が活発でない状況であり、私は配属先による「積極的に営業活動を進め、販路拡大をする」というニーズに応える活動ができず、コミュニケーションをとることにも難しさを覚えていました。
 ターニングポイントになったのは、赴任1年後に生産者グループと首都の特産品フェアに参加したことでした。そこで、私は前職の経験を生かし、パンフレットなど商品の広報物を製作し、持参。生産者グループのメンバーをはじめ、カウンターパート(以下、CP)にもその広報物をほめられ、彼女たちもフェアでの販売活動にそれを活用してくれました。そのときにCPに、「智美にこんなスキルがあるなんて知らなかった、うちのNGOではこれを今つくれる人はいないから助かる」とありがたがられ、自分のスキルやできることを生かして配属先に提案するようにシフトしていきました。前任者のように自身で売れるシステムをつくって貢献するのではなく、CPを主体にして、各地のフェアにグループが参加するよう促し、そこでスムーズに販売活動ができるようにサポートを行う活動をしました。
 自分の性格として、主導するより周りとコミュニケーションをとってサポートする方が向いていることに活動の後半には気づき、周囲にも自分はそういう立場で活動をしていきたい旨を伝えました。すると、自分らしい活動というのが見えてきて、周りもそれに理解を示してくれ、活動が軌道に乗るようになりました。

隊員自身の振り返り

前任者と自分を比較しすぎ、配属先から「言われた」ニーズに囚われてしまったことが失敗の原因だと考えます。任地の現状の分析とニーズを探すことに加え、自身の性格やスキルを配属先に周知し、前任者とは違う人間であることを早めに理解してもらえるよう努めればよかったです。活動後半で、自分らしさや自分の今までのスキル、そして現状を踏まえてやるべきことをしっかり見つめることの大切さに気付くことができましたが、より早い段階でそれができていれば、もっと生産者グループにも配属先にもノウハウなどを残せたのではないかと思っています。

他隊員の分析

現状分析で自分の生かせる場を

 前任者との比較は多くの隊員が直面する課題だと思います。そこで重要なことは、現状分析を行い、自分のスキルや経験をどのように生かせるかを考え、異なる視点から課題にアプローチすることだと思います。私も4代目の隊員だったので配属先には前任者の影響が強く残っていました。私は特別なスキルはなかったので、まずは前任者の活動を引き継ぐことで状況把握に努めました。その中で私ができることを見出し、工夫することで、今まで前任者たちが築き上げてきた活動の継続性を保ちつつも、私なりの活動を行うことができました。
文=協力隊経験者
● アフリカ・コミュニティ開発・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
県庁生産局に配属され、食糧問題の解決、住民の収入向上を目指し、農家に適正な稲作技術の普及に取り組んだ。加えて、農家グループの組織化、マーケットの改善などを行い、持続的な稲作の発展に寄与した。

積極的な自己開示を

 自己分析のフレームワークに「Will-Can-Must」というものがあります。活動内容を決める際も「やりたいこと」「できること」「すべきこと」のバランスが大切だという認識があれば、今回のように相手の要望だけに囚われてしまうことを回避できたのではと思います。私も最初は初代隊員の活動を引き継ごうとするあまり早々に行き詰ってしまったのですが、活動に対する思い込みを捨て、自分の経験やスキルを積極的に周囲に開示するようにしたところ、新しいつながりやきっかけが生まれてより自分らしい活動を見つけることができました。
文=協力隊経験者
● アフリカ・コミュニティ開発・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
郡庁に配属され、羊毛製品の生産・販売を行う協同組合を対象とした、商品開発・生産管理・販路開拓などの支援と、少女を対象とした編み物教室の開催などを行う。

トランさん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、新潟県出身。2013年、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科ジェンダー社会科学専攻修了後、明治図書出版株式会社に入社。小中学校向けの英語教材の編集を担当。退職し、17年1月、協力隊に参加。19年1月、帰国。その後、READYFOR株式会社にキュレーターとして就職。

【活動概要】
東ティモール・バウカウ県の女性食品生産者グループの活動の活性化及び収入向上を目指し、以下の活動を行う。
●加工食品づくりの新商品開発と商品改善による収入向上支援
●パンフレットやポスター、バナーなどの作成による広報活動 など

知られざるストーリー