「デザイン」への興味を引き出し、
「ものづくり」の楽しさが実感できる授業方法を提案

中村真奈さん(スリランカ・服飾・2016年度2次隊)の事例

職業訓練校を巡回し、洋裁授業の質向上を支援した中村さん。「縫製」の基礎技術の向上が必要な教員たちにそれを伝える一方、「デザイン」への興味を引き出すような授業方法の提案・導入にも力を入れた。

中村さん基礎情報





【PROFILE】
1988年生まれ、兵庫県出身。上田安子服飾専門学校を卒業後、アパレル会社に就職し、企画開発・デザイン・販売を経験。2016年10月、協力隊員としてスリランカに赴任。18年10月に帰国。

【活動概要】
東部州トリンコマリー県にある、東部州政府農村開発局に配属され、同県内の各地にある職業訓練校を対象に、洋裁に関する主に以下の活動に従事。
●洋裁授業の質向上に向けた支援
●教員を対象にした勉強会の開催
●生徒が授業で製作した浴衣のショーの企画・運営
●生徒が授業で製作したドレスのコンテストの企画・運営


足踏みミシンで浴衣を縫う生徒

 中村さんが配属されたのは、東部州政府の農村開発局。求められていた活動は、州都があるトリンコマリー県内の職業訓練校10校を巡回し、洋裁授業の質向上を支援することだった。
 巡回先の職業訓練校は、いずれも女性の自立支援を目的に配属先が設置・運営するもので、1年制。10代後半から30代を中心とする女性を毎年、30〜40人ずつ受け入れていた。各校に配置されていた教員は1人ずつ。彼女たちは、「洋裁」や「手工芸」、「料理」など数種の授業を一手に引き受けていた。
 着任の約1カ月後には、各校で新年度(2017年度)の授業がスタート。まずはそれぞれの洋裁授業を見学させてもらい、課題を探った。「ものづくり」には、仕上がりを構想する「デザイン」と、それを現実のものに仕上げていく「手仕事」という2つの要素がある。各校の授業では、いずれについても課題が見られた。洋裁で「手仕事」に当たるのは「縫製」だが、教員自身の基礎技術をもう少し向上させる必要性が感じられた。一方、「デザイン」については、教員たちに新しいことに挑戦しようとする姿勢があまり見られず、同じデザインのものを毎年使い回している印象だった。基礎縫い(*)の練習を終え、「バッグ」など具体的な物の製作課題に進む際、生徒たちはすぐに「どのようなデザインにすれば良いですか?」と教員に聞く。すると教員も、「あなたはこのデザイン」とすぐに指定してしまい、考える力を伸ばそうとする指導にはなっていなかった。
 そうして中村さんは、着任の半年後、「縫製」と「デザイン」の両方について、授業内容をより充実したものにするという活動方針を設定した。

* 基礎縫い…「縫う」「留める」「しつける」など基本的な縫製技術。

「縫製技術」に関する指導

「実習で使う布が調達できない」と言う生徒が多かったことから、中村さんは地域のテーラーから端切れを譲り受け、生徒たちに提供。写真は、端切れを使って生徒たちが製作したテディベア

 教員たちの縫製技術の底上げを図るために中村さんが最初に試みたのは、「勉強会」の開催だ。配属先では月に1回、各校の教員による会議が行われていた。中村さんはその機会に縫製技術の勉強会を開くことを提案。しかし、1度は実現したものの、縫製技術は短時間で身に付くものではなく、早々に頓挫する。
 そうして中村さんは、教員たちが行う授業をサポートするなかで、彼女たちに縫製技術を伝えていこうと方針転換。まずは、縫製技術の良し悪しを判定するポイントをまとめた「チェックリスト」を作成し、彼女たちにその活用を勧めた。しかし、これもうまくはいかなかった。チェックリストの必要性や重要性をうまく伝えることができなかったのだ。
 中村さんが次にとった方法は、自身がメインとなって授業を行い、そこにサポート役として教員たちに入ってもらいながら、縫製技術を学んでいってもらう時間を設けること。任期が半ば近くになったころから、ときどき各校で授業を持たせてもらうようになっていった。複雑な縫製技術については、図解するマニュアルを作成し、生徒だけでなく、教員にも配布。教員たちにそれを頼りに指導の一部を分担してもらうと、ようやく彼女たちは技術の「勘」をつかむようになっていったのだった。

「デザイン」に関する指導

任期の1年目に行った浴衣のファッションショーで、自分の作品をまとった生徒たち

任期の2年目に行った洋裁のファッションコンテストで、自分がつくった作品をまとってランウェイを歩く生徒

「デザイン」の指導で中村さんが重視したのは、「ステップ」を踏むことだ。「一から自由にデザインする」という課題をいきなり与えても、難しいだろうと考えた中村さんは、まずは作品の一部をオリジナルのデザインにするという課題を与えてみた。たとえば「枕カバー」の製作実習。従来、「ハンドペイント」だけのデザインで行われていたが、一部に好きなやリ方で「刺繍」を組み込ませてみた。刺繍は、生徒たちがほかの授業で習う技術。すると生徒たちは「デザイン」のおもしろさを実感し、課題に意欲的に取り組むようになったのだった。
 デザインに対する生徒たちの興味の高まりを感じた中村さんは、17年度の終盤、あるプロジェクトを企画する。生徒たちがスリランカの伝統布で「浴衣」をつくり、そのファッションショーを開催するというものだ。
 この企画に手を挙げたのは、巡回先のうちの3校。日本の伝統衣装とスリランカの伝統布という「組み合わせの妙」で、それまで見たこともない雰囲気の作品が生まれていく——。生徒たちは製作に熱中し、ショーの後には彼女たちから、「一日限りの日本に行ったみたいで、本当に楽しかった」といった言葉が聞かれたのだった。
 こうしたプロジェクトが「卒業製作」として定着するかもしれないと感じた中村さんは、翌18年度の末には、「洋裁」で同様の取り組みを行った。前回から変更したのは、「コンテスト形式」にした点。生徒たちがつくったドレスの出来栄えだけでなく、ランウェイを歩く「ウォーキング」や「ヘアメイク」などの自己表現、「トータルコーディネイト」でのデザインの出来栄えを審査対象に順位を付ける催しとした。作品を着てランウェイを歩いたのは、それをつくった生徒自身。審査員は、JICA事務所のスタッフや配属先の同僚などに依頼した。
 このコンテストに参加したのは6校。生徒たちが一から自由にデザインしてつくったドレスの魅力と多様さを目の当たりにした各校の教員たちは、「生徒たちがこんなにも『表現』ができるんだ」と述懐。「デザイン」の指導の重要性を感じ取ってくれたようだった。

後輩隊員へひとこと

楽しみながら、ともに学ぶ姿勢を!
活動先にあったミシンは「足踏みミシン」。私は着任するまで使ったことがなかったのですが、現地の先生たちに使い方を教わることから活動を開始。「現地の人たちと共に成長することを楽しむ」というスタンスが、協力隊活動には欠かせないものだと実感しました。

知られざるストーリー