活動Q&A集 〜協力隊技術顧問が回答〜

JICA海外協力隊への技術支援を目的に、分野ごとに配置されている技術顧問。派遣中隊員から寄せられた活動に関する相談と、それに対する技術顧問による回答の例をご紹介します。

Question 1:障害児への刺繍や裁縫の指導について
〜知的障害児を対象に手工芸の指導を行う手工芸隊員より〜

 何の障害かわからないのですが、以下のような行動を示す16歳男子(以下、B君)の対応について悩んでいます。私の言うことは理解できますが、自分から言葉を発することはなく、時々短い言葉で返事をします。パズルが好きで、簡単な刺繍や裁縫はできますが、アトピーがあり、ストレスが高まると、噛みつき、わめき散らし、走り回ります。ハサミで周りの物を何でも切り刻み、ほかの利用者の迷惑になっています。危害を加えないか心配です。

Answer 1:

 B君の障害は推測ですが、自閉的な傾向のある知的障害児と思われます。

【安全・パニックへの対応について】
(1)ハサミを取り上げるのは、パニックを誘発する要因になりかねませんので推奨できません。
(2)可能なら、先が丸い安全なハサミの使用を検討しましょう。
(3)パニックが起きたら、ほかの利用者に危害が及ばないように保護します。その上で、外に連れ出す、静かな部屋に誘導するなどして、落ち着かせます。好きなパズルに取り組ませるのもいいでしょう。
(4)パニックがどのような時間帯に、どのような背景で起こるのか、チェックします。アトピーの痒さがパニックを誘発させる要因のひとつということですので、痒みがひどくなる前に、「汗をかいたら拭く」「シャワーを浴びて体を冷やす」などをさせてみてください。

【日常生活における環境の整備について】
(1)活動時はほかの利用者と対面で、または並列的に座らせないで、できたら部屋のコーナーや壁に向かって座らせ、課題に集中できるような場面設定も考えましょう。
(2)活動の見通しが持てるよう、一日の個別スケジュールを準備するといいでしょう。
(3)指示は言葉だけでなく、写真・絵カードなどの視覚情報手段を多く使用しましょう。

【作業への参加のさせ方について】
(1)好きなこと、得意なことを活用します。例えば、紙を同じ長さに切るのが得意ならば、その練習をした後、紐を同じ長さに切る作業をB君に任せてみてください。
(2)長時間の作業はストレスを高める誘因になる場合が多いので、集中が途切れる前に、休憩をとる、外に連れ出す、ほかの好きなこと(パズル)に誘導するなどしてください。
(3)B君自身が一つ一つの作業の始めと終わりがわかるように工夫しましょう。

※配属先の実情や環境に合わせて、できそうなことに取り組んでください。

【回答者】





荒 柾文さん
●元JICA技術顧問(担当分野:障害児・者支援)
●回答時:いわき明星大学大学院 講師
●現在:NPO法人ユニバーサルデザイン結 理事



Question 2:派遣国で普及し始めたハイブリッド車について
〜職業訓練校で活動する自動車整備隊員より〜

 私の派遣国ではハイブリッド車(以下、HV)の割合が高まっています。そのため、先日、配属先からその整備について講習をしてほしいと言われました。現地には対応する故障診断器(スキャン・ツール)もなく、資料も不足しており対応に苦慮しています。

Answer 2:

 一般に、先進国で10年落ちの中古車が途上国に輸出されるケースが多く、私が協力隊員であった1990年代は、日本では電子制御式エンジンが普及していましたが、派遣国のザンビアではキャブレータ(気化器)式の中古車が大半でした。その後、私がSVとして赴任した2005年ごろのカンボジアでは、すでに電子制御式の中古車が主流となっていましたが、日本ではHVが普及し始めており、私も配属先の職業訓練校の教員向けにHVの整備技術に関する講習会を開催しました。教材はなかったため、資料を自作し、座学のみ実施しました。
 現在はHVの中古車が途上国へも輸出されています。また、ブータンのようにHVや電気自動車の普及を政策で推進する国もあります。そこで問題になるのがメインテナンスです。最近は協力隊の要請内容にもHVの技術指導を含むものがあり、活動上の課題となっています。
 近年の車両の整備には故障診断器を用いますが、協力隊の派遣国で普及しているとは限りません。また、赴任後に急遽HVの技術指導を依頼されるケースもあります。そこで、故障診断器を使用しなくても可能な作業やその注意点を紹介します。

【ダイアグノーシス・コード点検(エンジン)】 DLCコネクタの該当端子を短絡し、ランプの点滅によりコードを読み取り、指定ヒューズを抜き取り消去します。ただし、HVシステムの点検には故障診断器が必要です。
【安全管理】 HVはバッテリ電圧が200V以上、昇圧後の駆動電圧は最大650Vです。オレンジ色の高電圧配線にかかる作業では、サービス・プラグを取り外し、絶縁防具を使用する感電防止策の励行が重要です。
【エンジン整備】 HVのエンジンは自動的に始動・停止するため、点検・整備のためにはエンジンを連続運転する整備モードへの移行が必要です。
【ブレーキ整備】 HVのブレーキ・フルードの交換、エア抜きは、ブレーキ制御禁止モードへ移行して実施します。

 以上は、トヨタ・プリウス30型を例としますが、各作業方法はインターネットでも検索可能です。「与えられた環境で、何ができるか」の探求こそ、協力隊活動の最大のおもしろさと言えるのかもしれません。

【回答者】





澤山晃一さん
●JICA海外協力隊技術専門委員(担当分野:自動車整備、板金、等)
●日本自動車大学校 自動車研究科 講師
●1級自動車整備士

ボランティア成果品 Pick Up 〜ものづくり分野〜








『The Proceedings of Seminars』

【作者】ベトナムのシニア海外ボランティア(建築)
【内容】実施した建築技術の各種セミナーの教材をまとめたもの
【形態】カラー・約200ページ・英語
【構成】
(1)建築物の保全
(2)高層ビル正面部分の風への抵抗
(3)日本建築学会の建築工事標準仕様書「JASS 5N」の概要
(4)日本の原子力発電所の設計例
(5)日本の原子力発電所の認可プロセス
(6)日本の原子力発電所の一時的な作業の品質管理








『サンパウロ市カルモ公園桜調査報告書』

【作者】ブラジルの日系社会シニア・ボランティア(造園)
【内容】桜が植栽されている同国内の公園における桜の育成上の問題を見つけ出し、その対策を検討するために行った調査の結果をまとめたもの
【形態】カラー・約60ページ・日本語
【構成】
(1)調査の概要
(2)調査の前提条件の整理
(3)調査結果
(4)更新エリアの調査結果
(5)管理上の問題点と対策方法
(6)今後の目標の検討

知られざるストーリー