地域住民の意識向上を目的に、
子どもたちと「ゴミ拾い」を継続

德竹野原さん(マラウイ・コミュニティ開発・2016年度3次隊)の事例

農業普及所に配属され、住民グループを対象に収入向上活動の支援などに取り組んだ德竹さん。来たるべき経済発展の時代への備えとして、「ゴミ」に関する地域住民への啓発にも力を入れた。

德竹さん基礎情報





【PROFILE】
1990年生まれ、長野県出身。大学で国際協力学を専攻した後、山小屋やスキー場、温泉旅館での勤務を経て、2017年1月、協力隊員としてマラウイに赴任。19年1月に帰国。

【活動概要】
マラウイ農業・灌漑・水開発省が設置するムジンバ県南部農業開発事務所チカンガワ農業普及所に配属され、農村部の住民を対象に主に以下の活動に従事。
●収入向上支援(ジャムやスナック、ドライフード、バナナペーパーなどの農産加工品生産の導入支援など)
●生活改善支援(燃焼効率ややけど防止などの効果がある改良かまどの紹介など)


 德竹さんが配属されたのは、「チカンガワ」という地域を管轄する農業普及所。活動の柱は、住民グループが取り組む収入向上活動を支援することだ。20にのぼるグループを対象に、ニンニクのチップやパウダー、ポテトチップ、サツマイモクッキー、パンなどの製造技術の指導などに取り組んだ。
 広範な活動対象を獲得する足がかりとなったのは、着任まもない時期に試みた「回覧板」だ。チカンガワは行政上、7つの地区に分けられており、それぞれに農業普及員が1人ずつ担当者として割り振られていた。德竹さんは、住民グループへのあいさつ回りを始めるのに先立ち、「自己紹介」となるような通信を作成し、農業普及員たちに担当地区の住民グループに1部ずつ配布してもらった。住民たちがそれに目を通せば、德竹さんがあいさつに訪れたときに親近感を持って迎えてくれるだろうと期待したのだ。
「回覧板」は、同じ内容のものを英語と現地語の2バージョン作成。それぞれA4判2ページで、簡易なバインダーに綴じた。グループ内で回覧されるよう、読んだ人が名前と日付を記載する欄も設置。主な内容は以下のとおりだ。
■自己紹介(自画像付き)
■マラウイの印象
■現地でその時期に手に入る農産物を6大栄養素に振り分けた表
■簡単なストレッチ体操の方法
■4コマ漫画(赴任して驚いたことをテーマにしたもの)
 配布の約2週間後、ふたたび農業普及員たちに回収を依頼。バインダーにはポケットを付け、支援の要望などを書いた紙を入れてほしい旨を記載しておいたところ、「グループでパンづくりに取り組みたい」などと書きつけた紙を入れて返却してくれたグループもあった。そうして各グループのやる気や興味の対象を事前に知ることができたため、早々から多くのグループで具体的な支援に着手することができたのだった。

德竹さんの支援を受けてパンづくりに取り組んだ住民グループ

活動地域の住民たち。手前の子どもが手にしているのは、德竹さんが作成した「回覧板」

德竹さんが作成した「回覧板」の英語のページ

通勤時のゴミ拾い

 德竹さんが着任して意外に感じたのは、首都に比べ、チカンガワではゴミのポイ捨てが少ないことだった。チカンガワは市場の規模もまだ小さく、生ゴミ以外のゴミが多く出るような消費の状況になっていないのが原因のようだった。とは言え、ペットボトルなど土に返るのに時間がかかるものを含むゴミのポイ捨ては皆無ではなかった。
 そうしたなかで德竹さんはこう考えた。今のうちに地域の人々の「ゴミ」に対する意識を高めておくことで、いずれチカンガワの経済が発展し、「大量生産・大量消費」の時代がやってきても、地域の美しさが保たれるだろう——。德竹さんの念頭にあったのは、「ゴミ」や「公害」が問題となった高度成長期の日本だ。先進国が犯してきた過ちを、任地の人々には「他山の石」として参考にしてほしいと考えたのだった。
 そうして德竹さんがゴミに関する啓発として取り組んだことのひとつは、前述の「回覧板」での情報提供だ。着任から半年ほど経ったころに第2弾の「回覧板」を配布したが、そのなかにはゴミに関する啓発目的の記事も盛り込んだ。プラスチックのゴミは、バナナの皮などの有機物のゴミとは異なり、土に返るまでに時間がかかり、その間、環境に悪影響を与える可能性があることなどを、イラストを使ってわかりやすく説明するものだ。
 德竹さんが取り組んだもうひとつの啓発活動は、「みずから町でゴミを拾うこと」である。家から配属先までの通勤路は地域の幹線道路で、脇にはゴミが多くポイ捨てされていた。德竹さんは毎朝、ビニールのゴミ袋を手にゴミを拾いながら通勤した。子どもたちはすでに学校にいる時間帯であるため、出くわすのは大人ばかり。やがて「何をしているの?」と声をかけてくる人も出てきた。そうした反応を引き出すのが德竹さんの狙いであり、すかさず「ゴミを拾っているのです。マラウイはきれいな国なので、それを保ち続けたいですから」と説明した。

地域の「風物詩」に

幹線道路の脇でゴミ拾いに取り組む子どもたち

「チカンガワをきれいなままに」というメッセージを書いた、ゴミ拾い用の土嚢

 德竹さんは通勤時のゴミ拾いを黙々と続けたが、一緒にゴミを拾おうとしてくれる大人は一向に現れなかった。そうして気持ちが折れそうになるなか、試しにゴミ拾いの方法を変えてみることにした。「休日に子どもたちと一緒にゴミ拾いをする」というものだ。
 誘ったのは、常々、洗濯や洗いものを手伝ってもらったり、一緒に絵を描いて遊んだりしていた近所の子どもたちだ。「ゴミ拾いをしよう」と誘うと、娯楽が少ない環境にある彼らは、みんなで一緒にゴミ拾いをすることを「新しい遊び」のようにとらえたようで、興味津々で参加を引き受けてくれた。
 そうして、毎週土曜日の「定期ゴミ拾い」がスタートしたのは、着任してから1年ほど経ったころだ。当初の主要メンバーは5、6人。時間は午前中の1時間程度で、ポイ捨ての多い幹線道路の脇や市場の中などを主な場とした。
 重点を置いて拾うようにしたのは、プラスチックのゴミだ。プラスチックがすぐには土に返らないことを子どもたちに説明したうえで、「このゴミはプラスチックかな?」などと尋ねながら拾い進め、ゴミに対する子どもたちの理解を促した。
 工夫したのは「ゴミ袋」。「チカンガワをきれいなままに」というスローガンを大きく書いた土嚢を使うことで、あたりの大人たちの関心を引くようにした。すると案の定、「よくやっているね」などと声をかけてくれる大人が現れるようになる。市場の店員などは、子どもたちが来るのを見越して、ゴミを集めておいてくれるようにもなったのだった。
 任期の終盤になると、チカンガワに赴任してきた後輩隊員も、この定期ゴミ拾いを手伝ってくれるようになる。彼が自分の知り合いの子どもを誘ったことから、メンバーは総勢10人程度に増加。住民により強いインパクトを与える、地域の週末の「風物詩」となったのだった。

知られざるストーリー