“失敗”から学ぶ

引き継げる活動ができていると思い込み、
同僚との話し合いを疎かにしてしまった

文=天野早智さん(ホンジュラス・助産師・2016年度4次隊)

住民を対象にした健康教育のミニ講義を行う天野さん。同僚のAさんとは特に良い関係を築くことができ、天野さんはAさんにスペイン語の補助を依頼し、Aさんは「こういうテーマで講義をするときの教材は何がよいか」と質問。互いの意見を話し合い納得したうえでAさんが講義を実施し、最終的にはAさんに講義を任せられる状態になった

 配属から1年経った頃、村のコミュニティへの出張に呼ばれることが増えた。9つあるコミュニティに対し、医師・看護師・保健推進員で構成される各グループが配属先にはある。家々の住所はなく、住民リストも完全ではないが、「〇〇辺りに住む☆☆さんの子どもは●人いて、名前は……」と各担当は個人的な知り合いのように住民のことを把握していた。
 当時の私は、住民を対象にした健康教育のミニ講義をいかに同僚に引き継いでもらうかを意識していた。同僚たちも講義はしていたが、識字率が低い年齢層に向けた講義で文字だけの資料を使用するなど、内容や教材が現地の状況に適していなかった。そこで自作した絵や図などの教材を使って私がテーマと流れを決め、できる部分は同僚たちが実施し、そうでない部分は彼らに私のスペイン語の補助をお願いするという形で、2人でひとつの講義をしていた。一緒に講義をした成功体験が重なれば、離任後も彼らだけで講義を続けられる、と考えていた。
 そんな時期、ある同僚に「テーマは好きに決めていいよ」と言われハッとした。それまでは何とも思わず、むしろ私は信頼されているとさえ思っていたそのひと言で「彼らは私がなぜそのテーマを選んでいるのか理解していない」と気付かされたためだ。そのコミュニティの疾病割合や人々の健康意識などをデータから読んだり、担当に聞き取り調査をしたり、保健所に診察に訪れる患者に接したりしている中から、私がアセスメント(*)していることを彼らは知らないのだ、と。私自身それらを半ば無意識のうちにひとりで実行していて、彼らと共有する必要があると思っていなかったことにも気付いた。
 その場で「私が決めるのではなくて、そのコミュニティの特徴を考えて、あなたがその地域の人たちにどうなってほしくて、そのためにはどういうテーマがいいか考えてほしい」と同僚に提案したが、彼女は「私と行くのが嫌だからそんな面倒なことを私にだけ言うの?」と怒り、出張同行を断られてしまった。
 この一件から、まず出張に呼ばれたら、そのコミュニティの特徴を担当の同僚と話し合い、私がアセスメントしたことをすり合わせることから始めるようにしたところ、終盤には自分で考えたテーマで講義を行う同僚も現れた。

*アセスメント…主観的な情報と客観的な情報を総合して(看護)問題を導き出す過程。

隊員自身の振り返り

失敗の原因は、同僚に講義の目的や、地域住民を主語にしたときの目標は何かについて、私が彼らの意見を聞こうともしていなかったことだと考えます。それに気づいたのち彼らと話したところ、彼らにとって講義をする理由は「保健省がやれと言うから。やらないで契約解除されるのを防ぐため」であり、「住民にこうなってほしい」という目標を考える次元ではなかったと知りました。カウンターパートや配属先の保健所長とは私の活動目標や要請内容、彼らの要望などを共有していましたが、実際に一緒に仕事をする看護師や保健推進員とも早めにそれらを共有しておけばよかったと思います。

他隊員の分析

参加意識を芽生えさせる工夫を

 私も隊員時代、自分が活動の主体となり過ぎ、同僚の参加意識が芽生えなかった経験があります。ポイントは「どこで同僚を巻き込むか」と「その巻き込み方」。何回か隊員主体で活動を行い、同僚から活動への理解を得たら、次の活動を考える際、仮に改善点がわかっていても、「もっと活動を良くしたい。一緒に考えてくれないか」と“わからないフリ” をして同僚に相談するのもひとつの手です。頼られることで、同僚に参加意識が芽生えます。そして成功体験は彼らの自信や、「活動を続けたい・より良くしたい」という意欲につながっていくと思います。
文=協力隊経験者
● アジア・青少年活動・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
県の学童施設にて、子どもたちを対象に日本語指導や歌の指導を行った。また、施設職員のスキルアップを目指し、同時期に派遣されていた他の隊員と協働し、各種教育研修を企画し、実施した。

待つことと動くことのバランス

 私も2年を通して継続的な活動を試み、何度も失敗し、悩みました。問題意識が持てないことは続かない、これは日本人の私たちも同じだと思います。現地の人が行動するのを待っていると時間がかかり、焦ることも多かったです。しかし、いかに彼らに問題意識を持ってもらえるかがキーだと気づき、彼らからの問題提示を待つようにしました。また、現地の人の本気度を測るため、お金を使う場面では少額ですが彼ら自身で払えるかを指標にしました。これにより、継続性のある同僚やグループを効率的に振り分けられ、活動がうまく進むようになりました。
文=協力隊経験者
● アフリカ・エイズ対策・2015年度派遣
● 取り組んだ活動
病院内のマネージメント強化(5S-KAIZEN)と、地域におけるHIV陽性者グループの石けんづくりによる収入向上、及び、ユースグループとHIV/エイズの予防啓発活動を行った。

天野さん基礎情報





【PROFILE】
福岡県出身。2011年から助産師として病棟勤務。17年3月、協力隊に参加。ホンジュラスの山村にて住民に予防啓発や健康教育などを行い、前任者からのプロジェクトである母子手帳の試験運用を開始。19年3月帰国。現在、進学に向けて勉強中。

【活動概要】
ホンジュラスの山村部の人々の健康意識改革のため、以下の活動を行う。
●思春期・妊婦・母親に対し若年妊娠や多産予防啓発、産前指導
●地域住民と医療者をつなぐ健康ボランティアに対しても同内容の講義
●同僚に対し、講義の目的や内容・方法の決定プロセスの指導 など

知られざるストーリー